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 東京電力福島第一原発の事故で汚染された土地は除染し、再び人が住めるようにするという政策を、部分的だが見直すことになる。

 福島県内の避難指示区域について、全面的な除染なしに指示を解除できる新たなしくみを作る方針を、政府が表明した。村内の大半で指示が解除された飯舘村の要望を受けての転換だ。

 ただ、放射性物質汚染対処特措法は、原発事故による環境汚染への対処を「国の責務」としている。新たなしくみを、その軽減の口実に使うことがあってはならない。

 飯舘村で唯一、人が住めない帰還困難区域のままになっている長泥(ながどろ)地区。全1100ヘクタールのうち、避難指示解除が予定される「特定復興再生拠点」に政府が認定したのは186ヘクタールだけ。それ以外は解除の見通しがない。これでは住民の帰還や復興に支障が出ると考えた村は2月、要望書を政府に提出した。

 地区では拠点外でも、除染しない状態で国の避難基準の放射線量をほぼ下回っている。拠点外は公園として整備する。住民が折にふれて訪れられるよう、地区で一斉に避難指示を解除してほしい――。

 これを、人が住まないので除染はしなくていいという意味だと政府側は受け止め、今回のしくみ作りにつながったという。

 事故から9年余が経ち、新たに帰還する住民は減っている。村の要望は、一日も早く地区を一体で復興したいという切実な思いの表れとみるべきだ。

 新たなしくみでも、避難指示が解除された後、出入りする人に放射線の影響が及ばないようにするのは当然だ。原子力規制委員会は、これから政府が示す具体的な防護策の是非を厳密に検討する必要がある。

 原発被災地にとって大きな問題は、帰還困難区域全体の除染をどう進めるのかという具体策やスケジュールが全く示されていないことだ。

 避難指示が残る県内7市町村の帰還困難区域約3・3万ヘクタールのうち、解除する予定になっているのは、6町村の計2700ヘクタールに過ぎない。

 飯舘村以外の町村では、全区域の除染を求める声が根強い。新たなしくみを採用するかどうか踏み絵を迫るようなことをすれば、地域社会の分断につながる。地元自治体だけでなく住民の要望が、採用の前提であることを忘れてはならない。

 今も2万2千人が避難生活を続けている。彼らが一人残らず安心して生活できるよう、いつまでに、どのようにして避難指示の解除をめざすのか。その方策を明らかにすることが政府に求められる。

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