GoTo事業 月内開始は無理がある
2020年7月16日 07時20分
コロナ禍で苦境に立っている観光産業を支援するGoTo事業が二十二日から始まる。しかし、感染状況が一段と深刻化している上、豪雨の被害も広がっている。事業開始の延期を求めたい。
政府の「Go To キャンペーン」事業のうち今回開始するのは旅行支援を軸とした「Go To トラベル」だ。事業全体の予算規模は約一兆七千億円でトラベルは約一兆三千五百億円を占める。補助金と地域クーポンを組み合わせて旅行を促す施策だ。
観光関連企業は現在、軒並み経営危機に立たされている。事業継続の断念を余儀なくされるケースが続出しており、国による大規模支援への異論はないだろう。
ただこのタイミングでの開始については疑問視せざるを得ない。首都圏を中心に感染者が再び増えている。大半の旅行が自治体をまたぐ移動となるはずだ。国の施策が一層の感染拡大を招く可能性について、人々が不安に思うのは当然だ。
大阪府や宮城県、福島県などの知事や各自治体からも異論が相次いでいる。野党からも延期を求める意見が出ている。
政府は「三密」を避けるなど感染防止に最大限配慮する方針を打ち出してはいる。しかし、人の移動が感染拡大につながる恐れがある以上、その移動を促す施策に対しちぐはぐな印象は否めない。
旅はもてなす側の歓迎の気持ちと、赴く側のその地への強い思いが重なって初めて可能となるはずだ。ましてや豪雨により九州を中心に観光地を含む広い地域が被害を受けている。交通手段が寸断された地域もある。今、よい旅ができる環境なのかどうか政府は再考してほしい。
GoTo事業には多額の予算が投入される。国費である以上、事務委託を受けた特定団体だけが潤ったり政策効果に地域差が出ることは、あってはならない。だが今の状況では公平さを保てるかどうかも不透明ではないか。
観光業界全体がこの夏休みに大きな期待を抱いていることは痛いほど分かる。このため事業自体の推進には基本的に賛成だ。だが月内の開始にはどうしても無理がある。
政府は感染対策と経済の両立を掲げる。ただ巧みに時期をずらす柔軟さも必要だ。
観光産業への直接的な資金支援を強化した上で、事業は感染の動向を見極めながら開始時期を探るべきだ。
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