この並べ方をサッカーにたとえてみよう。これは、試合前のあいさつをするため、選手が整列した状態にすぎないのだ。それを忘れてしまうと、下図のようなゲームセットを味わうこともある。
上の対局開始図と比べてみれば一目瞭然。まったく変化していない、つまり、動いていないのだ。極端な例になるが、これは、サッカー選手達が、あいさつの場所から一歩も動かずにゲームを戦い、ついに敗北の最終ホイッスルを聞いてしまったことと同じなのだ。さあ、どうする監督?
監督はポジションを与えよう
選手は、なぜ動かなかったのか? 簡単である。ポジションがわからなかったのだ。だから、あいさつの場に、じっとたたずみ、手をこまねいていたのだ。これでは勝てるわけがない。悲しき敗北一直線である。では、将棋には、どんなポジションがあるのか? 誰(どの駒)にどのポジションを与えればいいのか? さらに、その判断基準は何なのか? それを理解することが監督としてのあなたの役割の第一歩なのだ。
実は、将棋はサッカーと似ている。それで、先ほどから何度かたとえさせてもらっていたのだ。ズバリ言おう。守備陣のゴールキーパー、ディフェンダー、そして、攻撃陣のミッドフィルダー、フォワードの4ポジションが将棋には必要なのだ。
ゴールキーパーは誰?
これは、もうおわかりだろう。そう「王」だ。四方八方、すべてに手が伸びる「王」。彼こそ、ゴールキーパーにふさわしい。敵がどこから攻撃してこようとも、彼はきっちりと受け止める能力を持っている。また、これも大切なことだが、彼そのものがゴールでもあるのだ。そして、彼は、どこにでも動ける。つまり、サッカーのようにゴールが固定されているわけではなく、将棋は、好きなところにゴールを移動させることができるのだ。ディフェンダーは誰?
この選別は、やや、難しい。将棋の駒は、皆、攻撃が得意だからだ。考えてほしい。前方に動けぬ駒はないのだ。すべての駒が前へ前へと進みたがっている。だが、後ろに下がるのが苦手な駒はある。まず、「歩」「香」「桂」は、まったく下がれない。また、前方なら、真上、斜めと、どのマスにも動ける「銀」と「金」も、後ろとなると、とたんに動きが悪くなる。「銀」は斜め後ろだけだし、「金」にいたっては、真後ろ1カ所だけなのだ。かように、攻め好きな駒たちの中から、誰を守備陣に選べばいいのか?
まず「金」を、その要(かなめ)に採用したい。なぜか ?もちろん理由がある。たしかに「金」は攻撃にも素晴らしい力を発揮してくれる。だが、成駒(なりごま)のことを考えてほしい。 どの駒も敵陣に入れば成駒として「金」の動きを手に入れることができるのだ。つまり、攻撃陣としての「金」という人材は、成駒によって確保できるということだ。ならば、ゴールの「王」に最初から寄り添っている「金」をそのままディフェンダーに任命するのは、もっとも合理的ではないか。ディフェンスの主役は「金」で決まりだ。だが、「金」は2枚しかない。これでは、まだ心細さが漂ってくる。なにせ、王が詰まされれば、いつでもVゴール、一発終了なのだから。やはり、補佐役が必要だ。そこで、2枚ある「銀」の内、1枚に、その役割を与えることにする。
そろそろ、採用結果が見えてきた。
ディフェンダーには「金」2枚と「銀」1枚を採用する。
ミッドフィルダーは誰?
さて、司令塔のミッドフィルダーである。このポジションをまかせるには、盤面全体を縦横無尽(じゅうおうむじん)に走り回れる能力が必要だ。この条件にかなうのは、たった2種類の駒しかいない。そう「飛」と「角」だ。この2枚に伸び伸びと働いてもらうことこそ、肝心なのだ。フォワードは誰?
前に述べたように、どの駒も攻撃が得意だ。だから、このポジションは人材にことかかない。中でも、頼りになるのが、ジグザグドリブルのお得意な「銀」だ。「銀」はメインフォワードにふさわしい。そして、もう一つ。隠れたところから、あらゆる駒を飛び越えて襲いかかる「桂」だ。この2枚が連携すれば、優秀な攻撃陣となってくれるだろう。
「香」はあいさつの場所から動かずとも、ある時は攻撃陣、ある時は守備陣として、存在感を発揮してくれる駒だ。その時の情勢次第ではフォワードとして活躍してくれるだろう。それから「歩」。これは一番数の多い駒であり、「と金」に成れば、素晴らしいフォワードに変身してくれる。その上、捕獲された場合でも、相手にとっては「歩」なのだ。「と金」として、暴れ回って、取られたら「歩」。ローリスク、ハイリターンのお手本のような、使える人材だ。
ガイドおすすめのオーダー
では、ガイドおすすめのオーダーを一覧にまとめておこう。- ゴールキーパーは「王」
- ディフェンダーは「金」2枚と「銀」1枚
- ミッドフィルダーは「飛」と「角」
- フォワードは「銀」1枚と「桂」
- 守備にも攻撃にも、「歩」と「香」
守備は意識しなければできない
何度も述べてきたように、将棋の駒は攻めるようにできている。ということは、あまり考えずに動かしていると、自然と「攻め一辺倒の将棋」になってしまうのだ。逆に言えば、守りは意識しなければできないと言うこと。 意識すれば、グンと棋力が上がり、5級が見えてくるのだ。将棋では守備の陣形を「囲い(かこい)」と呼ぶ。その形によって「矢倉(やぐら)囲い」「美濃(みの)囲い」「船囲い」「穴熊囲い」などたくさんの種類がある。今回は、数多い囲いの中から、簡単で覚えやすい「カニ囲い」をご紹介しよう。これを覚え、意識するだけで、あなたの将棋が、がらりと変わること間違いなしだ。
カニ囲いとは
図を見ていただこう。わかりやすいように他の駒を省略した部分図だ。この守備陣形を「カニ囲い」と言う。ガイドしてきたように、ゴール兼ゴールキーパーの「王」を、ディフェンダーの「金」2枚と「銀」1枚が守っている。あいさつの整列から、わずか4回動かしただけで組み上がるスピード感のある囲いだ。それにしても「カニ囲い」とはユニークな名前である。その名の由来は2説ある。将棋豆知識として、紹介しよう。
横に動く王、だから「カニ囲い」
図をご覧頂きたい。ゴールキーパーの「王」が横に自由自在に動ける。相手が右から攻めてくれば左にゴールを移動する、という具合だ。この横の動きがカニを思わせる。だから「カニ囲い」。これが、一つの説だ。
カニの姿が連想される、だから「カニ囲い」
こちらの図は、盤面にカニの姿をオーバーラップしたものだ。
2枚の「金」がはさみ。「銀」が目玉。「王」が体。どうだろう、星座図のように、その姿が浮かんでこないだろうか?
まとめに
今回は、将棋におけるポジショニングについてガイドした。攻撃、守備と役割を分担すること、適材適所の人(駒)材登用をすること、これらの大切さがおわかりいただけただろうか。また、意識しなければできない守備については、具体例として「カニ囲い」を紹介した。簡単な駒組みであるので、ぜひ、実践で試していただきたい。まったく、囲いを意識していなかった頃の将棋とは、がらりと変わるはずだ。さあ、5級への道が見えてきた。今回の合い言葉は「ポジションにつけ」だ。