閑話1 沙織(12/2修正)
せっかく和也誘ったのに、来てくれなかったし。
本当は女の子三人だけど、和也が来てくれたなら途中で別れて、二人でデートするつもりだったのに。
和也とは、小学生から高校までずっと一緒に育った。
小学生のときは、よく遊んでいたけど、最近遊んでくれなくなった。私としては、昔と同じように居たかっただけなのに。
ずっと好きだったけど、告白は出来ていなかったりする。
仕方ないから、友達と三人で浴衣を着て花火を見にいった。隣に和也がいてくれたならもっと楽しかったのに。
三人で浴衣姿の写真をとって和也に送っておいた。
『浴衣姿見られなくて残念! かわいいだろ』ってメッセージをつけて。
来年こそは一緒に行ってやる!
花火が終わって、友達とも別れて家に帰ることにした。
家の前になぜかパトカーが止まっているし。
何かあったの!?
浴衣姿だったけど、急いで玄関に入る。
玄関には、浴衣姿で泣いている愛美と、警察官がいて両親に説明をしている。
「愛美! 何があったの??」
愛美が気づいてこちらを向く。
「――和也にいちゃんが」
そのまま、また泣き崩れた。
代わりに、警察官が説明してくれた。
「実は、コンビニ近くで通り魔事件が発生しまして、眞鍋愛美さんと友人が襲われそうになったところを、男性がかばって刺されました。その男性が、知り合いだったという話でして」
「その知り合いっていうのは? もしかして……」
お母さんが代わりに答えてくれる。お母さんの顔を見ても、涙でボロボロになっている。
「沙織、和也君よ。愛美と友達をかばって、犯人に立ち向かったの」
「そ、そ、それで和也は? 椎名和也は無事なのですか!?」
ひと呼吸おきながら、警察官が言いにくそうな顔をして話し始めた。
「残念ですが、病院についたときには、既に心肺停止状態でした」
真っ白になった。
今日、さっきまでメッセージのやりとりをしていたのに。
「お姉ちゃん……ごめんなさい。和也兄ちゃんに「逃げろ!」って言われたけど、怖くて動けなかったの。そしたらわたしたちを庇うために、犯人に向かっていって……」
愛美は泣きながら謝ってくる。
沙織は愛美を抱きしめた。
「和也が助けてくれたんだね。愛美、無事でよかったよ」
警察官が帰ったあとの記憶はない。
そのままベッドで泣きすぎて、眠ってしまったようだ。
◇◇◇
学校は夏休み中だったが、臨時集会があり詳細が報告されていた。
椎名和也君は、通り魔から女子中学生を守るために、自ら犯人に立ち向かったとか。
壇上で校長は、涙を拭きながら説明している。
教室に戻ると、和也の机には花が飾られていた。
教室でも友達と泣いた。
数日が経ち、和也の葬儀に行ってきた。
和也の顔は綺麗だった。
棺に抱き着いて泣いてしまったが、お母さんに肩を借りてなんとか帰ってきた。
愛美もずっと泣いていた。
沙織はベッドに寝ころびながら、天井を眺める。
「和也、愛美を救ってくれてありがとう。花火に来てたならもしかしたら、愛美が危なかったかもしれない。告白できなかったけど和也のことずっと好きだよ」
教室で和也を隠し撮りした写真を眺めながらつぶやいた。