GoTo事業 延期を重ねて求めたい
2020年7月21日 07時38分
コロナ禍に苦しむ観光産業を支援するGoTo事業があす始まる。東京を除外したスタートだが、全面延期を求める意見は増えている。国民の声を無視した強引な姿勢を改め、当面延期すべきだ。
二十二日に始まるのは事業の軸である「GoToトラベル」。旅行者への補助金と地域クーポン支給を組み合わせた支援策だ。
十七日から十九日に実施した共同通信の世論調査によると、約62%が「全面的に延期すべきだった」と回答した。他のメディアの調査でも同様の結果が出ている。大半の国民が、このタイミングでの実施に反対していることは間違いないだろう。
最大の問題は今が観光を促す時期なのかどうかという点に尽きる。感染拡大の規模が大きい東京を除いても、都内へ行き来する人が多い近隣三県では事業を利用できる。東京に次いで感染が増えている大阪府も除外されていない。
観光地周辺に暮らす人々が、感染拡大地域からの人の移動が急増することに強い不安を覚えるのは当然だ。一方、都民以外の首都圏や大阪府など都市部の人々も、自らの旅が感染を拡大させる危険を感じているはずだ。
受け入れ側も赴く側も不安が増幅する中、約一兆三千五百億円を投じて旅を促しても期待した効果は得られないのではないか。
事業は当初、八月上旬開始の予定だったが前倒しとなった。今週の四連休を含めることで利用増を狙ったのだろう。だが前倒しを決めた後、感染は再び増え始め、それは全国に広がりつつある。
いったん予算が付いた国の事業を中止や延期するのは難しいのかもしれない。関係省庁や請け負った事業者などの抵抗が非常に強いためだ。
しかし、国民の命に関わる感染症関連の予算は例外であるべきだ。もし決めた方針を覆すことで批判を浴びるとの懸念を政権側が持っているとすれば、それは杞憂(きゆう)にすぎない。
感染症の拡大は誰も先が読めない。事態の推移をきめ細かく監視し、臨機応変に対応することが最も肝要なはずだ。
観光産業の苦境は指摘するまでもない。支援は喫緊の課題だ。だが国が促した旅がクラスターを引き起こせば元も子もない。
秋や冬も日本は観光に適している。今回は事業を延期し、巨額予算の一部を休業補償に回して耐え忍ぶ。その上で適切な開始時期を模索するよう重ねて求めたい。
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