森友国賠訴訟 真相を闇に眠らせるな

2020年7月17日 08時16分
 夫はなぜ自殺せねばならなかったのか。森友学園の問題で決裁文書の改ざんを強制された元職員の妻が起こした国家賠償訴訟。命を絶った原因と経緯を明確にすることは国の当然の務めである。
 「夫がなぜ死を選び悩み苦しんだのか、私の知りたいことは何一つわかりません」「事実を明らかにしてください」
 大阪地裁の法廷で、元財務省近畿財務局職員赤木俊夫さんの妻・雅子さんが述べたことが、この訴訟の本質であろう。
 赤木さんは森友学園への国有地売却問題を担当していた。二〇一七年に決裁文書の改ざんにかかわり、うつ病を発症し休職。翌年三月に自殺した。
 確かに財務省は改ざんの事実を認め、調査報告書をまとめた。だが、誰がどのような指示で改ざんを強制したのか、具体的な経緯を詳細に記してはいない。赤木さんの自殺の記載もない。検察の捜査も「全員不起訴」で終わった。
 これでは国家権力が真実を隠蔽(いんぺい)しているのに等しいではないか。国民にはそう映る。妻の嘆きと怒りの訴えは理解できる。
 「改ざんを主導した」と財務省が認めた佐川宣寿(のぶひさ)氏は理財局長から国税庁長官に出世した。文書厳重注意を受けた太田充氏もこの夏の人事で主計局長から事務次官に…。森友問題で事実を隠す側に回ったはずの人々が、なぜ組織トップへの昇進を果たすのか。
 国民は薄々(うすうす)は気付いている。森友問題が国会で取り上げられたとき、安倍晋三首相が「私や妻が関係していれば、首相も議員も辞める」と述べた。それに端を発しているのだろう。その後、文書改ざんが始まっているのだから。
 赤木さんが遺(のこ)した手記などが死から二年後に公表された。「森友学園を厚遇したと受け取られる疑いのある箇所」の修正、安倍昭恵首相夫人らが関与した部分などを削除する作業も。会計検査院に「資料を渡さないよう」との本省指示さえも…。
 不正の命令に涙ながらに抵抗したのが赤木さんだった。手帳には「国家公務員倫理カード」が挟まれていた。生前に「私の雇い主は日本国民」と話していたという。
 訴えられた国も佐川氏も訴訟では「請求棄却」を求めた。三十五万人分の再調査を求める署名にも国は首を横に振る。
 「首相は夫を切り捨てた」と雅子さん。真相を闇の中に眠らせてはならない。 

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