ジーニアスが、頭にこびりついた結果·····。
「ウォォァァァァァッ!」
断末魔の叫びを上げたのはデス・ナイトではない。いや、これはそもそも断末魔の叫びではない。
これはある人物の叫び声だったのだ。
声の主は白髪白髪の老人。そう、"逸脱者"フールーダ・パラダインである。
「ど、どうした爺!?」
大方魔法に関する事だろうと思いながらジルクニフは尋ねた。
(しかし、今のどこに爺が驚く必要があるのだ? モモンが唱えた魔法はたしか第一位階魔法のはずだが·····第六位階を使えるのになぜ驚く·····)
一般的な魔法知識を持つジルクニフは不思議に思う。
「おおおおおっ……」
しかし、問いかけられたフールーダは、目を見開き悟を凝視したまま動かない。やがて、その両目からは涙が滝のように流れ出した。
「ついに·····ついに·····ウォォァァァァァッ!」
「じ、爺っ! どうしたおい!」
もはや気が狂ったとしか思えなかった。しかし。幸いなことにこの場で意識がある者は少なく、目撃者が限られるのはジルクニフとしては助かる。もっとも、それを見ているのが他国の人間というのは問題だが。
「あら、陛下はご存知ないかしら? あの魔法は使い手によって矢の数が変わるそうですのよ」
ラナーはとびっきりの笑み·····それも自慢気な笑みを浮かべている。
「·····つまり·····爺·····フールーダがあれだけ驚きおかしくなっているということは·····」
ジルクニフは答えに行き着いた。だが、にわかには信じ難いことだ。
(あの若さで、爺より上の
そして、目の前で十発の魔法の矢がデス・ナイトを包みこむように放たれ、そして·····一瞬の後にデス・ナイトの存在は消滅した。
「サトル、すっごーい! かっこよかったよー」
ラナーは悟に駆け寄ると、その首に抱きつき人目もはばからずに口付けた。
「ぷはっ·····ら、ラナー、人前で·····」
照れまくる悟からは先程までの頼れる気配は消えていた。今はただの愛妻家に戻っている。
「いいんですよ。だってかっこよかったんだもの·····あの口上もステキ」
皇帝のピンチを颯爽と救い、あっという間に撃退してしまう。最後の口上は中二病が再発したものであり、冷静に見たらかなり恥ずかしいような気もするが、似合っていた事は間違いない。
「あ、ああ·····」
振り返ってちょっと恥ずかしさを覚えた悟。
「モモン·····」
その悟にジルクニフが声をかけようとした時、それを遮るように前に出、凄い勢いで悟へと突進する人物がいた。
「ウォォァァァァァッ! か、神よっ!」
涙を流しながらとてつもない勢いで悟へ迫る!
「な、なんだっ!?」
「じ、爺っ!!」
そして、悟の前で勢いよくまず片膝をついた。
「よるなああああっ!」
ここで叫びとともに、黄金の閃光が走る!
「ぐぎゃっ!」
跪いた腿をラナーの左足のヒールが踏みつけた直後、右膝がフールーダの顔面を撃ち抜いた。
「ぶべらああっ!」
「私の悟に何するつもりよっ!」
ラナーは本人も気付かうちに所持している職業レベル·····ジーニアスのレベルをプリンセスから武闘家に置き換えて一撃を加えたらしい。
そして、これは誰も知らないことだが、ジーニアスこそこの技に相応しいのだが、その事は今後も誰も知らないままだろう。
ラナーの愛が悟の身の危険を察知したのか、女としての嫌な予感が働いたのかはわからない。結果として気狂いしたようなフールーダの暴走が止められたのは確かだった。
このお話は、サトラナのラブコメ風の何か·····なんです。
ジーニアスが頭から離れなくて、この技が生まれました·····。
何時もは暇な月なのに、何故か繁忙期より忙しい·····謎です·····。