「夜の街」という言葉が社会を分断 歌舞伎町の元ホストが明かす苦悩
2020年7月20日 22時06分
全国屈指の繁華街である東京・新宿歌舞伎町は、新型コロナウイルス感染拡大の震源地として、「夜の街」と知事やメディアから名指しされた。歌舞伎町でホストとなり、今はホストクラブを経営する手塚マキさん(42)は、「昼の街」との分断が感染を広げた部分があると考えている。行政と商売仲間をつなぎ「繁華街新型コロナ対策連絡会」発足の立役者として奔走する元ホストは、現場で何を考え、何に苦悩しているのかー。(聞き手・中村真暁)
◆感染拡大の背景にあるホストの「生態系」
―ホストクラブなど接待を伴う飲食店で感染者が出ています。その背景は何ですか。
ホストクラブは歌舞伎町に約200店あり、5000人ほどが働いています。50坪の店内に20人が働き、客が10人入れば、結構混雑していると言われるんです。そうした意味では、居酒屋などの飲食店と違わない。店の構造に問題はないと思いますね。
今はみな、マスク姿で営業しています。シャンパンコールや飲み物の回し飲みもしていないと思います。新宿区との意見交換を経て、接待を伴う飲食店向けのチェックリストもできました。僕も従業員の根本的な衛生意識を上げ、健康でいることに留意しようと考えてきました。
ホストクラブでというより、ホストという「生態系」ではやったと考えているんです。仕事後に同僚と食事し、飲んで帰る人が多いんです。行動パターンがみな同じだから、その中で感染したのではないでしょうか。全体の2~3割は1部屋に1人か2人で暮らす寮生活もしている。区との勉強会でも、スポーツジムや病院のクラスターは、控室や更衣室で気を抜き、マスクを外したときに発生したと聞きましたが、同じことが起きています。
◆名乗り出ることをマイナスにしてはよくない
―新宿区と繁華街の連絡会ができた経緯を教えてください。
区側が歩み寄ってくれました。吉住健一区長(48)から6月1日に「実情を知りたい。相談があるので、会って話したい」とメールがあり、事業者を連れて話を聞きに行ったんです。区側は「自分たちは味方だ」と時間をかけて話してくれた。当初はみな、国や都、区、警察など、行政はひとまとまりだと思っていたと思いますが、自治体がどう独立、連携しているかといった基本的な説明からしてくれました。
でも、検査に協力したことがやぶ蛇になったと思う人もたくさんいるでしょう。多くの感染者が出て、メディアがやり玉にあげた。感染を名乗り出ることをマイナスにしてはよくないですよね。
◆「昼の街」と地続きも 貧困、格差のひずみ集積
―なぜホストクラブばかり話題に上がるのでしょうか。
集団で検査を積極的にしたからでしょう。ホストクラブは顧客情報も把握し、従業員の管理も以前からしっかりとやってきました。だから検査につながり、数字が出た。
「夜の街やホストクラブではやっている」と言われると、本人たちもそうだと思い込んでしまう。ホストクラブでは気を付けるけど、一歩外に出たら「大丈夫だ」と勘違いする。感染は人同士で起きるため、人との関わり方に気を付ける生活様式に本来は変えるべきなんです。でも、メディアはそうした発信をしていない。
「夜の街」で遊ぶのは「昼の街」の人で、いずれも地続きにあります。ホストクラブも社会の一部なんですよ。「夜の街」といった言葉が社会を分断させ、感染まん延にもつながったと思うんです。
あいまいに攻撃対象を作り、周囲を巻き込むように、責任も負わずに攻撃することは分断を招くことにつながると思います。そうしたメディアや権力者の発信に、分断させたいんだな、と驚いています。
僕たちの業界は、社会のセーフティーネットとも言われてきました。貧困や教育格差など社会のひずみの問題が集積し、問題が起きやすいのは当然なんです。いつの時代も、労働者が集まるパブや売春宿で感染症が拡大したと言われます。それを事実として受け止め、専門家の知見を取り入れながら、僕ら一人ひとりの意識を高めたいと思います。
◆一人ひとりの考え方を変える施策こそ
―都は、区市町村が接待の伴う店に休業要請し協力金を支給する場合、50万円を補助する考えです。
応じるかは店によりけりでしょうね。でも、店を封鎖する方法にメリットを感じません。休業しても、人が市中に出てしまう。今は対策が店ごとですが、感染症は人同士の問題。特に接待業は、一人ひとりの考え方を変えることが重要です。例えば、従業員に感染症対策の講習会を受けて検定を取ってもらうといった方法もあります。ホスト業界はコロナ対策の最先端にいると思うし、そういう風にしたいです。
―区が支給する見舞金10万円で感染が増えたという声もありますが。
間違いだと思います。このニュースが出る前に、集団で検査を受けていますから。区内に住民票があるという受給資格に当たらない人も少なくないんです。
そもそも、いい質問ではありません。「見舞金欲しさに感染するのか」と聞くこと自体が、そうした人がいそうな雰囲気を醸し出していますよ。そうした人がいるわけないと言ったって、いるかもしれない。そんなことを論じない方がいいし、こうした問いを当たり前にする社会に問題がありますよ。
てづか・まき 19歳で歌舞伎町のホストに。現在は、ホストクラブ、バー、飲食店、美容室など16店を構える「Smappa!Group」の会長。歌舞伎町商店街振興組合常任理事
PR情報