PCR検査に激痛、護送車のようなバスで移動… 海外帰国後の自主隔離を記者が体験

2020年7月21日 11時26分
 PCR検査の激痛に驚き、帰国後の自主隔離費用では懐が痛んだ。夫(37)の米ワシントン赴任に同行し、会社を1年休職していた記者(33)は6月、任期を終えた夫とともに帰国し、2週間の自主隔離生活を経験した。これから帰国する人に少しでも参考にしてもらえればと思い、記者の体験を紹介する。(畑間香織)

◆帰国便は夫とバラバラ

羽田空港から一時滞在のホテルへ向かうバスの車内。カーテンは開かず、座席にビニールがかかっていた =6月1日

 「帰国が早まる?!」。新型コロナウイルス感染拡大に伴い、ワシントンで外出禁止令が出ていた3月下旬、夫の勤務先から2週間前倒しでの帰国を求められた。日本政府が海外からの帰国者を対象に帰国後2週間の自主隔離を要請したことを受け、6月15日だった日本への帰国日を1日に早めることになった。
 なんとか変更できた航空便は夫婦で発着地がバラバラ。夫はダレス発成田着、記者はワシントン国際発羽田着の便で帰国することになった。
 関門はまだあった。空港検疫でPCR検査の結果が出た後、どこで自主隔離をするかを帰国前に決めなくてはならなかった。政府の水際対策では、米国を含む129の国・地域(7月1日現在)からの帰国者を対象にPCR検査の実施と2週間の自主隔離、電車やタクシーなど公共交通機関を使わないよう求めている。
 夫婦とも実家は東京にあるが、60歳を過ぎた両親に感染させるのは避けたい。家探しもしなくてはいけない。住民票の登録に必要な戸籍謄本などの郵送物のほか、米国から送る引っ越し荷物を受け取るためにホテル以外の施設をインターネットで探したが、4月中旬時点では選択肢がほとんどなかった。

◆港区の宿泊施設に滞在

 民泊運営会社「マツリテクノロジーズ」(東京都豊島区)が仲介する、家具・家電付きの宿泊施設(港区)を借りられた。部屋は40平方メートルの1LDKで、利用料は25万円。夫の勤務先から一部補助が出た。ホテルに比べると割高だが料理や洗濯ができ、身の回りの物を詰めたスーツケース5個、段ボール2個を持ち込めることから決めた。
 5月31日朝、ワシントンに近接するバージニア州のワシントン国際空港へ。搭乗口のテレビには、中西部ミネソタ州で黒人男性が白人警官に首を膝で圧迫され、その後死亡した事件を機に全米に広がった抗議デモの映像が流れていた。
 記者が利用したデルタ航空では、客室乗務員から、1枚ずつ個包装された除菌シートが配られた。座席ポケットの雑誌類は撤去され、3人席の中央は空席。機内はガラガラで、みなマスク姿だった。

下の方に小さい字で「虚偽の申告をした方は、検疫法第36条により罰せられる」と記された質問票


 経由地デトロイトの空港で、デルタ航空の職員から入国時に提出する申告書や質問票など4枚つづりの書類を受け取った。通常記入する税関申告書とは別の、感染症対策の書類だ。
 1枚目には「入国される方へ検疫所よりお知らせ」とあり、「指定された場所から14日間外出せず、人との接触を可能な限り控えてください」「公共交通機関を使用しないでください」といった「お願い」ベースの要請文が並んでいた。しかし、パスポート番号や日本での住所を書く質問票と、自主隔離の場所を記す申告書には、検疫法により罰せられることがあると書かれていた。
 要請を守らないと法律違反になるの? 記事を書くにあたり厚労省検疫所業務管理室の担当者に聞いた。感染症対策においては、自主隔離やPCR検査、公共交通の利用を控えるよう求める法律がなく、あくまで要請で、応じなくても罰則はない。一方で、検査を受けなかったり、自主隔離場所などに関して虚偽の申告をしたりした場合、検疫法違反として罰せられる可能性はあるという。

◆空港に3時間半

 翌日午後2時半に羽田空港に到着した。搭乗ゲートに乗客が集められ、検疫官からPCR検査の説明を受けた。検査場は3ブースあり、ついたてで仕切られていた。防護服に身を包んだ検疫官からいすに座ってマスクを鼻の下まで下ろすよう言われ、長さ15センチほどの綿棒を鼻の穴に入れられた。激痛が走り、思わず頭を後ろに倒すと、「動かないで」と注意され、さらに2、3回ぐりぐりと鼻の奥で綿棒を回された。二度とやりたくない。翌日に記者が、翌々日には夫が、PCR検査陰性の知らせをそれぞれ受けた。

帰国者にPCR検査をする検疫官(左) =7月17日、千葉県成田市の成田空港で


 検査後は自宅に帰る人、空港内で結果を待つ人、結果が出るまで検疫所長が指定した施設での待機を希望する人に振り分けられた。指定施設での待機を希望した記者を含む約30人は、そこから2時間ほど待たされた。いつまで待てばいいのか、検疫官らに聞いてもらちがあかず、精神的にもフライトで疲れ切っていた体にも堪えた。
 午後6時、ようやく入国審査や荷物の受け取りを済ませ、専用バスで千葉県浦安市のホテルに向かった。車内は感染対策が徹底されていた。座席には透明のビニールがかけられ、離れて座るよう指示があった。窓のカーテンはすべて閉め切られて外は見えず、まるで護送車で移送される感覚に陥った。

◆ささいなことで衝突

 2泊の滞在中は、部屋から出ることを禁じられた。午前8時、正午、午後6時に流れる館内アナウンスを合図に、ドアノブにかけられた弁当を取り込む。牛丼や焼き魚など、日本ならではの食事がうれしかった。

毎食ポリ袋に入れられて提供された食事=6月2日、千葉県浦安市で

 記者の泊まった浦安のホテルでは、弁当に緑茶が付いたほか、2リットルの水のボトルが2本提供された。一方、成田空港そばのホテルに泊まった夫は、緑茶は出たが、水はなし。「洗面所のお水をお飲みください」と言われたという。ホテルから自主隔離先への移動についても、記者はホテルからの専用バスで送ってもらえたが、夫は帰国前に予約したレンタカーを利用した。
 隔離中は、日用品の買い物と気晴らしの散歩を除き外出を控えた。保健所から健康状態を確認する自動音声の電話が毎日かかってきた。狭い空間に夫婦で長時間いると息が詰まり、ささいなことで衝突するのがストレスだった。

◆滞在費に支援を

 空港から隔離先への移動費用や滞在費は自腹。経済的に余裕がない人はどうするのか、気になった。金銭的な補助があっても良いのではないか。また、子どもがいる家族やお年寄りには、空港内での待ち時間の長さと重い荷物を抱えての移動は相当酷だ。申告書の書類を簡素化するなど、帰国者と検疫官の負担が軽減する仕組みに改善していってほしい。
 コロナ禍以降の空港検疫や自主隔離先などについての情報は少なく、記者は先に帰国した人の経験談に頼るしかなかった。刻々と変わる情報を日本語で知りたい海外在住者は確実にいる。わが身の経験を今後の取材活動に生かしたい。

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