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転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第三章 聖女編

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第五話 王都へ


 次の日。王都へ向かう日になった。

 ヒナタと朝食を一緒にとる事になったが、昨日の夜の表情は見せず、乏しい表情のまま相変わらず相槌をうつばかりだった。

 カインは状況がわかっているので気にしてはいないが、持て成したラグナフは気が気ではない。

 粗相があって不機嫌になっているのではないかと、疑心暗鬼に陥りながらも聖女に話しかけ続けている。

 ラグナフのことを気にしてカインも話し掛ける。


「聖女様、エスフォート王国以外にも行かれたことがあるのですか?」


 ラグナフの話を聞いている時とは違い、途端に笑みを浮かべながら返事を返す。


「カイン様、エスフォート王国が初めてです。神からの神託で選ばせていただきました。お陰でこうしてカイン様にも――」


「そ、そうですか。私も国内から出たことがありませんので、いつかは諸国を巡ってみたいです。まぁ今は領主をしているので簡単にはいきませんが……」


 ヒナタの言葉に被せるようにカインは答えた。カインの言葉には笑顔で反応するヒナタにこれ以上話をさせると、ラグナフからの嫉妬の視線がさらに強くなると感じられたからだ。

 そんな緊張感の中、食事を終え王都へ向かうための出発の準備をする。カインは自分の荷物は全てアイテムボックスに入っており常に手ぶらだが、シルクの着替えを含めた荷物がかなり多かった。一度「アイテムボックスに入れて運ぼうか?」と聞いたが、断固として拒否された。やはり女性だからこその照れだったのかもしれない。

 ラグナフはこの場での見送りのため、カインとシルクが乗る馬車が先行し、その後を、ヒナタを乗せた馬車が続いていく。

 出発前にシルクから「聖女様も同じ馬車でどうですか」と聞いてみたが、ヒナタが返事を返す前に、護衛隊長が一歩前にでて拒否の意向を示した。やはり馬車の中でヒナタが何かを話すかもしれないと踏んだのだろう。

 ヒナタの視線はカインを追うが、こればかりはどうにもならない。

 シルベスタ領で積んだ食材を乗せた馬車が一番後ろにつき、ゆっくりとシルベスタの街を出発した。

 街の入り口までラグナフはお見送りとして同行した。やはり熱心な信徒だからであろう。


 馬車はこれから二日間かけて王都へと向かう。


 ヒナタから伝えられたことを考えると、これから油断せずに進んでいく必要があった。

 戦闘においてはステータスを含め、すでに人外となっているカインにとっては問題ないが、教皇派はどんな仕掛けをしてくるかと考えながらも馬車は進んでいく。


 街を出てからすでに三時間が経過し、太陽はすでに天高くあがっていた。昼食の準備をするために馬車は街道から外れたところに停め、従者は忙しく動き回る。

 カインは昼食に使う食材を鑑定していくと、その一つに毒性のあるものがあった。


「この食材は?」


 従者に聞くが積んだ食材については把握しておらず、首を傾げる。

 燻製にされた肉を取り出しそのまま地面に置き、いきなり魔法を使って焼いた。青白い高温の火が一瞬にして食材を消し炭にする。

 従者たちはいきなり魔法を放ち、食材を焼いたことに驚きながらも、貴族当主の行動に文句を言えるはずがなく、残った食材で料理を始めていく。

 シルクのところに戻るとカインの行動は奇異に思えて質問がきた。


「カインくん、さっきのは? 肉はそこまで積んでないのに燃やしちゃうなんて……」


「シルク、ちょっといい? 話したいことがある」


 護衛隊長から少し距離をとり、カインはシルクの耳元で囁く。


「さっきの食材、毒が入っていた。鑑定を使ったから間違いない。何者かがこの集団のことを狙っている」


 護衛隊長とは言わない。何故なら証拠もなく糾弾すれば、国家問題に発展する可能性もあるからだ。もちろんヒナタから言われたことも。いつ話したのかと疑問に思われたら、隠せる自信もなかったからだ。


「えっ!?本当に!?」


 驚いたシルクの唇を人差し指で押さえ、カインは無言で頷く。

 そして小さい声でさらに言葉を続けた。


「何があっても守りきるけど、もし僕がいない時に何かあったら、前に渡したネックレスの石を握って魔力を流すんだ。きっと守ってくれるから」


 シルクは服の中からネックレスを取り出して見つめる。


「うん、わかった。カインくんが助けてくれるのが一番だけど」


 微笑んだシルクはまたネックレスを服の中にしまい込む。


 何事もなかったように全員が昼食を食べ始めた。マリンフォード教国の護衛隊長含め数人は周りの警戒をするといい干し肉を囓りながら、食事の輪を外れていった。


「これは確定かな……」


 カインは小さい声で呟く。そして次第に怒りが込み上げていく。

 毒を使うということは、ヒナタを含め一緒に食事をとる者たちも毒殺するつもりなのだ。その中にはシルクも含まれる。カインは耐性があることで問題はないが、他のものは生きてはいられなかったであろう。

 カインは警戒にあたっている護衛隊長を遠目で睨みつけた。


 食事が済んだ頃、何食わぬ顔で護衛隊長含め数人が戻ってくる。食事を済ませ出発の準備に取り掛かっている従者たちを見て、苦虫を噛み潰したような顔をする。


「護衛隊長殿、何かありましたか?」


 カインは何食わぬ顔で護衛隊長に話しかける。


「い、いや、何でもない。周りには魔物の気配はない」


 その一言だけ言ってカインから離れていく。


 カインはその後ろ姿を見ながら誰にも聞こえない小声で呟く。


「絶対にお前の思い通りにさせてないからな……」


 出発準備が整い、馬車は進み始める。街道は森に沿って通っており、森の中には少なからず魔物はいる。だが探査(サーチ)を使い、辺り一面の魔物の動きは把握しており、この集団に向かってくることはないとわかっていた。


 一時間ほど馬車は進んでいくと、森の魔物の行動がおかしいことにカインは気付いた。

 数十だろうか、森の奥から馬車に向かって進んでくることが感じられた。カインは即座に馬車を停めるように指示を出す。

 いきなり馬車の中から怒鳴りつけるような声に驚きながらも御者は馬車を道端に停めた。カインはシルクに馬車の中にいるように指示し、一人馬車から飛び降りる。

 先頭の馬車が停まったことで、後ろの馬車も続いて停まった。カインは自国の近衛騎士たちに戦闘準備を促した。


「森から魔物が集まってきている。すぐに馬車を森から遠ざけ戦闘準備をするんだ!」


 カインの言葉に近衛騎士たちは馬を降り、退避させたあとに剣を抜いた。

 いきなり戦闘準備をとったことで、聖女の護衛たちは焦りを覚える。


「護衛隊長! 魔物が近づいてくる。すぐに聖女様の馬車を退避させろ。護衛以外は一緒に退避だ。戦闘は私たちが行う。あなたたちは聖女様を守ってくれ」


 カインの言葉に真意を疑いながらも、馬車を退避させ戦闘準備を開始した。


 そして五分後。


 森の奥から集団が行動するような音が聞こえてくる。

 カインが先頭に立ち、その後ろを近衛騎士たちが一列に並ぶ。カインの武力は近衛騎士団長であるティファーナとの模擬戦を見ているので誰も何も言わない。

 逆に子供を先頭に立たせて近衛騎士が後ろに並んでいることに、マリンフォード教国の護衛たちは、小言ながら「何故、貴族とはいえ子供が先頭に……」と呟いていた。


 そして、最初に出てきたのは森狼(フォレストウルフ)の集団だった。数は二十程度であろうか。森狼(フォレストウルフ)は森の中に集団で住み、素早い動きで獲物を仕留めていくことで有名だが、わざわざ森から出ることはない。カインはそんな事を考えながらも魔法を放つ。


真空刃(エアカッター)


 無詠唱で唱えた魔法が魔物達を次々と葬っていく。

 次々と出てくる魔物を始末していくが、とめどなく魔物が森から出てくる。


「何かおかしい……」


 カインは後方で聖女の馬車を護衛している隊長たちを睨みつけた。


「一人、護衛のところにいって変なものを持ってないか聞いてきてくれ。これはあまりにもおかしい」


 カインは森から出てくるゴブリンやオークなどを次々と葬っていき、すでにカインの周りには魔物の死骸で小山が出来上がっていた。


 聖女の護衛に問いただしに行った近衛騎士が戻ってきた。


「カイン様、わかりました。魔物避けの香を使ったみたいですが、その中の一つが魔物寄せの香でした。もう処理をしたので大丈夫です」


 魔物避けの香とは、商人たちが行商の際に魔物に襲われないように持ち歩く香だ。そして魔物寄せの香は、魔物が少ない地域で冒険者達が経験値を稼ぐために使われる香であり、このエスフォート王国には魔物が住む森が多くあるために使われることはない。この国で魔物寄せの香など使ってしまったら、このような状態となる。


 カインは近衛騎士の報告に頷き、後に続いてきた魔物を始末していく。いくらランクの低い魔物であれ、ここまで多くの魔物に襲われたらカインがいなければ甚大な被害を被っていただろう。一時間弱の戦闘は終わり、すでに森から出てくる魔物はいなくなった。

 カインの周りには魔物の死骸の山がいくつも出来上がっている。


「そろそろ終わりかな……」


 カインが振り向くと、何もすることがなかった近衛騎士たちが唖然としている。


「俺たちいらなくね……」

「あれだけ魔法を放ちまくってなんともないぞ……」

「カイン様、剣すら抜いてないぞ……」

「団長より強いってのが良くわかったわ……」


 そう呟いている近衛騎士たちに、カインは少しの間、警戒するように指示を出し、聖女を守る馬車に歩み寄る。

 カインの魔神のような強さに聖女の護衛たちは、抜いたままの剣を持ち恐怖で震えながら一歩一歩下がっていく。


「もう魔物の殲滅は終わりましたから問題ありません。それにしてもなぜ香を?今まで必要なかったでしょう」


 従者を含め危険に晒したことでカインは怒っており、怒気を含んだ声で問いかける。


「す、す、すまない……。念には念を入れたつもりだったのだが、教国から持ち出した物に混ざっていたのだ。特に悪意はない。教国に戻ったら然るべく在庫管理者の処分を行う。こんな危険に晒したのだからな」


 間近でみたカインの鬼のような武力に、護衛隊長も震えながらそう答えるしかなかった。


「――わかりました。これからは余計なことをしないでください」


「――それにしてもカイン卿はあれだけの魔法を放って問題はないのか?」


 恐る恐る護衛隊長はカインに問いかけた。


「あれくらいでしたら問題ありません。ただ、私がいなかったら近衛騎士たちにも少なからず被害があったかもしれません。もしかしたら全滅の可能性もありました。良く理解してください」


「……わかった」


 カインは言いたい事を告げたあと、また近衛騎士たちのところに戻る。


「待たせたね。じゃぁ、この魔物の死骸を持ち帰ろうか。戻ったら騎士団の収入にすればいい」


 カインの言葉に近衛騎士たちは歓喜する。これだけの魔物の素材があれば、いくら低級とはいえ、それなりの金額になる。カインは次々とアイテムボックスの中に仕舞っていき、あれだけいくつもの山になっていた魔物の死骸は十分後には何もなくなっていた。


 近衛騎士たちはカインがアイテムボックスを持っている事を知っていたが、教国の護衛たちは初めて見る光景に唖然としている。

 これだけの量を仕舞うことのできるアイテムボックスを使うのには、膨大な魔力を持たないと同じ事は出来ない。

 自国の筆頭魔術師でも同じ事は出来ないであろう。

 護衛隊長はそんなカインの姿に何も出来ずに眉間にシワを寄せる。

 準備が終わったことで、カインが出発の合図を行い、馬車は進み始めた。


「カインくん、オークの時も格好良かったけど、さっきも素敵だったよ」


 カインの戦闘を見て興奮しているシルクの言葉に、カインは照れ隠しで頭を掻く。


 そしてその後は戦闘のイメージが残っているのか、護衛隊長からの妨害も受けず二日間の日程をこなし王都に到着した。



いつもありがとうございます。仕事帰りにファミレスで執筆したら思ったより筆が進んだので早めに更新してみました。校正作業もしないといけないですが、週1くらいは更新できるように頑張ります。


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