高齢施設の被災 早めの避難が命を守る
2020年7月21日 07時38分
九州を襲った豪雨で熊本県の特別養護老人ホーム「千寿園」の入所者十四人が死亡した。高齢者施設はこれまでも豪雨や台風で被災してきた。被害を繰り返さぬよう早めの避難を心掛けたい。
熊本県球磨村の特別養護老人ホーム(特養)千寿園は、急流で知られる球磨川の支流近くにある。水害の危険と隣り合う地域だ。
村によると、球磨川は今月四日未明、一時間半で水位が約三メートル上昇した。一気に川の水があふれて千寿園は被災し、入所者は逃げる間もなかったようだ。
千寿園に濁流が押し寄せたのは四日早朝で、職員の配置が手薄となる時間帯だった。地元住民らも加わって入居者を施設二階へ避難させたが、残念ながら全員を救うことはできなかった。
国は被災の恐れがある特養や病院などの施設に対し、避難計画の策定や訓練の実施を義務付けている。しかし、全国約七万八千カ所の対象施設のうち、計画を策定した施設は45%にとどまる。
対象施設である千寿園では避難計画をつくり、年二回の訓練も実施していたという。被害を防げなかった要因は何か。被災の詳細な状況を検証して、その教訓を共有する必要がある。
特養は原則要介護3以上の人が入所する。車いすの利用者もいれば、認知症の人など自力での避難が難しい高齢者も少なくない。避難には時間がかかる。
その一方で、施設の多くは恒常的に人手不足で、少ない人員での対応を強いられている。新型コロナウイルス感染症の対策に神経を擦り減らす日々も続いている。
それでも人命を守ることは最優先だ。そのためには、より早い判断と避難が必要だ。情報を集め、被災の恐れがあれば、行政の避難勧告・指示を待たずに避難を始める意識を持たねばなるまい。
道路が冠水して職員が駆けつけられない場合も想定される。天候の変化に応じて、宿直職員を前もって増員するなどの対策も考えておくべきだろう。
昨年の台風被害で浸水し、入所者ら約二百人が孤立した埼玉県内の特養では、高台にある建物の二階に「垂直避難」して、無事救助された。エレベーター設置などと合わせて高齢者の避難には有効な対策だ。
被災の恐れのある高齢者施設を安全な場所へ移転させる取り組みも続けねばならない。国、自治体は土地の確保や費用負担などの支援策も検討すべきである。
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