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 新宿区の劇場で新型コロナウイルス感染症の集団感染が起きたというニュースがありました。報道によれば出演者の1人が体調不良だったものの抗体検査が陰性であったことから出演したとのことです。抗体検査は病原体に対する体の反応をみることで感染したかどうかを判断します。感染してから抗体ができるまで時間がかかり、感染初期には結果が陰性になりやすいため、新型コロナウイルスに感染していない「お墨付き」を目的に抗体検査を行うべきではありません。

 ただ、他の感染症については必ずしもそうではありません。たとえば、C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかを調べるために抗体検査はよく使われています。C型肝炎ウイルスに感染してすぐは急性肝炎が起きますが、それが原因で亡くなることはまれです。C型肝炎が問題になるのは主に、慢性肝炎に移行し、徐々に肝臓が弱って肝硬変になったり肝細胞がんを発症したりすることです。

 普通の検査は、まず何か症状があるときにその症状の原因を調べるために行われますが、慢性ウイルス性肝炎はほとんど自覚症状がありません。そのため、「スクリーニング検査」といって無症状の人を検査して見つけることになります。スクリーニング検査は多くの人を対象にするため、簡便でコストの安い検査方法が求められます。

 C型肝炎ウイルスに感染しているかどうかはPCR検査でもわかりますが、症状のない多くの人を対象にPCR検査をするのは費用がかかりすぎます。抗体検査ならウイルスに感染している可能性の高い人を効率よく見つけることができます。抗体が陽性になった人に対し、改めて精密検査としてPCR検査を行います。過去に感染して今は治っている人も抗体検査が陽性になりますが、精密検査で判断できます。スクリーニング検査では、ある程度の偽陽性は許容できます。

 いまではよい治療法ができて、慢性C型肝炎は治る病気になりました。これまで一度もウイルス性肝炎の検査を受けたことのない人は、一生に一度は検査を受けることをおすすめします。費用を補助している自治体も多くあります。ただし、いまは新型コロナの流行期ですので、流行が落ち着いてからのほうがいいでしょう。

 同じC型肝炎の検査でも、輸血用血液製剤のように高い安全性が要求される場合は、最初からPCR検査が行われます。また、B型肝炎のスクリーニング検査には抗体検査ではなく抗原検査が使われています。それぞれの病気や検査の特性を考えた上で、目的に応じて適材適所の検査の使い分けがなされているのです。

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