369話 反撃開始
「……!!!」
漆黒の人形は言葉にならない叫びをあげる。
鏡を引っ掻いたような、不快な音だ。
両拳を重ねて、地面を叩く。
威嚇……?
いや、これは!
「みんなっ、気をつけろ! 下から来るぞ!」
嫌な予感がして、その場から大きく横に跳んだ。
わずかに遅れること少し、地面を突き破り、ザンッ! と黒い槍が無数に地面から生えてきた。
「にゃふー。これくらい……にゃ!? 尻尾かすったぁ!?」
「ちょっと、気をつけなさいよ。尻尾切られたりしたら、カナデの特徴ゼロになるじゃない」
「まだ耳があるよ!? っていうか、切られてないから!」
カナデとタニアは軽口を叩いていた。
それなりに余裕を持って避けているみたいだ。
ソラとルナとイリスは魔法で宙に退避。
ニーナはティナを頭の上に乗せて、空間転移。
リファはコウモリに変身して、それぞれ回避していた。
「……!!!」
「くっ、これは……!?」
漆黒の人形が再び声にならない声で吠える。
それに呼応して、地面から黒い槍が何度も何度も生えた。
まるで、地獄の剣山のようだ。
「うかつに近づけないな……」
「それならば、ここは……」
「ソラ達に任せてください」
「わたくし達が、道を切り開きましょう」
「我の決め台詞が!?」
ソラとルナとイリスが前に出た。
「「ドラグーンハウリングッ!!」」
「来たれ、異界の炎」
ソラとルナの魔法が炸裂して、さらにその上に、イリスが召喚した炎が着弾した。
そこらの魔物なら跡形もなく消し飛ぶほどの威力なのだけど……
「……!!!」
漆黒の人形は健在だ。
ノーダメージとはいかなかったらしく、小さな傷は見える。
ただ、大打撃というわけにはいかず、動きも鈍っていない。
しかし、攻撃の手を止めることはできた。
それで十分だというように、ソラ達が退いて……
次いで、ティナとリファが前に出る。
「リファ、いっくでー!」
「うん、がんばる」
ティナが魔力で光のバットを生成して、リファが血の弾丸を生成する。
リファは血の弾丸をティナの前に軽く放り投げて、
「もっかい、ホームラン打法やぁっ!!!」
カーンッ、と快音を響かせてティナがバットで打つ。
そんな無茶な!? と、唖然としてしまうような攻撃だった。
二人の魔力がうまい具合に噛み合ったらしく、威力は抜群。
バットで打たれた血の弾丸は黒い槍を砕き、なおも止まらず、漆黒の人形の腹部に突き刺さる。
「うらららららーーーっ!!!」
「ほい、ほい、ほい」
ティナがバットを振り回して……
リファが血の弾丸を何度も何度も放る。
そんな攻撃、アリなのだろうか……?
「……!!!」
ティナとリファの合体攻撃を受けた漆黒の人形は怯み、一歩、後退する。
ただ、まだトドメを刺すには至らない。
負けてたまるものかとばかりに吠えて、今度は中に黒い矢を生み出した。
それらを一斉に射出して、ティナとリファを狙う。
「ブラッドシュート」
「「イグニートランスッ!!」」
リファとソラとルナが黒い矢を迎撃した。
一つ残らず、全て撃ち落とす。
しかし、敵は無尽蔵に攻撃を繰り出せるらしい。
第二撃、第三撃、第四撃……次々と攻撃の準備をする。
これではキリがない。
それどころか、じわりじわりと追いつめられてしまうだろう。
この状況を打開するのは……
「ニーナ、いくわよ!」
「……んっ」
タニアとニーナだ。
「全力全開のぉ……一撃っ!!!」
タニアが必殺のドラゴンブレスを放つ。
ブレスはいつもよりも細く範囲が狭いが、その輝きは通常の数倍だ。
おそらく効果範囲を圧縮させることで、威力を何倍にも増幅させているのだろう。
「……開いて」
ニーナがくるっと手を動かすと、空間に穴が開いた。
そこにタニアのブレスが吸い込まれていく。
「……もう一度開いて」
今度は、ニーナは反対方向にくるっと手を回した。
すると、漆黒の人形の周囲に無数の空間の穴が繋がる。
そこからタニアのブレスが一度に飛び出してきて……
「……!!!?」
四方八方から降り注ぐブレスが、漆黒の人形の全身を焼いた。
竜族の必殺の一撃を拡散させて、全身に浴びせるという荒業だ。
これにはさすがにたまらないらしく、漆黒の人形が苦痛に悶える。
道は開けた。
隙もできた。
後は、とびっきりの一撃を浴びせてやるだけだ。
「カナデっ!」
「うんっ!」
カナデと手を繋ぎ、漆黒の人形のところまで一気にかける。
みんなの攻撃が効いているからなのか、迎撃はない。
「いくぞっ!」
「私とレインの合体攻撃にゃっ!!!」
繋いだ手から力が流れ込んできて、カムイが熱を帯びる。
トリガーを引くと、その力が一気に刀身に流れ込み、燃えるようなオーラを帯びる。
それを……一気に漆黒の人形に叩きつけた!
『よかった』『続きが気になる』と思っていただけたら、
ブクマやポイントをしていただけると、とても励みになります。
よろしくおねがいします!