第二十二話 ドリントルの歓迎会1
週末となり、学園も休みに入ったのでドリントルの街の視察に行くことにした。
ドリントルの街近くまで
馬車で二日の距離と言ってたけど、飛んだら一時間で到着した。
高さ百メートル位を維持しながら飛んでみたけど、王都との荷馬車の行き来は多いようだった。
やはり街のすぐ隣に魔物が棲んでいる森があるから素材が十分にとれるということだろう。
さすがにそのまま街まで飛んで入るわけにもいかず、近くで降りてから門に向かって歩いて行った。
外壁に関しては、三メートル位の高さで石が積みあげられていた。門は東と西と南の三箇所に設けられており、東は王都へ、西は魔物の森へ、南は他の街へと繋がっている。
魔物が多く棲む森は数十年に一度の単位で氾濫が起こることがあると書物に書いてあったのを見たことがあった。
実際にグラシア領に関しても、高さ五メートルの城壁で街を取り囲んでいた。
門には衛兵が立ち、街に入る商人たちの検問をしている。
「ほら、次だ、荷の中身はなんだ?」
「穀物と、塩になります」
衛兵が荷物の確認を終わらせたあとに、書類にサインしていた。
「よし、入っていいぞ」
次々と運び込まれるものは主に食材や、武器や防具などだった。そして街から出て行く荷馬車には、魔物の素材と思われるものが多数あった。
やはりこの街は、冒険者から納められる魔物素材が多いみたいだ。
そして順番が来て、カインの番になった。
「おし、次だ。なんだ、冒険者の坊主か? 荷物は何も持ってないのか?子供ではここはきついぞ」
聞いてきた衛兵にギルドカードを出す。
「こ、これはAランクの冒険者でしたか、申し訳ありません。どうぞお入りください」
何も検査もなしで通してくれたことに疑問を感じ、カインは衛兵に問いかけた。
「Aランクなら検査なしで入っていいんですか?」
「この街は、冒険者の街とも言われるくらいですからね、Aランク以上の冒険者に関しては、検査をしないこととなっているんです」
衛兵が答えてくれた。
「じゃぁもし、僕が何か禁止されているものを持ち込んでも、問題ないんですね」
「……たしかにそうなりますね」
衛兵は苦笑いしながら答えてくれる。
「わかりました、まぁいいです。中に入りますね。あ、冒険者ギルドはどこにあるんですか」
「ギルドなら、この道をまっすぐ進んでもらえばわかると思います。大通りの十字路地がありますのでそこにあります。あの……ここのギルドは……気をつけてください」
「ありがとう! 大丈夫ですよ」
丁寧に答えてくれる衛兵さんにお礼を言い門を潜った。そこにはまっすぐに道が伸びていた。地面は王都のように石畳ではなく土の状態となっているが、馬車がすれ違っても問題ないくらいの広さを確保していた。
道の両側は商店が立ち並んでおり、宿屋もあちこちに見えた。
それなりに人通りもあり、お店も繁盛しているようだった。
「思ったよりも普通だったな、もっと荒れているのかと思ってたよ」
カインは左右を見渡しながら、街の中を進んでいった。中央の十字路付近には他の建物とは大きさがまったく違う冒険者ギルドの建物が建っていた。
「ここのギルドって王都並に大きいんじゃないかな……。人口は王都の百分の一しかいないのに、ギルドの大きさだけは一緒とか……。こんな街の中央にあったら魔物運ぶのも迷惑になりそうだな」
カインはそのままギルドの中に入っていった。ギルドのホールは王都と同じで、右側に依頼ボードがあり、正面は受付が並び、左側は酒場となっていた。
さすがにギルド内は冒険者しかおらず、いくつかのパーティが依頼ボードを眺めながら話し合っていた。十ほどある受付の中から誰もいない受付嬢のところに向かった。
受付嬢は二十代であまり愛想は良くなかった。まだ十歳位のカインを見ても顔をしかめていた。
「ん? なんだい? 登録か? 坊主、ギルドは十歳で登録できるけどな、ここの冒険者はみんなレベルが高い。もうちょっと田舎で鍛えてきたらどうだ?」
「いえいえ、もうすでに登録はしてます。この先、この街に良く来ることになったので挨拶だけしておこうかと……」
「そっかそっか、ここは
「カインです。よろしくお願いしますね」
「うっし、カインか、わかった。オーーイ!! 誰か歓迎してやってくれ!!」
受付嬢のベティがホールに向かって声をあげた。
「お、新人の洗礼か……。久々に見るな」
「あいつ、かわいそうに……」
遠目からカインのことを可哀想な目で見る冒険者たちがいた。
「俺らが相手してやるよ。坊主行くぞっ!!」
声を上げて出てきたのは、少し柄が悪く見える五人組のパーティだった。
「えっ!? 何するんですか!?」
いきなりの対応でカインは驚いた。
「もちろん歓迎の
受付嬢のベティがタバコに火を付けながらカウンターから出てきた。
カインの両側に五人組のパーティが囲み、カインの両脇に手を入れ持ち上げた。
「それじゃ、訓練場に行こうか」
受付嬢のベティを筆頭に冒険者たちが後をついてくる。
「お! 久々に見るな。俺たちも見に行こうぜ!」
酒場で飲んでる冒険者たちも訓練場へ続々と移動していった。
ギルドのホールから奥の扉を抜けるとそこは、数十メートルの円型の訓練場となっており、なぜか観覧席が周りを囲んでいた。この街は冒険者を中心とした街ということもあり、闘技場みたいな扱いになっているみたいだ。
野次馬の冒険者たちは酒を片手に観覧席に移動している。
「おっし、あの坊主がどれくらい持つか賭けようぜ!」
「二分で気を失うに銀貨一枚だっ!」
「俺は一分だな!」
「俺は大穴で五分持つ!」
観覧席では賭け事が始まったらしい。
カインは訓練場の真ん中で下ろされた。五人の冒険者たちは反対側に行き、刃の潰れた模擬剣を構えている。
カインにも一本の模擬剣が渡された。
「おっし、用意できたな。あたしが審判をやるよ。あたしが止めたら終わりだ。それまでは何があろうが続けてもらうよ」
ベティが咥えタバコをしながら合図をする。
「はじめっ!」
冒険者たちは、ニヤニヤと汚い笑みを浮かべながら、ゆっくりと移動している。
「普段からこんなことをしてるんですね……。これは改善しないとダメですね」
カインはため息をついた。
「あ、ベティさん、ここの訓練場は壊れたら、誰が直すんですか」
剣を構えてる冒険者たちには、気にすることもなく、カインはベティに話しかける。
「もちろん、ここの建物はギルドのもんだから、ギルドで直すに決まってるだろ」
「言質は取りましたよ?」
カインはベティの回答に安心した。学園の訓練場を壊したときは、国が払ったため陛下から文句をいわれたから心配していたからだ。
「おいおい、坊ちゃんよ。そんな余裕かましてていいのかい?」
気持ち悪い笑顔を向けてくる冒険者たちに対して、可愛い笑顔をつくってカインは一言だけ言った。
「あ、皆さん、死なないでくださいね? もちろん観覧席の皆さんも」
『
突き出したカインの手の前には、五発の青白く燃え盛った火の弾が浮かんでいた。