第七話 神々の世界
ネット小説大賞のサイトにて書籍化に伴うキャラクターデザインは公表されました。
主人公「カイン」と王女「テレスティア」が出ております。
http://www.cg-con.com/novel/publish/5_tensei.html
聖女であるヒナタが真っ白な世界に困惑している。
教会で祈りを捧げていたはずが、いきなり神々の世界にくることになれば仕方ないだろう。
カインもまさかヒナタが同時にこの世界に来るとは思ってはおらず目を見開いて驚いた。
「ヒナタよ。貴女もここに座りなさない」
生命の神であるライムがヒナタに優しい声で話しかけた。
「そ、その声は……もしかして……」
ヒナタもその声には聞き覚えがあり目を見開き声の主の方を向く。日々祭壇で祈りを捧げ、稀にある神からの神託の声であったからだ。
目の前にいる者達が神々だと理解すると、思わずその場でヒナタは土下座をしてしまった。
「ヒナタ、ライム様もこう言ってるし席に座ろう」
カインはヒナタの側に寄り声をかける。ヒナタはその声に顔を上げカインであることを確認し頬を緩ませる。
「――わかりました」
勧められるまま恐る恐るカインの隣に座った。
「貴女の信仰心は私たち神々にまで届いておりました。今回はカインと一緒だったのでこの世界へ案内させてもらいました」
「はい……ライム様。このような機会を設けてくださりありがとうございます」
深々と頭を下げるヒナタは、未だに緊張は解けておらず、ライムからの言葉に注意深く耳を傾ける。
カインはこの神々の世界には何回か来たことがあるが、今までと違って引き締った顔をした神々に何かあるのかと思い、ライムの言葉を聞いていた。
「あ、そうだ。カイン、ありがとうな。おかげで楽しませてもらっているぞ」
そんな雰囲気を壊すかのように技能神であるグリムが口を挟んできた。
手元には試作品で作ったリバーシが置いてあった。奉納時に消えた物であろう。
「そうそう、グリムと二人でいつも楽しんでいるよ。結構奥が深いのな……。今の所2278戦1140勝だよ」
パナムは笑顔で言うが、その声にグリムが口を挟む。
「違うだろ! 1139勝のタイの筈だ!」
それだけの回数を重ねて、数まで数えていることにカインは驚きを隠せない。
「ちょっと静かにせんか」
今まで存在感が全くなかったゼノムが声をかける。
「一番弱いやつが口だすなっ!」
創造神の威厳も全く関係なく、グリムに罵倒される。
創造神なのに一番リバーシが弱いということにカインも驚いた。
「なんだとっ! ワシはお主達のために手を抜いてるだけじゃ!!」
三人の神々がいがみ合う中、ライムはヒナタに話しかける。
「この人たちは放っておいてください。貴女はこの視察の間、何度も命を狙われるかもしれません。その
時は隣にいるカインに助けてもらいなさい。きっと助けてくれるはず……それとね……ちょっと二人で話をしましょう」
ライムが席を立ち、少し離れたところでヒナタを手招きする。言われるがままヒナタはライムの元に向かった。
「全く仕方ないわね……。カイン、魔法はどう? 楽しい?」
魔法神レノが三人を横目に話しかけた。
「はいっ! 楽しいですよ。大規模な魔法は色々と問題があってできませんが……」
「星が壊れるようなことをしなければいいわよ。あなたの威力じゃ手加減しないと色々とあるだろうしね……」
加護Lv.10を与えてしまった手前、カインの事をよく見ていた。人間からしたら許容範囲を超えているが、レノからしてみたら楽しませてもらっていた範囲に収まっていたのだ。
「それにしても魔法の種類についてあまり載っている書物がないので、ユウヤさんの帝級書は見ましたけど他にないんですね……」
国王から預かっている帝級魔法書は全て読み、すでに使えるようになっていた。ただ、この世界に生まれ前世のラノベ好きが講じて魔法に関しては貪欲になっていたことで物足りなさを感じていた。
「――仕方ないわね。私からこれをあげるわ」
レノが黒のローブの間から一冊の本を出してテーブルに置いた。それは真っ黒な表紙で厚さが十センチ程だろうか。表紙には何も書かれていない分厚い本だ。
「これは……」
「――想像していると思うけど、神が使う魔法よ。あなた達の世界では神級魔法と言われているものね。ただ、載っているものによっては大災害になるの。天災とも言われるほどにね。カインなら大丈夫だと思うけど……」
初めて見る神級魔法書にカインは目を輝かせる。無理もない。目の前にはこの世界の魔法書の頂点ともいうべき物があるのだから。
「あなたには
「はいっ! ありがとうございます。大事にします」
目の前に置かれた魔法書を胸に抱き込み、満面の笑みを浮かべる。やはり新しいものへの探究心は少年には堪らないものだった。
三人の神々は未だに罵倒合戦をしており話にならず、レノと雑談をしているとライムとヒナタが戻ってきた。ヒナタの顔が心持ち赤くなっているような気がしたが、カインは気にする事なく話を続けた。
ヒナタはまたカインの隣に座る。
そしてライムに諭され、三人の罵倒合戦がやっと終わった。
ゼノムは居心地悪そうな顔をしながらカインに話しかけた。
「悪いとこを見せたな……。カインよ、お主の力量はすでに神の領域に踏み込んでおるが、未だに足りぬ。修行を怠らぬようにな。あと……本当はワシが一番強いからな」
「まだ言うかっ! この雑魚がっ!」
「そうだっ! まともに勝てた試しが無いくせにっ!」
ゼノムの一言がまた二人の神を刺激したようだった。
「カイン、この人たちは気にしないで。ヒナタのことを守ってあげてね。そろそろ時間よ。またそのうちね……」
ライムの言葉の後に視界が真っ白に染まっていく。気付いたときにはすでに教会の祭壇の間に戻っていた。
ヒナタも戻ってきており、お互いが目を合わせる。
「カイン様はいつもあのように神々と会っていらっしゃったのですね……」
「うん……いつもはもっとまともなんだけどね……」
カインが送ったリバーシの所為で神々が揉めている事に苦笑しながらも頷いた。
祭壇の間を後にし、一度、教会の応接室を借りる事にした。ヒナタがシスターに声を掛けたのだ。
シスターも聖女と崇められるヒナタに頼まれたことに高揚し、意気揚々と案内を始めた。後ろをついて行くが心持ちスキップしているような軽快な足取りで歩いているようだった。
カインとヒナタが対面に座り、シスターは紅茶を用意し各自の前に置いた後、一礼し退出していった。
「それにしても本当に驚いたよ。まさかヒナタも神々の世界へ一緒に行くことになるなんて」
「私も初めての経験でありました。いつもは祈りを捧げていると、ライム様からの声が聞こえていたのです。実際にお会いすることができて幸せです。これも――カイン様のお陰ですね」
いつも神託を託されていたライムと実際に会えたことにヒナタは高揚しながら答える。
「あと……聞きたかったんだけど、使徒ってヒナタ以外が見てもわかるの?」
カインが神の使徒であることは、限られた人たちしか知らない。もし、誰かがカインを見て使徒だと分かってしまったら大問題になると思っていた。
「それはわかりません……。私から見たカイン様は神々しいオーラを放っていましたのですぐに分かりました。この国の司教様でも気付いていないということは、もしかしたら教皇様でないと気付かないかもしれませんね。教皇様でも気付くかは不明ですが」
ヒナタの言葉を聞きカインはホッとした吐息を吐いた。教皇に会うことはマリンフォード教国に赴かない限りあり得ない。今後、行く必要が出てくるかもしれないが、今の所予定はない。
三十分程度応接室で二人は話し、その後教会を後にした。
教会の外で護衛をしていた、教国の護衛隊長は不機嫌そうな顔をし、二人を出迎えた。
「随分時間が掛かりましたね。二人で密会などはご遠慮して欲しいのですが……」
ヒナタから何かしらの情報が流れることを警戒しながら護衛隊長は苦言する。
「私が神々に祈りを捧げていたのです。あなたにそう言われる筋合いはありません」
キリっとした表情をしたヒナタが護衛隊長のことを咎める。
「これは聖女様……申し訳ございません」
ヒナタに咎められた護衛隊長は、機嫌が悪そうに謝罪をした。
「私にではありません。シルフォード卿にです」
「それは……」
護衛隊長はヒナタの言葉に顔を顰める。
「聖女様、私のことは気にしないでください。隊長も聖女様を心配なさっての事ですから……」
これ以上この場で揉めても仕方ないと考えたカインは、護衛隊長に問題ないことを告げる。
カインの言葉に謝罪をしなくて済んだ護衛隊長はホッとしたが、ヒナタは厳しい表情をし言葉を続けた。
「あなたは神に使える騎士でしょう。そんな気持ちで教会騎士をしているなど聖女として恥ずかしいです」
ヒナタの厳しい言葉に護衛隊長は顔を歪める。
「……シルフォード卿申し訳なかった……」
嫌々そうな顔をしながらも、護衛隊長はカインに頭を下げる。
「隊長、私は気にしておりませんから……」
カインは護衛隊長に声を掛けてからヒナタと馬車に乗り込んだ。
二人が馬車に乗り込んだあと、顔を上げた隊長の表情は、今までに見せたことがないほど憎々しいものとなっていた。
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