アレン細胞と政略結婚【十七】
俺はたった今
「な、なぁ、あの男を頼ってみるのはどうかな?」
「「「「……あの男?」」」」
「神託の十三騎士――レイン=グラッドだ」
「「……ッ!」」
「「し、神託の十三騎士……!?」」
リアとローズが目を見開き、事情を知らないリリム先輩とフェリス先輩は口を大きく開けた。
「レインは黒の組織の最高幹部――『スポット』について、何か知っているかもしれない!」
黒の組織の活動拠点は、神聖ローネリア帝国。
つまり彼は、ほぼ間違いなく帝国の地理にも明るい。
うまくいけば、大貴族ヌメロ=ドーランの居所も掴めるかもしれない。
すると、
「――い、いやいや、ちょっと待ってくれ! アレンくんは、黒の組織と繋がっているのか!?」
「い、一応そういう噂は聞いていたけど……。ちょっと信じられないんですけど……っ!?」
リリム先輩とフェリス先輩は、顔を真っ青に染めた。
どうやらこれは……とんでもない勘違いをされてしまったようだ。
「ご、誤解です! なんと言うかその……レインとはいろいろあって、一度剣を交えたことがあるんですよ」
「神託の十三騎士と戦った……!? な、なんだそれ……とんでもない大事件じゃないか!?」
「い、いったいいつ……!? というか、もっと詳しく聞きたいんですけど……!?」
俺がぼんやりとした説明をすれば、先輩たちは目を
「……すみません。詳しい内容については、ちょっと話せないんです。でも、レインはしっかり倒したので安心してください」
クラウンさんと交わした約束によって、ダグリオの一件については口外することができない。
だから仕方なく、『レインを倒した』という断片的な情報だけを伝えた。
「し、神託の十三騎士を……『倒した』……!?」
「こ、この前は確か……。神託の十三騎士フー=ルドラスを『撃退』していたはずなんですけど……っ!?」
リリム先輩とフェリス先輩は、唖然とした様子でそう呟いた。
その一方でレインと面識のあるリアとローズは、何やら考え込んでいた。
「……なるほど。彼は黒の組織を酷く嫌っていたし、何より根は悪い人じゃなさそうだったから……可能性はあるわね……」
「だが、奴は聖騎士に連行されていったぞ? おそらくどこかの牢獄に囚われているはずだが……。アレン、何かアテはあるのか?」
ローズはそう言って、ジッとこちらを見つめた。
「……あの一件には、クラウンさんが深く関わっていた。彼に話を聞けば、何かわかるかもしれない」
それにクラウンさんは、かつて聖騎士協会『本部』に勤めていたという話だ。
きっとレインの所在について、何らしかのことは知っているはずだ。
そうして話がまとまってきたところで、
「あまりよくわからないが……。とにかく聖騎士協会に行けばいいんだな!」
「少しでも可能性があるなら、行ってみるしかないんですけど……っ!」
リリム先輩とフェリス先輩はそう言って、生徒会室を飛び出した。
「リア、ローズ、俺たちも行こう!」
こうして俺たちは、ほんの僅かな可能性に食らいつき、聖騎士協会オーレスト支部へ向かった。
■
その後――オーレスト支部に到着した俺たちは、受付に話を通してから支部長室へ向かった。
すると部屋の中には、いつものピエロ服を着たクラウンさんがいた。
軽い調子で出迎えてくれた彼に、現在の状況を簡単に説明する。
「――というわけでして、俺たちは今レイン=グラッドの所在を追っているんです。クラウンさん、何か知っていることはありませんか?」
そうして本題の質問を投げ掛けると、
「あー……。彼ならちょうど今、うちの地下牢獄に収容されてるっすよ?」
予想だにしない、とんでもない回答が返ってきた。
「ほ、本当ですか!?」
「本当っす!」
「ぜひ会わせてください!」
「駄目っす!」
クラウンさんはそう言って、はっきりと拒絶の言葉を口にした。
「ど、どうしてですか!?」
「いやだって、スポットの位置を知ったら……行っちゃうんすよね? 神聖ローネリア帝国へ?」
彼はいつになく真剣な目で、そう問い掛けてきた。
「……はい」
ここで嘘をついても仕方がない。
俺は嘘偽りなく、正直に答えた。
「だったら、レインに会わせるわけにはいかないっす。はっきり言わせてもらうと――君が帝国へ行くのはまだ早い」
クラウンさんはそう言って、その重たい口を開いた。
「アレンさんは、確かに強い。『将来』はきっと世界の舞台に立つ、凄腕の剣士になるでしょう。でも、『今』の君はまだまだ子どもだ。肉体も精神も魂装も全てが未成熟、いまだ発展途上の段階にある」
彼は俺の体に視線を向けながら淡々と語る。
「正直な話……もったいないんすよ」
「……『もったいない』?」
「えぇ。世界に『大変革』をもたらすような『飛びっきりの才能』が、こんなところで潰れるのはあまりに惜しい……。これはリゼさんも言っていたことっすよ」
「リゼさんが……」
「この世界には、化物のような剣士がたくさんいます。皇帝直属の神託の十三騎士。聖騎士協会が誇る人類最強の七剣士――
それは……確かにその通りだ。
所詮『落第剣士』の俺では、世界を舞台に覇を競い合う正真正銘の『天才剣士』には届かない――いや、届くわけがない。
「でも、ここで諦めたら……っ」
ここで俺たちが諦めたら……会長はどうなる?
リーンガード皇国に売られ、女性を道具みたいに扱う貴族と結婚させられた彼女は……きっと地獄のような毎日を送る。
(そんなの……おかしいだろ……っ)
そうして俺が強く拳を握り締めると、
「……ボクも一応、政略結婚の件は知っています。シィ=アークストリア、不憫な子どもっすね……。アークストリア家に生まれたから、非常に優れた容姿を持って生まれたから、ヌメロという最悪の貴族に
クラウンさんは、心の底から同情するようにそう言った。
「ねぇ、アレンさん……この場は『大人』になりませんか? 君が今ここで無茶をすれば、将来に救えたはずの大勢の人が救えなくなる。気持ちは痛いほどよくわかりますが、ここはどうか一つ……矛を収めてはくれませんか?」
彼はとても真剣な表情で、そんな提案を持ち掛けてきた。