防衛白書 「軍拡」の口実にするな
2020年7月16日 07時20分
防衛白書が指摘するように、中国や北朝鮮の軍事的台頭は確かに脅威だが、防衛力を強化しさえすればいいものでもない。周辺情勢の厳しさを防衛費増額や装備購入拡大の口実にしてはならない。
二〇二〇年版防衛白書は、中国の軍事動向について「地域と国際社会の安全保障上の強い懸念となっている」と指摘。沖縄県・尖閣諸島周辺で繰り返される中国公船の領海侵入について「一方的な現状変更の試みを執拗(しつよう)に継続している」と「執拗」という強い表現を初めて使って非難した。
北朝鮮についても、より低空を変則的に飛ぶ短距離弾道ミサイルを一九年に相次いで発射したことを「ミサイル防衛網の突破を企図している」と指摘。「重大で差し迫った脅威」と位置付けている。
東アジアの安全保障環境が、中国の軍事的台頭や北朝鮮のミサイル開発で、より厳しくなっていることは認めざるを得ない。外交努力はもちろん、防衛力を適切に整備するのは当然だろう。
ただ、やみくもに増強すればいいものではない。自国を守るための装備増強が相手国の警戒感を招き、相手国も軍備を増やせば、地域の軍拡競争が加速する「安全保障のジレンマ」に陥るからだ。
白書は地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」配備計画の停止も明記した。配備先の住民の理解が得られず、巨費に見合う安全保障上の効果も乏しいと指摘されてきた計画だ。決断自体は妥当だが、計画停止に伴う安保政策の見直しにも触れている。
政府は中朝の軍事動向も踏まえた新しい安保政策の方向性を九月中にまとめ「国家安全保障戦略」を年内に改定する方針だ。憲法の趣旨でないとされてきた「敵基地攻撃能力の保有」論も浮上する。
敵基地攻撃能力を持とうとすると、長射程ミサイルやステルス戦闘機などの調達や、敵基地の場所を把握する情報収集能力の取得など、巨額の防衛費が必要となる。
防衛費は冷戦終結後、減少傾向が続いていたが、安倍晋三首相が政権復帰後に編成した一三年度に増額に転じ、一五年度以降は過去最大を更新し続けている。
新型コロナウイルスへの対応で財政状況が厳しい中、防衛費のこれ以上の膨張に国民の理解が得られるだろうか。暮らしを支える予算に振り向けるべきではないか。
地域情勢の安定には外交、防衛交流、経済支援など重層的な取り組みが必要だ。防衛力の整備には「節度」を取り戻すべきである。
関連キーワード
PR情報