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転生貴族の異世界冒険録~自重を知らない神々の使徒~ 作者:夜州

第二章 少年期編

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第三十一話 教会との確執2

「まず教会についてですが、なぜお祈りをするのに料金設定がされているのでしょうか。一般的にはお布施の金額については設定されておらず、各自の気持ちだと思いますが。しかも銀貨一枚では、一般の領民ではあまりにも高いのではないのでしょうか」


 カインは一番最初から、お祈りや治療に関する料金について、スタッグ司祭に詰め寄った。

 カインの言葉にスタッグ司祭は、扇で自分の顔を仰ぎながら悪びれた様子もなかった。


「カイン子爵殿、料金についてですが、あまりにもお祈りをする一般市民が少なく、商会の会頭などがほとんどなのです。だから基準となる料金が銀貨一枚になっても、特に問題になっていません。商会によっては大銀貨を置いていきますよ。それに治療費についてですがな、この教会では治療魔法を使えるシスターが少なくてね、殺到したら対応できないのですよ。だから選別するための料金設定をしております」


 スタッグ司祭は、汗ばんだ顔を扇で仰ぎながら答えてきた。


「それはシスターを増員すればいいだけでは? スタッグ司祭殿も回復魔法を使えるはず。ここは冒険者が多くいる街です。それだけ治療を必要とされる人も多い。王都の教会に依頼を出せばいいことではないでしょうか」


「シスターを一人派遣してもらうにも、王都の教会に上納する必要があるのですよ。この教会にそんな余裕はありません。それとも、子爵殿からの補助金の増額をしてくれるのでしょうか」


 カインの問いにスタッグ司祭は、ニタニタした顔をしながら、逆に金をもっとよこすように言ってきた。


「話になりませんね。この教会の建物の大きさといい、この豪華な施設といい、教会として必要のないものが多すぎです。補助金は当面打ち切ることにいたします」


 カインは即答した。司祭に豪華な生活をさせるために、補助金を出しているのではない。ましてや、両手に宝石の指輪をつけ、このたるんだ腹を揺らした司祭に出すつもりはまったくない。


「ん――。それでは仕方ありませんな。お祈りと、治療費の値上げをしないといけませんな。これではますます領民に迷惑がかかってしまいますな」


 スタッグ司祭はまったく気にした様子もなく、ニタニタしながら答えてくる。

 カインはスタッグ司祭が、まったく変わるつもりはないと確信した。


「スタッグ司祭殿の考えはわかりました」

「おぉ、さすがカイン子爵殿、わかってくれましたか。では補助金については、今まで通りということで」

「いえ、領主権限にて、王都の教会本部に告発させていただきます。昼間から酒を飲み、住民からは違法なほど料金を取る。これから僕が治める街には必要ありません。では、これで帰りますね」


 あまりにもスタッグ司祭の考え方に共感できなかったカインは、完全に敵対し、席を立った。

 逆に王都へ告発と聞いて、スタッグは慌てた。

 王都の教会から査察がくれば、問題があるのはスタッグが一番理解していた。今までは帳簿の提出をすればよかったので、いくらでも誤魔化しが効いた。街を直接見られることは、不正をしているということが発覚してしまう。今まで積み上げてきた贅沢な暮らしが全て崩れることを、スタッグは想像した。


「カイン子爵殿、少しお待ちください」


 スタッグは慌ててカインを止めるが、カインはそのまま応接室を出て行った。

 スタッグはカインの後ろ姿を見つめながら、貧乏ゆすりをしながら爪を噛み、そして呟く。


「この……ガキ風情が、調子にのりおって。おい、誰かいるか!?」


 スタッグの呼びかけに、教会騎士の一人が駆け寄ってきた。


「司祭様、お呼びでしょうか」

「うむ。冒険者ギルドのサブギルドマスターのベティに、「今宵の月は黒い」と私が言っていたと伝えてこい。それでわかるはずだ」

「わかりました」


 教会騎士は、司祭に一礼し、部屋を出て行った。


 教会から出てきたカインは、お祈りをして神々に会う予定だったことをすっかり忘れていた。


「勢いで出てきちゃったから、今更お祈りで戻るわけにもいかないし、まぁ王都の教会に用事もできたしその時でいっか」


 カインは領主邸に戻る途中で、街並みを眺め、商店や露店を覗きながら冒険者ギルドに寄った。

 今、現状の治療について状態を知りたかったのだ。

 教会に行く途中で素通りしたこともあり、ギルドは近くにあったのだが、余計な寄り道をしたせいで思ったより時間がかかってしまった。

 扉を開けカインは中に入っていく。

 入った瞬間に視線を感じるが、すぐに外れていく。あたりを見渡すとカインの事を知らない人は、子供が入ってきた程度と思って、すぐに興味をなくしている。逆に、先日の事を知っている人は、下を向いて視線を合わせないように震えていた。

 受付嬢を見渡すと、やはり美人が多いらしく、数人並んでいるが、皆、美人揃いだった。サブマスのベティはいなかったので、空いている受付嬢の前に立ち話しかけた。


「すいません、ギルドマスターのリキセツさんに会いたいのですが」

「お約束はございますか? 基本的に上位冒険者か、お約束がある人しかギルドマスターはお会いになることはありません」


 カインの問いに対して、受付嬢は事務的に答えてきた。


「約束はありませんが、僕の名前を伝えてもらえば大丈夫だと思います。カインといいます」

「では、ギルドマスターに聞いてきますので、ギルドカードがございましたら、提示お願いします」


 カインは金色(ゴールド)に輝くAランクのギルドカードを受付嬢に手渡した。


「えっ……Aランク!? 失礼いたしました。すぐに確認をとってまいります」


 受け取った受付嬢は、目の前にいた少年がAランクだったことに驚き、すぐにギルドマスターの部屋に向かった。

 受付嬢が聞きにいって一分もしないうちに、ギルドマスターが焦ったような顔をして、受付まで直接出てきた。


「いやーー。カイン様、お待たせしてすまない。案内しますからこちらに」

「リキセツ殿、先週はありがとうございました。少し相談があったので約束はしていませんが、来てしまいました。ご迷惑おかけしてすいません」


 カインはリキセツに頭を下げて挨拶をする。

 恐縮しているリキセツに案内され、カインは後ろを歩いていく。

 カインが見えなくなったところで、受付嬢たちが騒ぎ出す。


「今の子供は何!?」

「かわいい子だったけど、あのギルマスが気を遣うほどの相手!?」

「ちょっとオーラ! 説明してよ」


 先ほどカインが話かけた受付嬢だ。


「説明してもって言われても、ギルマスに会いたいっていうから、ギルドカードを見せてもらって、ギルマスに聞きに行ったら、焦ったように飛び出していったのよ。それにしてもあんな子供なのにAランクなのね」


「「「Aランクっ!?」」」


 まだ登録して間もないと思われる子供が、すでにAランクなのだ。驚かないはずがない。


「年上は好きなのかしら・・・・・・」

「これは、また・・・・・・」

「あの歳でAクラスなんて・・・・・・」

「「「もしかして……たまのこし?」」」


 受付嬢たちの目が、一斉に肉食獣のように輝いていた。

 カインの知らないところで、受付嬢に狙われることになったカインであった。





 リキセツに案内され、応接室のソファーに腰掛ける。

 対面に座ったリキセツは、緊張した様子でカインの言葉を待っている。

 すぐに受付嬢が紅茶をお持ちしたと部屋に入ってきたが、なぜかこちらを見てウィンクして出て行った。


「それで、今日の話はいったい……」


 リキセツが心配そうに、カインに問いかけてくる。


「いや、実は先ほど、教会で揉めてきましてね。その件でリキセツ殿に聞きたいことがあって来ました」

「も、もしかして……教会も破壊して――」

「してませんっ!」

「――失礼しました」


 リキセツの勘違いを訂正し、今の状況について聞いた。


「やはり、この街は冒険者が多いですからね、冒険者でもヒール程度なら使える人はいます。ただ、ハイヒールになると司祭クラスか、上位のシスターしか唱えられません。金貨一枚ということもあり、普通の冒険者では払うことはできません。ケガをして治せなかった場合は、冒険者を引退しないといけませんから……。私のようにギルド職員になれればいいのですが、そう簡単にいきません。ほとんどがスラムのほうへ流れていってしまうのです……」


 もっと回復魔法が安く受けられれば、冒険者を引退しなくてよくなると、リキセツも悔やんでいる。


「その回復魔法に対して、法外な金額について、今日スタッグ司祭と話をしたのですがね……。決裂してしまって、僕が王都の教会に、告発することになりました。他の街と比べても、高すぎることが原因でね」


 カインはリキセツに対して先ほどの話をした。


「あの、オーク司祭めっ! 一人で贅沢しおって」


 リキセツもスタッグ司祭とは、仲が悪いようだった。

 今まで何度も、値下げの交渉をしていて、決裂していたらしい。


「そういえば、これを渡しておきます」


 カインは懐から小さな袋を出した。

 中には白金貨が三枚入っている。


「訓練場の修理費には足りないでしょうが、これは私の私財からの補助金という形になります。きちんと税処理も行ってください。この街に内政官が赴任する予定になってますので、会計監査を一度行います。それまでに準備しておいてくださいね」


「これは申し訳ありません。ありがたくお預かりいたします。収支計算については、私ではまったくわからないため、ベティに丸投げ状態なのです」


 リキセツは苦笑いをしながら、白金貨が入った小袋の中身を確認したあと、懐に大事にしまった。


「そういえば、今日はベティさんが見えないのですね」


 カインはいつも隣にいるはずのベティがいないことを不思議に思った。


「なんだか、急に人が来て、話していたと思ったら「急用があるから」と言って、出て行ってしまったのです」


 リキセツの答えに、カインは特に気にせずに流していた。



 そして、これから始まる攻防戦の幕開けであった。



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