新型ウイルスの新治療法、症状の深刻化が8割減少 英国で治験
ジャスティン・ロウラット、BBCニュース
画像提供, BBC Panorama
ケイ・フリトニーさんは臨床試験に参加した1人だ
新型コロナウイルスの感染症COVID-19の新たな治療法によって、集中治療を必要とする深刻な症状の患者が劇的に減少したとする臨床試験の暫定結果が出た。開発に当たった英企業が明らかにした。
サウサンプトンのバイオテクノロジー企業シネアジェンが開発しているこの治療法は、ウイルスに感染した際に体内でつくられるインターフェロンベータというタンパク質を利用する。
新型コロナウイルスに感染した患者は、吸入器を使ってこのタンパク質を肺の中に直接送り込む。そうすることで、免疫反応を刺激すると期待されている。
臨床試験の暫定的な結果によると、COVID-19の入院患者たちの間で、人工呼吸器を必要とするなどの深刻な症状に陥る人の割合は79%減少したという。
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また、患者が日常生活に問題のないレベルまで回復する確率も2~3倍上がったとされる。
治療を受けていた患者の間では、息切れが「かなり大きく」減ったという。
さらに、患者の入院平均日数が9日から6日に、3分の1減少したとされる。
今回の二重盲検試験は、イギリスの9病院に入院したCOVID-19患者の志願者計101人を対象に実施。
半数が開発した薬を服用し、もう半数は有効成分が含まれていないプラセボ(偽薬)の投与を受けた。
結果が正しければ重要な前進
株式市場の規則により、シネアジェンは臨床試験の暫定結果の公表を義務付けられている。
暫定結果は、専門家の審査を経る医学誌には発表されておらず、全体のデータも公表されていない。そのため、BBCは同社の主張の正確性を判断できない。
しかし、仮に結果が同社の言うとおりだとしたら、新型ウイルスの治療において非常に重要な前進となる。
臨床試験の責任者トム・ウィルキンソン氏は、より規模の大きな研究で今回の結果が裏付けられれば、治療をめぐる状況はがらりと変わるだろうと述べた。
また、今回の臨床試験は比較的小規模だが、新たな治療法が患者に有効であることは、並外れてはっきり示されてると話した。
シネアジェンのリチャード・マースデン最高経営責任者はBBCに、「これ以上ない結果が得られた」と話した。
マースデン氏は今回の暫定結果を、「COVID-19入院患者の治療における飛躍的な進歩」と表現した。
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エイトキン看護師(左)とともに患者のベッドわきで取材したBBCのロウラット記者
今後どうなる?
マースデン氏は、今後数日中に今回の発見を世界各地の医療管理当局に示し、治療法として承認されるには何が必要かを探ると述べた。
この作業は何カ月もかかる場合がある。ただ、イギリスなど多くの政府が、有望な治療法は可能な限り素早く承認する方針を示している。
5月に抗ウイルス薬レムデシビルが承認されたときと同様、今回の治療法が緊急承認される可能性もある。
また、効果と安全性を慎重に測定しながら、この治療法を許可する患者を増やしていくこともあり得る。
もし治療法として承認されれば、開発した新薬と、それを体内に取り入れるための吸入器を大量に製造する必要が生じる。
マースデン氏は、よい結果が出たときにそれらを手に入れやすくするため、業者には4月の時点で製造を開始するよう指示していたと話す。
同氏は、シネアジェンが冬までに、月に「数十万」回分の薬を提供できるようにしたいとしている。
治療はどのように?
インターフェロンベータは、ウイルスに対する体の防御システムの最前線だ。ウイルスの攻撃に備えるよう体に警告を発する。
新型ウイルスは、人体の免疫システムを回避する戦略の一部として、インターフェロンベータがつくられるのを抑え込んでいるように思われる。
新たな薬はインターフェロンベータを特別に製剤したもので、タンパク質をミスト状にする吸入器を使って気管内に直接投与する。
免疫機能がすでに低下している患者であっても、強力な抗ウイルス反応を引き起こすことが期待されている。
インターフェロンベータは、多発性硬化症の治療で広く使われている。
シネアジェンのこれまでの臨床試験は、この薬が免疫反応を刺激することや、ぜんそくなどの肺の持病がある患者でも治療に楽に耐えられることを示している。
臨床試験の方法は?
臨床試験の参加者は、試験終了まで、新薬とプラセボのどちらを服用していたかはわからない。
「薬だとわかれば、気持ちにバイアスが生じる可能性がある」と、薬の投与を担当したサウサンプトン病院のサンディ・エイトキン看護師は説明する。
シネアジェンの臨床試験は、英政府が4月に開始した、新薬全般の迅速な臨床試験計画のモデルとなるものだ。アコード・プログラムと呼ばれるこの計画は、COVID-19患者向けの新薬の開発を加速させるのが狙い。
シネアジェンの開発チームは、新たな薬は感染の初期段階でより大きな効果を発揮するとしている。
ハイリスクの患者グループに対し、COVID-19だと診断された直後にこの新薬を投与した効果を探る試験は現在、新規感染者が少ないため参加者を見つけにくい状況となっている。
他の専門家たちの意見
救急医療に詳しい英シェフィールド大学のスティーヴ・グッドエイカー教授は、「今回の結果は解釈が困難だ。完全な詳細が必要であり、より重要なのは、どのような手順で試験をしたのかを知ることだろう。分析がなされる前に、試験について公表され、手順がわかるようにすべきだった」と述べた。
代謝医学が専門の英グラスゴー大学のナヴィード・サター教授は、「この結果は目を見張るものだ。参加者が100人ちょっとで試験の規模が小さいのは確かだが、重症化する人が79%減ったのは、現状を一変させる可能性を示している」とした。
「完全な結果が公表されて専門家が査読し、内容がしっかりしたものであり、試験方法も厳格だったと確認されるのが望ましい。参加者人数が少ないので、効果の度合いや、リスクの特徴が異なる人によって効果に違いがあるのかははっきりしない。こうした研究はより大規模な試験が必要だが、それでも今回の結果は、とても胸を躍らせるものだ」
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