挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第二章 少年期編

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました
67/225

第三十二話 襲撃事件1

「では、また話しましょう。夏休みになったら学園も長期休暇になりますから、少しドリントルで落ち着ける予定なので」


 カインは席を立ち、ギルドマスターのリキセツと握手をした。


「こちらこそ、いつでも声を掛けてください」


 応接室から出てきたカインは、受付嬢たちからの熱い眼差しを受けたことにより、不思議に思いながらギルドから外に出た。

 まだ領主邸に戻るには早い時間なので、街の武器屋や防具屋などを覗きながら、領主邸まで戻ってきた。

 文官からエライブは出かけていると教えられ、一人で執務室に籠り、書類の決済をすすめていた。



 ◇◇◇



 カインが執務室に籠っている頃、薄暗い部屋には四人の男女が椅子に座っている。全員の顔が機嫌が悪いようで額にシワを寄せている。


「今日はいったいなんなのよ。あんまりギルドを抜けるわけにもいかないのよ」


 最初の言葉を発したのは、冒険者ギルドのサブギルドマスターでもあるベティだ。


「今日集まってもらったのは、他でもない。あの領主(小僧)のことだ。今日、教会に来たのだが、あいつが王都の教会に告発すると、断言して出て行きやがった。このままではまずいだろ。査察が入った場合、お前らの企みも全て明るみにでるぞ」


 両手に指には色とりどりの宝石を散りばめた指輪をつけて、重たそうな体を揺すりながらスタッグが、酒臭い息を撒き散らしながら息巻く。いかにも成金の装いをしていれば、誰でもそう思うだろうと、他の三人が溜息をつく。


「こちらも少し問題が起きた。新しく内政官が来ることになった。街全体の税収の査察が入ることになると思う。今のままでは問題になりそうだ。私たち全員が捕らえられることになるかもしれん。早々に始末する必要がある。リック、人の手配を頼む。必要ならベティからも人手を出せ」


 中央に座っていた男が話し始めた。


「わかったよ。こっちはスラムの闇ギルドのメンツを集めておく。決行は今日の夜でいいよね。明日、王都に帰られたらスタッグは問題だろ? それに王都に向かう時に襲ってもいいが、冒険者ランクAでしょ? こちらの被害も大変なことになる」


 黒いフードを被り、あまり顔を見せないようにしていたリックが答える。


「私も、上級冒険者で裏稼業ができる数人を集めておくわ。目の前で魔法を見たけど、あれは日中、正面から襲っても、返り討ちに合うだけだと思うし、寝込みを襲うのなら問題はないはずよ」


 ベティはあのギルドの訓練場での出来事を思い出して、震えあがった。


「準備が出来たら、鍵は私が開けよう。正門は夜間も衛兵が立っているからな。裏口から入れるようにしておく。あとは、いざという時のために……」


 中央の男は不気味な笑い方をした。

 そして男の続けた言葉に、皆が頷いた。



 ◇◇◇



 夕飯時には、エライブも戻ってきており、一緒に食事をした。

 領主邸での食事は、来客がない場合、基本的に代官と二人で食事となっている。そこで情報交換をしながら食事をしている。


「カイン様、教会のほうはどうでしょうか」


 エライブはワインを口にしながらカインに尋ねた。


「あの教会については、王都に戻り次第、教会本部に話すつもりです。グラシア領にいた時もそうでしたが、司祭は謙虚でないといけません。両手の指に指輪をいっぱいつけて、昼間から酒を飲んでいるなんて考えられない。新しい司祭を派遣してもらうことになると思います」


 カインは王都やグラシア領での教会を知っている。教会に絵画や装飾品などあるはずもなく、質素な生活を送っていた。それが当たり前だと思っている。


「そうですか……。そこまでひどいとは。今まで約束を取ろうとしても、いつも反故されてしまい、中々会うことができなかったのです」


 エライブは残念そうな顔をして、ワインを飲み干していく。


「明日は、早めに王都に戻ることにします。色々と、回らないといけないとこがありますので」


 カインは早々に食事を済ませ、風呂に入り寝室で寝間着に着替えた。

 部屋の窓から外を見ると、賑やかに夜の明かりが街並みを彩っていた。

 この街は、冒険者が多いこともあり、飲む場所も数多く、娼館もあると聞いている。

 窓の外を覗いていると、遠くからの視線が急に気になった。


 『世界地図(ワールドマップ)敵対表示』


 カインが魔法を唱えると、視界の片隅にこの周囲地図が浮かび上がってくる。

 そして敵対を表す赤印が、いくつか屋敷を囲うように地図に表示された。

 この魔法は、以前、カインが創造魔法で作った世界地図(ワールドマップ)と、探査(サーチ)を組み合わせたものだ。


「教会に行った途端にさっそくか……」


 カインは溜息をつきながら窓を閉め、寝間着から冒険者の装いに着替えた。部屋を明るくしていたランプを消し暗闇の中で椅子に座りながら、ただじっと待つ。


「この街では驚かすから、今まで呼べなかったけど、今日はいいよな」


召喚(サモン)「ハク」「ギン」』


 部屋に魔法陣が浮かび、中から神狼(フェンリル)のハクと、神龍のギンが現れた。


「ワフゥ」「キュイィ」


 ハクとギンは、カインに呼ばれたことを喜び、カインに纏わりついてくる。


「ほらほら、ハク、くすぐったいって、そんなに顔を舐めないでよ」


 ハクは実際の大きさよりも少し小さいサイズで召喚したが、それでも二メートル位ある。

 ギンも翼と首を伸ばせば、二メートルほどの大きさまで育っているが、ハクより小さく一メートル位になっている。何かあれば自分で大きさを変えられるから、特に心配はしていない。


「ハク、ギン、聞いて。たぶんこの屋敷は夜中に襲われる。一人で始末してもいいけど、ここに住んでいるメイドさんたちもいるから、助けてくれるかな」


「ワフゥ」「キュイ!」


 両者とも頷いた。眠気防止と、最近、かまってあげられなかったこともあり、ハクとギンを撫で回し、堪能しながら、視界の隅に表示された赤いマークを眺めていた。深夜となり、赤いマーキングが次第に増えていく。数えていくと五十は超えてそうだ。


「まさか、こんなに集めてくるとは……」


 カインはそんな人数に負けるつもりはないが、一人のためにそこまで準備するとは、思っていなかった。そして日を跨いだ時間になり、赤いマーキングが急に動き始めた。

 赤いマーキングは正面の数名を除いて、全て裏口に回って行くようだった。そして何ごともなく敷地内に入っていく。


「誰かが手引きしているのか……」


 カインは溜息をつき、片手に鞘に入ったままの剣を持ちながら、部屋から出て行く。

 カインの後ろからは、ハクとギンがついてくる。ギンは屋敷の中では飛べないのでハクの背中に乗っている。

 寝室のある三階から、物音を立てずにカインはゆっくりと階段を下りていく。赤いマークで表示された人たちは、裏口から屋敷に入り、正面玄関を入ったすぐのホールに集まっている。

 屋敷内を探されても、メイドたちが襲われる可能性があると思い、カインは自らその敵地に乗り込むつもりだった。

 そして、二階からホールに降りる階段にカインは立った。





「やぁ。こんな時間に来客かい? ずいぶん物騒な恰好しているね。僕は呼んだつもりはないけど」


 ホールに集まって準備をしている襲撃者たちに、カインは黒い笑みを浮かべて挨拶をした。


 その瞬間に、ホールにいた五十人いる武装集団の視線は、一気にカインに集まった。



 

いつもお読みいただきありがとうございます。

多くの方に評価、またはブックマークにいれていただきとても感謝しております。

36話までは1日2話投稿してまいりますので、今後もよろしくお願いいたします。

  • ブックマークに追加
ブックマーク登録する場合はログインしてください。
ポイントを入れて作者を応援しましょう!
評価をするにはログインしてください。

感想を書く場合はログインしてください。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。