枕もとのLINEで目が覚めた
「お兄ちゃん、有難う!」
2児の母になった妹がプレゼントした絵本の写真を送ってきた。
「いいよ。もう28歳の伯父さんだから、これぐらいやらないとね。」
眼をこすりながら返信して、ベッドから起きた。
リビングの大きなテーブルに四つ折りの朝刊が置かれていた。「小池都知事再選」と書かれた記事のとなりに、「コロナ第二波に対応」の小見出しが添えられていた。
きのうの結果を伝えるニュースを父は観ていた。
「おはよう。やっぱり小池さんだったね。」と声をかける。
「毎日、テレビに出てれば当然だろ。」
「関東大震災後に起きた虐殺事件の追悼文を送らないとか、韓国学校をあたらしく作る計画を白紙にしたとか、嫌な話ばかり聴くけどね。」
「埼玉県民なのに詳しいな。お前、さては都民か?」
茶化す父に「だって、週5で東京に働きに行ってるだもん。」と笑いながら答えた。
「政治家は在日なんざ相手にしないよ。票にならないから。税金納めてるのに、選挙権ないって変な話だよな。」
さっきまでとぼけていた彼が真剣にいった。
「来年は伯父さんのところ行くの?」
投票できない彼がいまをどう観てるのかとても気になった。話を聴きたいと急に押しかけたら驚くかもしれない。なら、毎年恒例の席がいいだろうと考えた。
「2、3年前に兄貴、身体壊しちゃったし、コロナもあるだろ? 行かないほうがいいんじゃないかな。」
残念に思いながら、テレビに目を向けた。コメンテーターが「都民が小池さんを選んだ事実をどう考えるかですよね。」といっていた。
「このひとにとって、民主主義ってなんだろう。」
いまは会えないあのひとと同じく、1票も入れられない住民がいるだろうと思ったら、口からことばが飛び出していた。
「考えてないだろ。選挙に行けるのが当たり前だと思い込んでるんだから。」
彼は静かに答えた。
新聞を片手に2階の自室に上がる。一面の真ん中に載っていた得票数に、現職の強さを思い知った。壁にかけてあるカレンダーがふと、見えた。今日中に連絡しなければいけない用件を思い出し、机にパソコンを置いた。
「有権者1000万いて、20万票入っただけでしょ。」
「東京のイロモノ枠なら、そんなもんだ。」
「ほかに候補者がいなかっただけ。」
140字のツイートが押しせまってくるのが嫌になった。しかし、連絡と宣伝のため、アカウントは残した。ダイレクトメールだけでもタイムラインは観えてしまう。都知事選についてらしいが、流れるスピードが速くて、詳しくは分からなかった。
「レイシストが5位か。」
「18万票も集まってるなんて、怖くて街歩けないよ。」
「あんなやつに入れたのだれだよ。」
プロフに在日と書いているひとたちの書き込みから、元在特会で日本第一党の桜井誠が健闘した話題だと知った。
「日本国民だけのゲームで生き死にが決まるなんてたまったもんじゃないよな。」
ぼやいた瞬間、画面が真っ暗になった。
「えっ! なんで!」
突然の出来事に驚く。
しばらくして、「プログラム更新中です」と出てきた。デスクトップに10分ぐらいで切り替わったが、さっきのページは消えている。
不安を吐露した声がかき消された気がした。