新型コロナウイルスの感染者から感染するかどうか試すという“コロナパーティー”が、全米を席巻している。少なくとも米国のメディアにおいては、の話だ。

この話題に関する最新のニュースは、30歳の男性がコロナパーティーに参加したことを、亡くなる間際に告白したとされるテキサス州での事例だ。「この患者は亡くなる直前に看護師のほうを見て、『ぼくは間違っていた。デマだと思っていたのに本当だった』と言ったのです」と、サンアントニオのメソジスト病院の最高医務責任者のジェーン・アップルビーは明らかにしている。

この情報は7月10日の段階ではテキサス州南部の地域ニュースだったが、まもなく全国ニュースになった。7月12日には『ニューヨーク・タイムズ』に取り上げられ、こうしたパーティーが「危険で無責任、かつ死に至る可能性さえある」という医師の警告とともに伝えられた

ある奇妙な法則

この話題については7月2日の段階で、『WIRED』US版で取り上げている。新型コロナウイルスへの感染を目的として集まったとされる“コロナパーティー”に関する報道が、明らかに一定のパターンに沿っていたのだ。

このニュースの情報源は、常に政府か保健当局の関係者である。しかも、発生したとされる出来事を直に知っている者から、少なくとも数人は経由した情報だったのである。また、ニュースを最初に地元メディアが報道し、詳細について報じることさえしなかった大手メディアが詳しく取り上げる。

例えば数週間前のことだが、感染者とのパーティーを開催して誰が最初にウイルスに感染するのか賭けていたとされるアラバマの大学生の話が、インターネット上でもちきりになっていた。これをAP通信やCNNなどのメディアが、南部の人たちや愚かな大学生に関するお決まりのステレオタイプを加えて取り上げた。

ところが実際に調べてみると、これらのニュースのすべてが、ひとりのタスカルーサ市議会議員にたどり着くことがわかった。そしてこの市会議員は、この話の証拠を示していない。

伝聞に次ぐ伝聞

こうしたなかアラバマ大学の学生新聞が、自身の診療所で新型コロナウイルスの検査を手がけてきたタスカルーサの医師のラメッシュ・ペラムセッティが、この噂が事実であると語る記事を出した。『WIRED』US版の記事が公開された直後のことだ。

そこでペラムセッティに改めて詳しく話を聞いたところ、コロナパーティーに関する一次情報をもっていたわけではなく、患者と接している職員から聞いた話だったことを認めた。そしてペラムセッティは、この件を直に知っているというクリニカルマネージャーのジェリー・ハンナを紹介してくれた。

ところがハンナによると、コロナパーティーについては診療所の別の職員から聞いたのだという。新型コロナウイルスの検査所を運営していることで嫌がらせを受けているというふたり目の職員は、コロナパーティーについて、誰だったのか明確には思い出せないが、職員のひとりから聞いただけだったと匿名で明かした。つまり、結局のところ噂にすぎなかったのである。

テキサスの件も、これとほぼ同じような経緯だった。本人が亡くなったことで確認はとれないが、患者が看護師のひとりに話を伝え、その看護師が院内の別の人に話したとみられている。

メソジスト病院のアップルビーは自身の投稿動画で、「今週とてもつらい話を聞きました」とを語っていた。また、アップルビーは地元テレビ局の取材に対し、「新型コロナウイルス感染症で陽性反応が出た人がいて、病気に勝てるか試す目的で友人たちを招待するようだ」という話を聞いたことがあるのだと、このパーティーについて説明している。

広がった誤った情報

このニュースについて『ニューヨーク・タイムズ』を含むメディアは、真相を探ることなく、またこのパーティーが開催されたとされる場所や時間などの基本的な情報を調べることなく報道した。なかには、「ウイルスがでっち上げだと思っていた30歳がコロナパーティー参加後に死亡」と伝えたABCニュースのように、話の出所を省略した見出しを出すことによって、誤った認識を視聴者に与えたメディアさえあった。

一方、地元の「サンアントニオ・エクスプレス・ニュース」は、サンアントニオ市のメトロポリタン保健局が「(市内の)アラモでそのようなパーティーが開催されたという情報は聞いていない」と説明していると報道している

そこでメソジスト病院に改めてコメントを求めたところ、広報部長のシェリー・ラヴ=モセリはアップルビーが不在であると説明した上で、彼女はすでに「この患者に関して話せることはすべて話した」と回答した。さらに病院としては、死の間際の告白について話した看護師の名前を公表することはできないとも説明している。

繰り返しつくり変えられたストーリー

あらゆる都市伝説の例に漏れず、コロナパーティーについての話は、人づてに伝わっていく過程で少しずつ内容が変わっていく。この話の最新ヴァージョンが出てくるまでは、コロナパーティーとは十中八九、ウイルスに感染して免疫を得て“さっさとけりを付ける”ことを目指した昔の「はしか(麻疹)パーティー」のようなものであろうと語られたり、想像されたりしていた。

その描写はすでに、感染するかどうか大学生が賭けていたとされるタスカルーサでの内容とは合わなくなっているようだ。サンアントニオの場合は、さらにその関連性は薄い。この犠牲者がパンデミックのことを本当にでっち上げだと考えていたのなら、なぜ抗体を欲しがっていたのだろうか? つまり、すでにコロナパーティーという概念は広がってしまっている。

これについて『ニューヨーク・タイムズ』は、尾ひれがついていることは誰の目にも明らかであるにもかかわらず、「こうしたパーティーの前提は、ウイルスが本当に存在するのか試したり、免疫を得るためにコロナウイルスに意図的に自らを晒したりすることである」と伝えている。 このニュースは、お金を賭けていたという話から始まり、息を引き取る直前の男が暴露したという今回の話に至るまで、何度もつくり変えられ、さらにドラマティックなものになっているようだ。

確認を怠ったメディアの責任

これらはどれひとつとして、当局の関係者たちが嘘をついていることを示唆するものではない。ニュースは、ひとり、またひとりと人々に伝えられるごとに、必然的に変異するものなのだ。そして、悲劇的な早すぎる死のことを軽視してはならない。

メソジスト病院のアップルビーのような人たちは、米国の一般市民に新型コロナウイルスの問題を真剣に受け止めてもらえるよう必死になっている。ためになる訓話を耳にしたとき、ほかの人に伝える前に、話ができすぎているのではないかと精査することは、必ずしもアップルビーの責任ではない。コロナパーティーの報道でしくじり続けている記者の仕事なのだ。

コロナパーティーについては何百回も報道されているが、記者がコロナパーティーに実際に参加したり、目撃したりしたと伝えられた事例をいまだにひとつとして知らない。Instagramの投稿、携帯電話で撮影した動画、パーティーの招待状のスクリーンショット、いずれの証拠も存在していないのだ。

“悪魔の証明”の先に

これはジャーナリストにとって不公平に思えるかもしれないが、そんなことはない。コロナパーティーではないパーティーによって感染が広がることを身をもって体験した無謀な人たちを取り上げた信憑性の高いニュースは、多数あるのだ。

「いまパーティーを開かなくてもいいんですよ」と、カンザスシティで多数の感染者を出したパーティーを開いた10代の男性は、地元の新聞に語っている。「人に感染させて、さらに感染を広めるような危険なことをする価値なんてありません」

これはコロナパーティーがでっち上げだったということなのだろうか? 必ずしもそうとは言えない。“悪魔の証明”ができない一方で、今後も証拠が出てくる可能性はある。だが、その証拠が出てくるまで、記者やエディターたちはきちんと精査することなく、裏付けがない噂を伝え続けるのだ。

現在は、パンデミックに関して誰もが認める事実を米国人に受け入れさせることでさえ、大変な状況にある。そうした状況そのものが大きな問題だろう。しかし、メディアと科学の双方に対する世間一般の不信感が危険レヴェルに達しているときに、確固たる証拠のないセンセーショナルな話を押し付けても、何の助けにもならないだろう。


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