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難攻不落の魔王城へようこそ~デバフは不要と勇者パーティーを追い出された黒魔導士、魔王軍の最高幹部に迎えられる~ 作者:御鷹穂積

第一章◇勇者に憧れた黒魔道士が魔王軍参謀になる話

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1◇その時までは勇者パーティー




 その日、僕は無職になった。職を失った。それはどちらかというとクビとか、退職に追い込まれたとか、追い出されたとか、追放されたとか、放逐されたとか、そんな表現が適切なアレだったが、敢えて自主退職と言わせてもらいたい。僕のささやかなプライドを保つ為に。

 さて、どのような経緯で僕がパーティーを自主的に脱したのか語ろうと思う。

 時間をざっと、数時間ほど巻き戻してみよう。


 ◇


 これは本当に自慢ではないのだが、僕が所属していた勇者パーティーの実力は世界でも五本指に数えられる程だ。

 というか、実際世界四位にランクインしている。

 現在では公式(、、)パーティーのメンバー上限は五人と決められている。

 僕のパーティーのメンバーは。


「しゃらくせぇッ!」


 まず、一人目。【戦士】のアルバ。逆だった髪に鋭い目つきが特徴的。体格に加え、身体を操るセンスにも優れている。

 そんなアルバのメイン武器は蛇腹状の刃を持つ特殊な魔法剣。伸縮自在のその剣は持ち主のイメージ通りに動く。だからこそ、遣い手の技量が問われる。

 アルバは迫り来る人狼・ウェアウルフの群れをたったの一振りで蹴散らす。押し寄せる大波の如く、魔法剣はウェアウルフ達を呑み込み――切り裂いた。


『――おぉっとォ!? ここでアルバの魔法剣が炸裂しましたッ! ウェアウルフが一、二、三……いやまとめて十数体以上やられたんじゃないでしょうか! 相変わらず凄まじい威力です! ですがこの攻撃は発生までに隙が生じるので使い所が難しいんですよね。つまり仲間のカバーが必要なわけです。このパーティーはそこを分かってる!』


 実況(、、)迷宮(ダンジョン)内の者には聞こえないが、きっとこのようなことを言っているのだろうと分かる。

 次に褒められるのは【聖騎士】ラーク。背が高く、鍛え抜かれた身体をしている。アルバとは対照的に癖のない髪で目が隠れていた。あまり喋らないが、必要な瞬間に必要な仕事をしっかりとこなしてくれる盾役(タンク)であり、チャンスがあれば体格を生かした大剣による一撃で敵を叩き切る。

 先程はアルバの溜め(、、)を突こうと迫ったウェアウルフをシールドバッシュで弾いた。


『個々の力はもちろんですが、一定以上の成果を上げるにはやはり連携が重要! ラークは自身も【戦士】級の攻撃力を誇りながら、周囲をよく見て適宜カバーに入るのがいいですね! ラークが盾役に集中出来るのはやはり――』


 世界中に広がるダンジョンの中でも、いまだ最深部到達パーティーゼロの記録を守り続けている伝説的ダンジョン――『魔王城』。

 攻略記録石によって攻略者達は前回辿り着いたところから先に進むことが出来るようになった。

 だというのに、『魔王城』の最深部にて魔王と相対したパーティーは一組も存在しない。

 だが彼は、そんな伝説を終わらせる可能性があった。

 【炎の勇者】フェニクス。 


「奴は私が叩く、道中の露払いを頼めるかな」


 アルバが「仕方ねぇな!」と叫んだ。言葉はなくとも、他の者も了承以外に答えはない。

 ダンスホールのような場所だ。致命傷相当の傷を負った敵は既に退場(、、)している。

 それでもまだうじゃうじゃいるウェアウルフと、奴らを統べる――ひときわ大きな個体。


「貴方はただ、最短距離を往きなさい」


 【狩人】リリーは金色の髪と蒼い瞳をしたエルフの射手だ。

 誰も彼女が矢を放っているところを見たことがない。構えたかと思うと、弓矢は既に敵を貫いている。それも一射ではない。


『で、出たぁあああッ! 「神速」ですッ! 世界で三人しか使用者が確認されていない「疾すぎる弓術」が本日も披露されました! 見えないんですけどね! ただし矢を受けて倒れる敵をみればその凄まじさは伝わるでしょう! 一気に八体が退場です!』


 【炎の勇者】フェニクスは炎の精霊を宿した聖剣を右手に握っている。

 そしてただ、次の階層へと続く扉を護るフロアボスと己を結ぶ直線上を悠然と進む。

 何十匹といるウェアウルフの一匹も彼に近づくことは出来ない。

 アルバ、ラーク、リリーの三人が彼に近づく全ての敵を打倒しているからだ。

 そうなってくると、僕は何をしているのだという話になる。

 何かに対してプラスに働くものを白魔法と呼ぶ。治癒や強化、浄化などが代表的な存在だ。

 逆にマイナスに働くものを黒魔法と呼んでいた。

 攻撃力低下、防御力低下、速度低下、一定時間固定ダメージを受け続ける毒状態、思考判断力を乱される混乱状態、視界を制限する暗闇状態などが該当する。

 攻撃魔法や防御魔法と並んで、それらを四大魔法という。

 ただ現代では三大魔法、あるいは二大魔法と呼ぶことが多い。

 三大魔法の時に削られるのが、僕の使う黒魔法。二大魔法となると白も削られる。

 白の理由は横に置いておくとして、黒が軽視される理由は大抵の者が分かるのではないか。

 効果を実感し辛いから。

 仲間にいても、恩恵を受けているかどうかいまいち判然としない。

 今だって僕は敵全員の魔法・物理両方の攻防力と、速度、思考能力を低下させ、視界を制限しているが、きっと実況では触れられてすらいない。

 あるいはこんな風に言われているのではないか。


『うーん、やはりこうなってくると気になってくるのが【黒魔導士】レメですねぇ。元々サポート向けの役職(ジョブ)ではありますが、現代の制度を考えると優先的に組み込むべき人員ではないように思います。実際、彼が抜けたところで穴にはならないでしょう。どうせ入れるなら【白魔導士】にすればこのパーティーの凄まじい攻撃力の後押しとなってくれるでしょうに』


 とかなんとか。これは何も被害妄想ではなくて、以前録画(、、)しておいた攻略映像を観た時に似たようなことを言われていた。

 黒魔法は地味。派手さなんてない。外側から観てる者からすれば何の動きもなくただいるだけとしか思えないのではないか。たまに動く口はどんな魔法を掛けているか仲間に伝えているが、視聴者にとっては何も面白くないし、視覚的に効果が分かるわけではないからなおのこと退屈だろう。

 戦いもしないし。要するに、華がない。

 そんなもんだから、人気も出ない。

 パーティーを組むには【勇者】適性を持つ者が必要。これは絶対。

 そしてパーティーの上限は五人。

 どこも最適の形を求めてメンバーを何度も変えている。

 僕らは数万組いると言われる公式パーティーの中で、第四位。これは人気や実績などを許に冒険者組合が決め、一年に一回更新されるもの。


「人狼の長よ、悪いが押し通らせて頂く」


 フェニクスは結局ただの一度もウェアウルフに襲われることなく、フロアボスの眼前まで辿り着いた。

 フロアボスはもう半分巨人のようなものだ。通常個体の三倍程の体躯は目の錯覚を疑う程。

 怖じることなく、フェニクスが剣を構える。

 フロアボスが咆哮を上げながら鋭利な爪で勇者に襲いかかった。

 が、それはフェニクスの剣に止められる。

 甲高い音と共に火花が散る。

 直後、フロアボスの身体が燃え上がった。まるで建物か木が燃えているようだった。苦しそうにのたうち回るフロアボスだが、すぐにHPが尽きたのだろう――その姿が消える。

 退場だ。


「私達の戦いに敗北はない」


『決まったぁあああッ! 聖剣は宿した精霊の格によって威力が変わりますが、彼が操るのはこの世全ての熱の源であると言われる火精霊! 間違いなく最高ランクの精霊です! その分使用者を選ぶ基準も大変厳しいと言いますが、さすがは百三十年ぶりの契約者! 今回もたったの一撃でフロアボスを撃退してくれました!』


 きっと映像板(テレビ)の前の視聴者は大興奮していることだろう。

 これは僕達のスタイルというか、初めは少しでも人々の印象に残りたくてやったことだった。

 フロアボス戦で、【勇者】は一撃しか見舞わない。

 フェニクスは美形だし、炎の聖剣も派手で見栄えがいい。仲間が露払いし、一撃でボスを仕留める。

 これがウケたおかげで、パーティーの知名度もグンッと上がったものだ。


『第四層も見事に攻略完了ッ! さすがは【炎の勇者】フェニクスパーティーと言ったところでしょうか! さてセーフルームに入った彼らですが……記録石に登録証をあて……今回の攻略はここまでのようです! いやぁ、次回の第五層攻略が待ちきれませんね!』


「さて、帰ろうか」


 フェニクスの声と共に、僕らの持つ親指程の長さをした薄い金属製の板が淡く輝いた。登録証だ。氏名や性別、役職や認識番号などが打刻されている他、記録石に触れることによって情報記録(セーブ)や別の記録石のある場所まで瞬時に移動することも可能。

 瞬きほどの時間で、僕らはダンジョンの入り口に戻っていた。

 僕がパーティーを抜けることになるのは、この後行われた打ち上げでのこと。




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