新型コロナの感染が全国に広がり、列島を不安が覆う。
そんななか大きな関心を集めたのが、東京・新宿の劇場で起きた集団感染だ。都外からの観客も多く、勤務する群馬県のこども園の園児ら約70人が濃厚接触者として検査を受けたり、通学先の島根県の大学キャンパスが立ち入り禁止になったりするなど、影響は各地に及んだ。
主催者側は業界の感染防止ガイドラインに従っていたと主張する。だが西村康稔担当相は、出演者と観客がふれ合う場面があったと聞いているなどと述べ、対応の不備に言及した。
詳細はまだ不明だが、主催者側の取り組みの甘さは否定できない。たとえば、体調の異変を訴えた出演者がいたが、抗体検査で陰性だったことなどから、公演に参加させたという。
抗体検査は過去の感染歴を調べるものだ。陰性だからといって「いま感染していない」ことを示すものではなく、適切な用い方とはいえない。文化庁が検査費用を補助金の支給対象にしていたのも、同様の誤解に基づく措置ではなかったか。文化行政を所管する官庁がこれでは、現場も困惑するだろう。
劇場で何が起きていたのか、東京都などの調査に、厚生労働省も積極的に協力してもらいたい。このところ国と都の不協和音が目につくが、そんなことをしている場合ではない。
これまでに大規模なクラスター(感染者集団)が発生した場所や地域には、厚労省から対策班が派遣され、原因の調査と再発防止のための助言・提言を行ってきた。問題は、その情報や教訓が広く共有されているとは言いがたいことだ。
一元的に管理し、誰もがアクセスできる態勢を作る。そこで得られた最新の知見に基づき、これまでに150以上策定されている業種別ガイドラインを随時見直す。そんな仕組みを設けて、対策班の仕事の成果を最大限役立てるべきだ。
ガイドラインをめぐっては、分かりにくい、使いにくいといった課題もある。一例をあげれば3密を防ぐための換気だ。多くは「常時」「徹底」などと書かれているだけだ。具体的にどうすればいいのか。状況に即してきめ細かな対応ができるよう、内容を充実させてほしい。
新宿の劇場の集団感染をもって、集客イベント全般に待ったをかける必要はむろんないが、一方で「あれは特殊ケース」で片づけてしまうのもよくない。
新型コロナには依然として未解明の部分が多く、手探りの状態がなお続く。失敗事例も含めて教訓を社会で蓄積・共有し、対策についても不断の見直しを続ける。この姿勢が大切だ。
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