観光業者の要望を無視して「GoTo」の延期を求める左派系3紙
◆二分された各紙論調
18日付読売「感染防止が最優先の課題だ」、朝日「立ち止まって見直しを」、産経「機動的な見直しが必要だ」、日経「経済再開は柔軟に加減速を」、21日付毎日「不安無視した見切り発車」、東京「延期を重ねて求めたい」、22日付本紙「感染防止策を徹底し柔軟に」――。
22日にスタートした政府の旅行需要喚起策「Go To トラベル」事業について、各紙が掲げた直近の社説見出しである。
見出しでもある程度分かるように、「Go To」の延期を求めたのは、朝日、毎日、東京の3紙。読売、産経、日経、本紙の4紙は延期は求めず、運用の見直しにとどめた。感染症と経済の両立の問題でも左派系紙と保守系紙で論調がはっきりと分かれた。
朝日が延期を求める理由は、社説冒頭で記した「これで不安が拭えるとは、とても言えない」である。
「これで」とは、「Go To トラベル」事業で東京都を対象から外したことだが、「問題の根底にあるのは、経済活動の再開を急ぐあまり、感染の実態から目をそらすかのよう」と政府の姿勢を批判した。
毎日、東京も同様。毎日が「国民の不安が収まらない中での見切り発車」「景気回復に前のめりで、…唐突に事業の前倒しを決めた」とすれば、東京は「国民の声を無視した強引な姿勢」という具合である。
確かに毎日が言うように、「唐突」ではあったが、それには理由があった。政府は8月上旬の開始予定だったが、観光業界から強い要望があったからで、政府が勝手に決めたわけではないのである。産経や本紙はそのことを指摘し、日経も直接的ではないにしても「コロナで大打撃を受けている観光業界の期待は大きい」と指摘。効果も考慮し、7月23日からの4連休に間に合わせたのである。
そうした事実を左派系3紙も知っているはずだが、それには触れない。観光業界も個人営業の土産物店から旅館、ホテルまで、これらの従事者も国民の一構成員のはずだが、その声は無視である。
◆やむを得ぬ東京外し
世論調査で毎日が実施の見送りは69%、東京は延期が約62%に上ったから、政府の実施決断は「国民の声無視」(東京)ということなのだろうが、少数意見を大事にする日頃とは正反対の姿勢である。
確かに、開始時期の変更や開始直前での東京外し、東京外しに伴うキャンセル料の補償なしから実損分補償への方針転換など二転三転のドタバタ劇を見れば、「予測の甘さ」(本紙)もあり、「見切り発車」(毎日)と言えなくもない。しかし、それこそ各紙が指摘する「感染抑止と経済再開を両立させることが、いかに難しいか」(読売)を浮き彫りにしたものであろう。
だからこそ、感染を抑え込みながら、観光事業者を救済するGo To事業を進めるために、東京外しは「やむを得まい」(読売)、「全国一律の運用を見直した政府の判断は当然」(産経)などとするのは尤(もっと)もで、本紙は「感染防止を徹底して徐々に成果を上げていきたい」と前向きに捉えたのである。
◆柔軟な運用で推進を
なお、本紙は今回の二転三転劇について、これまで経験したことのない課題に取り組む以上、試行錯誤や方針転換があるのは当然だとして、「問題は、さまざまな手段が、政治的な思惑やムードに流されず、合理的で適切な判断であるかどうかだ。さらに、それが迅速に実行されなければ意味がなくなる」と説いた。手前みそだが、各紙社説で最も的を射た指摘であった。
今回、朝日は「Go To」事業の「予算は自治体に移し、地域独自の観光支援策を後押しする」案を、毎日は「財源を地域に移した上で、まず近隣県への移動に絞り、段階的に広げていく」対応を、産経も同様に「自治体に対しても国が財政支援する仕組みを検討すべきだ」と提案している。
一理あるが、まずは「Go To」での柔軟な運用を図りながら、観光事業者の積極的な取り組みを促す方がより合理的であろう。
(床井明男)
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