新型ウイルス重症者、肺に損傷残る恐れ 英医師ら警告
ジム・リード、ソフィ・ハッチンソン(BBCニュース)
新型コロナウイルスによる感染症COVID-19で重症になった何万もの人々は、永久的な肺の損傷を負っていないか病院で検査する必要があると、複数の医師がBBCに明かした。
専門家たちは、かなりの割合の患者に、肺線維症として知られる肺の傷痕が残っている可能性があると懸念している。
息切れやせき、倦怠(けんたい)感といった症状が現れる。回復は難しいという。
英国民保健サービス(NHS)イングランドは、専門のリハビリテーション・センターを開設中だとした。
タクシー運転手だったアントニー・マクヒューさん(68)は3月6日にCOVID-19の症状が現れて入院した。病状が悪化したため集中治療室(ICU)に移され、13日間人工呼吸器を装着された。
「息切れを感じていた。それからICUに急いで移されたのは覚えているけど、その後は全く覚えていない」と、マクヒューさんは振り返った。
「生きていられて幸運」
英ハートフォードシャー出身のマクヒューさんは、病院で計4週間、NHSのリハビリテーション・ユニットで2週間過ごした。4月中旬に自宅へ戻ったが、それから2カ月後の今も息苦しさに苦しんでいる。
「階段を上ったり、外で花に水やりをしたり、そんなちょっとしたことで、体をかがめて立ち止まらなければならない」
入院中に撮影したコンピューター断層撮影(CT)スキャンでは、白い霧あるいは「すりガラス」のような影が左右の肺にあるのがわかる。これは新型ウイルスの特徴的な兆候だ。
重症化すると、新型ウイルスは免疫の過剰反応を引き起こし、肺胞と呼ばれる空気の袋の内部に体液などがたまると考えられている。これが起こると肺炎を引き起こし、介助なしでは呼吸が困難な状態になる可能性がある。
退院から6週間後に撮影されたマクヒューさんの肺のX線写真には、網状影として知られる、白い細い線状の陰影が写っていた。これは傷ができていることや肺線維症の初期の兆候を示している可能性があるものだ。
「心配」
「これらのすべての事例において、我々は現時点では確かなことは言えない」と、英胸部画像学会執行委員で、英ロイヤル・コレッジ・オブ・レディオロジスト(放射線科医)のアドバイザーを務めるサム・ヘア医師は述べた。
「しかしウイルスや感染症の場合は通常、6週間後にはスキャンの結果は正常に戻ると考えられている。今回はそうではないので、それが心配だ」
退院したほかのCOVID-19患者と同様に、マクヒューさんは傷になった疑いがある状態が悪化していないかを確認するため、12週間後に再度スキャンする必要がある。
COVID-19による肺の損傷の有病率に関する研究は、まだ非常に初期の段階にある。
症状が軽い人は永久的な損傷を負う可能性は低いと考えられている。しかし、入院が必要な人や、特に集中治療室に入っている人あるいは重度の感染症の人は、より合併症を引き起こしやすいという。
3月に発表された中国のある研究は、患者70人のうち66人に、退院後もある程度の肺の損傷がみられるとしていた。
イギリスの放射線科医たちは、経過観察のスキャンの初期結果から、深刻な感染症がもたらす長期的な影響を懸念していると話す。
「我々が確認している6週間のスキャンでは、これまでのところ、入院していた患者の2割から3割に傷になる初期の兆候がみられるようだ」と、NHSのX線写真の手順作成を手助けしたヘア医師は言う。
ほかのイギリスの放射線科医たちもBBCに対し、同様のパターンに気付いていると語っている。
新型コロナウイルスとは異なるコロナウイルスが病原体の重症急性呼吸器症候群(SARS)や中東呼吸器症候群(MERS)に関するより詳細なデータによると、患者の2割から6割に肺線維症と一致する健康問題がみられたという。
これらの感染症の初期のアウトブレイクは比較的うまく封じ込められた。しかし今回の新型ウイルスは世界中に拡大し、これまでに800万人以上の感染が確認されている。
NHSのデータによるとイングランドでは2月にパンデミックが始まって以降、病院での治療を必要とした人の数は10万人以上に上った。
「非常に多くの人が新型ウイルスに感染しているので、我々は膨大な数の患者を治療しなければならなくなるのではないかと、私は懸念している」とヘア医師は述べた。
今後の治療
肺組織の傷痕は永久に残るため、肺線維症を完治することはできない。しかし、新薬で症状の進行を遅らせたり、発見の時期によっては進行を完全に止めたりすることもできる。
「我々はこれがどれほど大きな問題かを理解し、いつ治療に介入すべきかを理解する必要がある」と、退院したCOVID-19患者の検査を行う、英国立衛生研究所(NIHR)のジスリ・ジェンキンス教授は述べた。
英中部ノッティンガムを拠点に活動するジェンキンス教授は、「私の本当の懸念は、非常に多くの人が同時に、同じ肺の損傷を受けるという状況を、私たちはこれまで1度も経験していないことだ」と述べた。
NHSイングランドは肺の損傷を含む、長期的な影響からの回復を支援するためのCOVID-19リハビリテーション・センターを多数設置することを計画しているとしている。
スコットランドとウェールズでは、既存のサービスを適応させて、地域社会のリハビリテーションを増やす方針という。
感染対策
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