トランプ氏 法の支配を蝕む無軌道
2020年7月20日 07時52分
罪を重ねた盟友の禁錮刑を免除し、自分の周辺を捜査する検事を解任する−。トランプ米大統領の「司法介入」が目に余る。法の支配を蝕(むしば)む無軌道を放置すれば、社会に深い禍根を残す。
二〇一六年の前回大統領選でトランプ選対の幹部だったストーン元被告は、ロシア疑惑をめぐる偽証罪や証人買収など七つの罪状で禁錮三年四月の実刑判決を受けて収監されるはずだった。その矢先にトランプ氏は大統領権限を行使して刑を免除した。
ストーン元被告は三十年以上にわたるトランプ氏の盟友。前回大統領選でトランプ陣営とロシアが共謀したとされる疑惑の捜査には一貫して協力を拒み続けた。
篤(あつ)い忠誠心を示したストーン元被告の裁判で、トランプ氏は求刑段階から露骨に干渉した。検察側の禁錮七〜九年の求刑が重すぎるとして撤回を要求した。
ロシア疑惑ではこの五月、捜査官への偽証を認めたフリン元大統領補佐官の起訴を司法省が取り下げた。これには二千人以上の司法省OBらが「トランプ氏の利益のために司法省を道具に利用した」とバー司法長官の辞任を求める声明を出した。
司法制度を揺るがす騒動はまだある。
バー氏は六月、ニューヨーク連邦地検のバーマン検事の辞任を発表した。ところが当のバーマン氏は「報道発表で自分の辞任を知った」と反発して辞任を拒否。この後、バー氏は自分の要請に応じてトランプ氏がバーマン氏を解任したと発表した。
バーマン氏はトランプ氏の顧問弁護士ジュリアーニ元ニューヨーク市長らトランプ氏周辺の捜査を指揮していた。
なりふり構わず味方を守る一方で敵を排除する。職権乱用と言わざるを得ないトランプ氏の行動である。そこに倫理観や順法意識はうかがえない。全米で吹き荒れた人種差別抗議デモに対し、法と秩序の重要性を主張したのは誰だったか。
暴走するトランプ氏のブレーキ役を果たすべきは議会である。とりわけ上院で過半数を占める与党の共和党の責任は重い。ところが共和党支持層は圧倒的にトランプ氏支持だ。共和党議員はその顔色をうかがって強くは出られない。
それでも議会人としての職責と良識があるはずだ。法治を損なう大統領の放縦に目をつぶっている場合ではない。
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