アラブ首長国連邦の火星探査機HOPEを載せ、打ち上げられたH2Aロケット42号機=2020年7月20日午前6時58分、鹿児島県の種子島宇宙センター、吉本美奈子撮影

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 三菱重工業は20日午前6時58分、H2Aロケット42号機を鹿児島県の種子島宇宙センターから打ち上げた。

 約1時間後、アラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機「HOPE(ホープ)」を高度約400キロで予定の軌道に投入し、打ち上げは成功した。H2A打ち上げは36回連続で成功し、成功率は97・6%となった。H2Aで海外の探査機などを打ち上げるのは4回目で、UAEは40号機の観測衛星に続き2回目。

 HOPEは来年2月に火星を回る軌道に入り、火星大気の温度や水蒸気、ちりなどを観測する予定だ。開発したムハンマド・ビン・ラシード宇宙センターのユーサフ・ハマド・シャイバニ長官は「私たちは不可能だと思っていた夢を成し遂げた。美しい打ち上げをありがとう」と話した。

 打ち上げは当初15日の予定だったが、悪天候で延期されていた。(小川詩織)

■UAE、国を挙げて祝福

 アラブ首長国連邦(UAE)の火星探査機が載せられたH2Aロケットの日本での打ち上げ成功を、UAEの人々は国を挙げて祝福した。

 地元テレビは、アラブの国々にとって初の火星探査機が打ち上げられる1時間以上前から特集番組を放映し、日本と中継を結んだ。種子島で打ち上げに立ち会ったUAEの技術者らは、「たくさんの困難があったが打ち勝ってきた」などと興奮した様子で語った。地元紙も打ち上げ前から1面に記事を据え、「アラブの歴史の転換点だ」などと伝えていた。

 世界一高いビルや砂漠のリゾートホテルで日本人にもなじみの深いUAE。中東で最大の約4千人の日本人が住む。潤沢なオイルマネーや地域のビジネスハブとしての役割を背景に成長を続けてきたが、原油価格の下落や需要低迷を見据え、産業の多角化を目指す。人工知能(AI)などと並んで、力を入れるのが宇宙産業だ。

 UAEは2014年に宇宙庁を設立。昨年9月にはUAE初の宇宙飛行士が誕生した。応募には4千人以上が殺到する人気ぶりだった。地元メディアなどによると、宇宙事業に投じた額はこれまでに200億ディルハム(約5800億円)以上にのぼるという。

 自国での開発を進めることは、若い技術者の育成と科学立国への足がかりにもなる。「希望」と名付けられた今回の探査機は、米国の大学などと協力して数年かけて開発。UAE首相を務めるドバイのムハンマド首長は、「(探査機は)科学的な成果だけでなく、不可能はないという未来の世代へのメッセージになる」と訴える。

 今回の火星探査機が軌道に入るのは、UAE建国50周年となる来年の2月の予定だ。新型コロナウイルスの影響で来年への延期が決まっているドバイの万博とともに、国の威信を高める機会になるとみられている。(ドバイ=高野裕介)