災いを好機に転換する欧州の理性が試されている。揺らいでいた結束を、再び固める節目にしなければならない。
新型コロナウイルスで世界経済が打撃を受けるなか、欧州連合(EU)が域内のための「復興基金」の設立を決めた。
総額は7500億ユーロ、日本円で約92兆円。27カ国の首脳らが集い、足かけ5日をかけて合意にこぎつけた。
EU内にもたらされた感染と経済の痛手は、国によって濃淡がある。ドイツなどは早期の都市封鎖や充実した医療態勢で被害を抑えたが、イタリアを含む南欧などでは医療崩壊で多数の死者が出た。
もともとEU内には、日ごろから倹約に努め、お金を稼ぐ力の強い国と、そうではない国との格差がある。今回の首脳会議が紛糾した主な理由も、オランダやオーストリアなどの「倹約国」が、イタリアやスペインなどに与える返済不要の巨額補助金に難色を示したからだ。
それでも最終的に、強い国々が弱い国々に手をさしのべ、前例のない規模で共通利益のためにまとまった意義は大きい。
約10年前、ギリシャに端を発した債務危機では、南欧とドイツなどとの間で論争が起きた。緊縮財政を強いられた債務国では、反EU感情が高まり、ポピュリズム政党が台頭した。
ことし1月にはEUから英国が離脱し、初めて加盟国の縮小を経験した。中東欧では、中国が大型投資の支援を掲げて、存在感を増している。
遠心力が強まるEUにとって、今の危機は対応を誤れば致命傷になりかねない。いつもは財政規律に厳しいドイツのメルケル首相が「夏の間に合意をまとめる以外、考えられない」と訴え、フランスと共に基金を推し進めたのは、EU全体が地盤沈下しかねない危機感を抱いたからだ。
復興基金の正式名は「次世代のEU」という。原資としては、EUが市場から借金をする共通債券を発行する。それは将来的に「欧州共通予算」による財政統合へ向けた一歩になりうる。この緊急措置が醸す「一つの欧州」としての連帯の機運を大切にしたい。
一方、今回の会議では、一部の東欧諸国を念頭に「法の支配」の問題も取り上げられた。EU予算の配分基準のなかに、その順守を条件付けようとする主張があったが、ハンガリーなどが強く反対し、具体的な仕組みづくりは見送られた。
自由と民主主義や多国間協調は、EUが体現してきた貴重な価値観だ。その基本を変えずに結束を固め、統合を深化していくことが求められている。
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