挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第三章 聖女編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
104/225

第九話 小さな襲撃者


 ヒナタの希望により、教会の関係者を含めスラム街で炊き出しをすることになっていた。

 王城へ迎えに行き、朝からカインとヒナタは教会へと馬車で向かった。

 いくらエスフォート王国は栄えているとはいえ、やはりスラムは存在する。孤児院にはいっていない者や就業できずに道の片隅に座り込んでいるもの。

 そんな者がいる中、馬車は進んでいく。

 炊き出し場所に到着すると、すでにシスター含め協力者数人が炊き出しの準備を行っていた。

 ヒナタは手伝いをするために、ローブの腕を捲り上げその中へと入っていく。

 カインは護衛のために同行しているため、近くでヒナタの姿を見守っていた。

 野菜や肉を大きな寸胴で煮込み、器とスプーンを用意していく。

 炊き出しが始まると、ここまで人がいたのかというほどゾロゾロとスラムの住民が集まってくる。

 衛兵が列の案内をし、スラムの住民を誘導していくが、あまりの多さに驚くしかなかった。ドリントルの街も小規模とはいえスラムはあった。今は闇ギルドの解体、職業斡旋と孤児院、集合住宅や学園を建てたことによりすでに生活に苦悩することはなくなっていた。

 しかし数千人が住むドリントルとは違い、王都は三十万人が住むと言われている巨大都市だ。莫大な予算と人員が必要となり、そこまで簡単にできることではないだろう。

 ヒナタはいくつも並んだ寸胴の前に立ち、自ら寸胴から器に料理を移しスラム街の住民たちに手渡していく。その姿に涙を流し感謝する者たちが後を絶たなかった。

 まだ料理を受け取るための列は数十人と続いている。

 カインがその姿を眺めていると、衛兵が二人カインに向けて走ってきた。

 少し息を切らした衛兵は、カインの近くによると、息を整えるために大きく深呼吸し、カインに話し掛けた。


「シルフォード子爵でしょうか。王城から至急呼び出しが掛かっております」


「たしかに僕がそうだけど……、今は聖女様の護衛の役目ですよ」


 カインは聖女の護衛という役目でこの場所にいる。今、呼び出しされる理由がわからなかった。


「そうなのですが……、コルジーノ侯爵からシルフォード子爵を呼ぶようにと……」


 コルジーノの名前を聞き、カインは顔を(しか)める。

 下級貴族である子爵にしか過ぎないカインは、普段なら上級貴族である侯爵に呼ばれれば従うしかなかったが、カインには王命を受けて聖女の護衛をしていることで断るつもりでした。


「悪いけど、今はいけない。聖女様を送りにいく時でいいかな」


 カインはそう答えるが、衛兵は申し訳なさそうな顔をし、「必ず連れてくるように」と言われていると懇願を始めた。

 そんなやりとりをしていると後ろから声がかかった。


「カイン殿王城に呼ばれているとのこと。聖女様の護衛は私たちで十分だ。行ってくるとよい」


後ろから声を掛けたのは護衛隊長だった。邪魔者は消えて欲しいような顔をしている。


「そう言われても、私は今は護衛の身ですから……」


「では、私たち護衛が信じられないと? 教国の誉れある護衛隊では聖女様を守れないと言うか」


「―ーわかりました。少しの間だけ外します。その間よろしくお願いします」


  カインは仕方なく頷き、王城に向かうことにした。


「今から王城に向かう。悪いけど聖女様の護衛で数人の衛兵を集めてくれ。聖女様に何かあったら問題だから」


 衛兵が頷き、一人が応援を呼びに行った。カインはヒナタに王城に呼ばれたから一度外すと説明をし、馬車に乗り込み王城へ向かった。

 三十分ほどで王城に到着し、メイドの案内でコルジーノ侯爵の執務室に向かう。扉がノックし、メイドが用件を伝えると中から「入ってよろしい」と声が聞こえたため、扉が開かれメイドは横に待機した。


「どうぞ……」


 メイドに声を掛けられ、カインはコルジーノの執務室に入った。

 執務室は豪華な装飾品が到るところに置かれている。とてもいい趣味とは思えないが成金には好まれる趣向になっていた。


「カイン・フォン・シルフォード・ドリントルです。コルジーノ侯爵閣下、何か御用とのことで……」


 執務室でふんぞり返っていたコルジーノ侯爵が、ニタリと笑い手招きをする。

 ソファーに案内されたカインは真ん中に座り、その対面に重そうな身体を抱えコルジーノ侯爵が座った。


「カイン卿、今日はお願いがあってだね……。あのカイン卿が懇意にしているサラカーン商会が売っているグラスをだね……なんとか欲しいんだよ。ワシの妻が他家に行ったときに見せてもらったらしく、どうしても欲しいとせがまれてな。なぁどうにかならんかのぉ」


 聖女の護衛を途中退出までして王城まで赴き、大事な用件かと思ったらくだらない事だと知ったカインは絶句した。

 こんなつまらない用件のためにカインは護衛を外れたかと思うと次第に機嫌が悪くなっていく。


「申し訳ありませんが、売られている物にも数の限りがあります。予約していただければ出来上がり次第ご連絡がいくと思いますが……」


 いくら不機嫌になったとはいえ、相手は上級貴族だ。無碍にも出来ず丁寧な返答を返していく。


「それがだな、侯爵家の名前を使っても予約は数ヶ月待ちだ。ひとつ金貨一枚もする物にだ! たしかにあのグラス製品は素晴らしい。だからこそ上級貴族が使うものであろう? なぁカイン卿」


「完全に販売につきましては、商会に任せておりますので……」


 それでもコルジーノ侯爵はカインから引き出そうとする。


「カイン卿も、ある程度は商会に卸していないものを持っているであろう? それを少し分けてもらえればよいのだ。これから領地を治めるのにも何かと私が助言してやろう」


 次第に高慢になっていくコルジーノ侯爵にカインは顔を引きつらせていく。たしかにカインのアイテムボックスの中にはまだグラスが仕舞われている。これは定期的に国王に献上するものであり、そう簡単に出せるものではない。あったとしても嫌悪を抱いているコルジーノ侯爵にまず出すことはない。

 ただ、現状聖女の護衛の任務をしている最中にこの場で長く居るわけにもいかないと、カインは思い出したかのようにアイテムボックスの中から一つの箱を取り出し、テーブルの上に置いた。


「これはペアのグラスになります。これだけならお譲りすることができます」


 コルジーノ侯爵は目を見開き、期待した手際で箱の蓋を開けた。

 そこには赤の模様が入ったグラスと青の模様が入ったグラスの二つが入っていた。

 そのグラスの美しさにコルジーノ侯爵は目尻を下げる。


「おぉ! これだ! カイン卿感謝する。金貨二枚すぐに用意する」


 重そうな身体を起こし、自分の執務机の引き出しから小袋を持ち出し、そこから金貨を二枚だした。


「これで妻からも文句を言われずに済むぞ。感謝する」


「いえいえ、これくらいしか出来なくて申し訳ありません」


 カインは受け取った金貨を懐に仕舞いこむ。


「それでは、私は聖女様の護衛があるのでこれで失礼いたします」


 早々に護衛に戻るために、カインは席を立つ。

 上機嫌となったコルジーノ侯爵の部屋を後にし、一息つく。

 コルジーノ侯爵に渡したペアグラスは、屋敷のお披露目会にきた来客にお土産として振舞った物だった。コルジーノ侯爵親子は国王の怒りを買い早々に逃げ出したことで渡してなかった。

 思い出したカインは早く護衛に戻るために、渡していなかった物を今になって渡しただけなのだ。しかも金貨二枚という対価をもらう形で。

 カインはヒナタの護衛に戻るため早々に王城を後にした。



 また馬車で三十分掛け炊き出し場所に戻っていく。近づくにつれ人並みの動きがおかしいことにカインは気づいた。

 器を持ったまま逃げるような者もいる。カインは馬車から降りて人混みを掻き分け炊き出し場所へとついた。



 ――そこには横たわるヒナタがいた。


 カインはその場に駆け寄る。


「どうなってるんだ!?」


 護衛をしていた衛兵たちにカインは怒鳴りつけた。


「良くわかりませんが……子供が走ってきたと思って聖女様に少し触れたと思ったら、少ししてからいきなり倒れられました」


 カインはヒナタを抱えると『ハイヒール』をかけた。

 それでもヒナタの意識は戻らない。


「教会に運ぶぞ! 僕の馬車を持って来い!」


 カインは衛兵に怒鳴りつけると、衛兵はカインが乗ってきた馬車へと向かい走っていく。

 そして馬車にヒナタを乗せようとするカインの道を阻んだ。


「これはこの国の失態だな……どうしてくれるのだっ!」


 怒りをあらわにする護衛隊長を無視し、カインは馬車を出発させた。

 炊き出し場所から五分ほどで教会につき、カインはヒナタを抱いて中に入る。そして用意された部屋のベッドに寝かせつけた。

 回復魔法をかけても一向に青白い顔をし、意識の戻らないヒナタに、部屋に駆けつけた司教が症状を見て顔を青ざめさせる。


「まさか聖女様が……。こんなことになるなんて……」


「司教様、回復魔法をかけても一向によくなりません」


 焦るカインに司教は首を振る。


「これは毒かもしれません……。私が『解毒(キュア)』をかけてみましょう」


 司教が解毒魔法をヒナタに掛けるが一向に顔色は戻らなかった。


解毒(キュア)でも効かない毒なんて……」


 絶望した顔をしている司教を余所に、カインは人にはあまり使わなかった鑑定を掛ける。



『鑑定』


 ステータス


 【名前】ヒナタ・リラ・マリンフォード

 【種族】人間族 【性別】女性 【年齢】十歳

 【レベル】3

 【体力】30/190

 【魔力】920/980

 【能力】D

 【称号】 聖女

 【魔法】

   聖魔法Lv.5

   生活魔法


 【スキル】

   礼儀作法Lv.5 聖女Lv.5


 【加護】

   創造神の加護Lv.3

   生命神の加護Lv.5


【状態】

   デルポネの毒


 毒であることを確認したカインはデルポネの毒について司教に尋ねた。


「司教様、デルポネの毒って知っていますか?」


 その言葉を聞いた途端に司教の顔は青ざめていき、そして諦めた表情をした。


いつもありがとうございます。

ネット小説大賞公式にて書影公開記念ということで、本日一話投稿させていただきました。

今後ともよろしくお願いいたします。


追記。一部見直しをしており、少し文章を変更しております。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。