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転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第二章 少年期編

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第三十五話 襲撃事件その後1(12/9修正)

  長い夜が明けた。


 昨日の襲撃もあり、寝不足を感じながら、カインはベッドから起きあがる。

 カーテンを開け、身体全体で日光を浴びながら、眠気を飛ばしていく。

 カインは寝間着から服を着替え、すぐに寝室を出て、エナクたちが寝ている部屋に向かった。

 ノックをし、カインであることを告げると、すぐに扉が開いた。

 出迎えてくれたのはエナクだった。


「……エナク、良かった。目を覚ましたんだね」


 カインの中では安堵感が広がった。

 眠っているエナクをダッシュに渡したため、起きているのか心配だった。


「カインお兄ちゃん、朝の挨拶は「おはよう」だよ」

「うん、そうだね。おはよう。エナク」


 エナクに諭され、カインは頭を掻きながらエナクに挨拶をした。


「カインお兄ちゃん、おはよう! 入っていいよ! って、ここお兄ちゃんの家だったね」


 エナクの元気な挨拶で、カインは笑顔が自然に出た。

 エナクに促され部屋に入ると、ダッシュもヒミカをすでに起きていた。

 服は襲われた時に、ボロボロになってしまったため、朝一番で、メイドたちが用意してくれたみたいだ。エナクを含め三人とも小奇麗な格好をしていた。


「ダッシュさん、ヒミカさん、昨日は僕のせいで、ご迷惑おかけしてすいませんでした。宿のほうの修繕は、こちらでやらせていただきますので、それまでこの部屋でゆっくりしてください」


 カインは三人向かって頭を下げた。


「頭を上げてください。領主様がそんなに簡単に、平民の私たちに頭を下げてはいけません」

「カイン様には助けていただきましたし。エナクも無事でしたし、私たちはそれだけで十分です」


 エナクだけでなく、二人にも諭されたカインは頭を上げた。


「二人共ありがとう。これから、この街を良くするように頑張るよ。みんなが住みやすい街にすることを約束する」


 カインの言葉に二人が頷いた。

 その後、皆で朝食を取った。貴族の食卓で食事をするのが初めての二人は、緊張しながらも食を進めている。エナクは美味しい料理に喜びながら食べている。


「カインお兄ちゃん! これ美味しいね! もっと食べたい」

「うん。じゃぁお代わりしようか」


 カインは、そっと給仕のメイドに目を合わせると、メイドは無言で一礼をし、新しくよそった皿を、エナクの前におく。優秀なメイドが揃っていることでカインは安心する。


「僕は今日、これから出掛けないといけない。王都にもいく必要があるから、多分、今日は戻れないかもしれない。少しの間、自分の家だと思ってゆっくりして欲しい」


 カインの言葉にダッシュとヒミカは恐縮しながらも頷いた。エナクはカインがいないことで、少し寂しそうにしてた。ダッシュもこれから宿泊客に説明をしなければならない。ヒミカとエナクが屋敷に残り、ダッシュは宿に向かうとのことだった。


「ごめんね、エナク。今日はお仕事をしないといけないんだ。昨日のことを陛下にも説明しないといけないしね。新しい代官も派遣してもらわないといけない。帰ってきたら遊ぼうね」


 食事を済ませ、カインは執務室に入り、今後のことを考えた。

 王都に行っている間、ここの警備のことを心配していた。闇ギルドのマスターは捕縛したが、その他全員を捕まえたわけでもない。もし、復讐でこの領主邸がまた攻められた時、衛兵だけでは守りきれない。誰か強いのがいないかと考えた。そして、すぐに思いついた。


「あ、丁度いいのがいた。警護くらいできるだろ」


召喚(サモン)「セト」』


 執務室の中で魔法陣が浮かび上がり、額から角が三本出ている魔人が現れた。

 以前、召喚魔法の授業で呼び出してしまった、魔王セトだ。

 相変わらず豪華な衣装を身に付け、マントを羽織っている。


「これはこれはカイン様、どういたしました。ご命令とあれば、どこでも滅ぼすのを、魔王軍一同お供いたしますぞ」

「そんなことしないよっ!!」


 いきなり突拍子もないことを言う魔王に、突っ込みを入れ、ソファーに座らせた。対面にカインも座る。

 そして、カインは自分が王都に行って、今回の事件のことを説明し、代わりの代官と司祭を派遣してもらう必要があることをセトに説明した。


「なんとっ!? カイン様は、この国の国王ではないのですか!? いや、一つの国の国王では小さすぎます。この世界の全てを掌握しましょう!」

「しないよバカ!! ただの一領主だよっ!!」

「では、ここの街を起点に独立を……」

「それもしないって!!」


 セトの斜め上の発言に、疲れたカインはソファーの背に寄りかかる。

 ため息をつきながら、もう一度説明をする。


「それで、セトには僕がいない間、この領主邸の護衛をしてもらいたいのだよね。僕がいればいいけど、さすがに王都にいると何もできないから。セトなら何がきても、ここの皆を守れるだろ」


 カインの説明にセトは頷く。


「それなら、わたしよりも適任者がおります。今から呼ぶ者を執事としてお使いいただければ、問題ないかと。わたしはこれでも一応王なので、そこまで気を遣うことができません。長い間、魔王城を空けるわけにもいきませんし。今、お呼びますね」


召喚(サモン)「ダルメシア」』


 呼び出されたのは、白髪頭をオールバックにし、老齢に見える執事服をまとった、人族にしか見えない男だった。



「これは魔王セト様、お久しぶりでございます。どういたしましたかな」


 礼儀正しい男は、セトに向かって挨拶をする。そして、カインの方を向き固まった。

 子供に見える男の子は、神に近い存在だと、ダルメシアは一瞬で感じとった。


「こ、こ、この方は……」


 動揺したダルメシアにセトが説明する。


「この方はカイン様と言って、わたしの契約主でもあり、創造神様の使徒でもあり、この世界を征服する神だっ!」

「征服はしないし、神は余計だよっ!!!」


 二人の会話を聞きながら、ダルメシアは微笑んだ。

 カインは改めてダルメシアに説明をした。


「カイン様、以前は四魔将の一人でしたが、もう引退してのんびりしていたところです。よろしければ、ここの執事としてお使いください。これでも腕は鈍っておりません」


 ダルメシアは姿勢を正して、カインに一礼した。

 王都のカイン邸は、コランが見ているから問題はないが、ここの領主邸の執事は誰もいなかった。

 今までは、エライブが全て手配してくれていたこともあり、特に問題はなかったが、今後はそうもいかない。優秀に見える執事服姿のダルメシアに、お願いすることにした。

 セトには早々に帰ってもらい、ダルメシアをメイドたちに紹介した。もちろんダッシュやヒミカ、エナクにもだ。エナクは「おじいちゃん!」といい、ダルメシアに抱きついている。その無邪気な子供にダルメシアは優しく頭を撫でながら微笑んでいる。安心してあとを任せることにして、カインは王都に行く用意をした。


「それでは、行ってくるね。すぐに戻るつもりだから、それまでは頼んだよ」

「カイン様いってらっしゃいませ」


 ダルメシアに挨拶したあと、王都の自分の屋敷に転移した。

 執務室に転移をし、廊下に出てコランの部屋に向かう。「コランいる?」とノックもせずに扉に手を掛けた。

 中から、二人の話し合う声がし、カインは扉を開けようとしていた手を止めた。

 聞こえてくるのは、コランとシルビアの声だ。


「私は、シルビアさんが好きです。ただ、今はカイン様にとって大事な時。恋にうつつを抜かしている状態ではありません。ただ、カイン様が成人し、許可がいただけたなら私と一緒になって欲しい」


 カインは、コランの衝撃的な告白をつい、聞いてしまった。


「私も、コランさんは好きです。ただ、小さい頃からお世話をしていた、カイン様を差し置いてという訳にもいきません。カイン様が成人するまでは、お互いに協力して頑張っていきましょう。それから後の事を考えたいと思います」


 コランとシルビアが相思相愛と聞き、カインは思わず微笑んだ。しかも自分達の恋路より、カインの事を気遣ってくれるからだ。

 カインはその言葉を聞いて、心の中が熱くなった。

 シルビアは幼い頃からカイン専属のメイドとして、今まで育ててくれた。文字も教えてもらい、この世界の事も教わった。

 すでに二十一歳となり結婚適齢期を迎えていることもあり、シルビアには幸せになって欲しいとカインも思っていた。

 カインは扉から手を離し、アイテムボックスから紙と筆を出す。そして一筆かいて扉の前に置いた。


 置かれた紙にはこう書かれていた。


 『僕が成人したら、二人とも幸せになってほしい。 カイン』


 色々あって機嫌が悪かったカインは、二人の会話で気分を良くし、そのまま王城へ向かうために屋敷を出た。

 王城の入口で身分の証明をし、陛下や宰相に会いたいと告げる。


「カイン様は自由に王城に入って構わないと、陛下から承っております。応接室までご案内いたしますので、どうぞ」

「ありがとうございます」


 騎士と共に王城へ入り、案内されたいつもの応接室のソファーに腰掛ける。

 メイドから紅茶をいれてもらい、のんびりしていると、マグナ宰相が部屋に入ってきた。


「またせたな、カイン子爵。陛下とエリック公爵は、今、来客中だ。あとでお見えになると思う。それにしても急にどうしたんだ。やはり、ドリントルのことか」


 マグナ宰相の問いにカインは頷く。


「実は――」


 ドリントルであったことを、全て報告した。

 街であったことを順番に説明していく。それを聞いたマグナ宰相は額にシワを寄せ唸っている。


「そんなことがあったか、それは済まぬことをした。陛下に代わってワシが謝罪しよう」

「それはいいのです。わざわざ宰相が頭を下げる必要はありません」

「そうか、でも済まぬな」


 申し訳なさそうな顔をした宰相に、今後のことを説明した。

 今回の襲撃で、街の代官が不在になったこと、司祭も捕らえているので不在となっており、早急に代わりの司祭を手配して欲しいことを宰相に伝えた。


「それなら、ちょっと待っておれ、今、陛下が打ち合わせしているのは、この国の教会を統括している司教殿じゃ。このまま説明しにいくぞ。済まぬがあとでもう一度、先ほどのことを説明してくれ」

「わかりました、宰相閣下」


 宰相の案内で別の応接室に向かった。

 陛下が打ち合わせしている部屋につくと、宰相はノックをする。


「マグナです。陛下と司教殿に是非ともご相談が、カイン子爵もおります」

「――入っていいぞ」


 扉の反対側より、陛下の声が聞こえたことで宰相は扉を開ける。

 そこには陛下とエリック公爵、そして対面には、司祭よりも上等なローブを着た老齢の男性がいた。


「失礼いたします。急な来訪申し訳ありません」


 カインが部屋に入り、陛下に頭を下げて伝える。


「かまわん、まずは、紹介しておこう。このエスフォート王国の教会を取りまとめている、司教のハーナム殿じゃ」


 白に金糸をあしらった高級なローブを着た司教が、軽く頭を下げる。


「ハーナム司教殿、初めまして、ガルム・フォン・シルフォード・グラシアの三男で、カイン・フォン・シルフォード・ドリントルでございます。子爵を仰せつかっております」


 カインはハーナム司教に向かって、頭を下げて挨拶をする。 


「エスフォート王国の司教をしておりますハーナムです」


 お互いの挨拶が終わったあと、宰相と席に座り、先ほど、宰相に説明したことを、再度話した。


「――まさか、うちの司祭がそのようなことを」


 司教も、司祭が行っていた教会内部の豪華な装飾、違法と思われるほど高い治療費など、聞けば聞くほど司教は怒りがこみ上げてくる。そして極めつけは領主邸襲撃だ。

 撃退されたとはいえ、襲撃した事実は変わらない。司教だけの判断では収まらず、本国マリンフォード教国まで連絡しなければいけない事案だった。


「現在、他の首謀者たちと一緒に、ドリントルの詰所の牢屋に入ってもらっています」

「教会の関係者がご迷惑をおかけした。本当に申し訳ない。私のほうも本国まで詳細を送らせていただく。陛下、カイン子爵殿、この度はご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」


 司教が陛下とカインに向かって深々と頭を下げた。


「それで、新しい司祭の派遣をお願いいたします」

「教会本部に戻ったら、すぐに手配いたしましょう。明日の朝にはドリントルに向かわせます」

「ありがとうございます」


 カインの願いに対して、ハーナム司教はすぐに頷く。


「それで陛下、今回、代官と闇ギルドマスター、冒険者ギルドサブマスターについては、王都に運ぶつもりです」


 カインの話を聞き、レックスは頷く。ここまで大掛かりな不正については、一領主では処分できない。王都で裁判に掛けて今までの不正を、暴く必要があるからだ。


「代わりの代官については、少し時間をくれ、マグナを含め検討しないといけない」

「わたしも学園があるので、そこまでは待てませんがお願いいたします。ただ、父のガルムから内政官を派遣してもらえるとのことで、決まるまでは代行してもらうかもしれません」


 陛下はガルムから出される内政官と聞き、手を顎に当て考え始めた。


「これから検討をする。明日、学園が終わったら、また城に来るがよい」

「わかりました。また明日、お伺いさせていただきます。今日はこれで失礼いたします」


 カインは頭を下げ、応接室を退出した。

 そして、王城をあとにし、冒険者ギルドに向かった。



いつもお読みくださいありがとうございます。


12/9 評判が悪かったので、好きなコランとシルビアのやり取りを大幅に変更しました。

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