「も、モモン」
ジルクニフは驚くと同時に一つの結論に達していた。
(やはり、黄金は''守られている安心感"があって安全を確信していたのだな·····)
そう今のジルクニフがそうだった。先程までの燻るような不安感は消え、モモンの背中に安心感を覚えている。けっして強そうにはみえないのだが、見た目と実力が違う典型的な例なのだろう。
(これが黄金が惚れた男か·····)
ジルクニフが持つカリスマ性とはまた違った魅力の持ち主。それがナザリック候だと理解する。
「ジルクニフ?」
「あ、ああ·····」
促すような悟の声にジルクニフがゆっくり慎重に距離をとり下がると、フールーダがそのやや前に入り杖を構える。
「ジル、無事で何より·····」
「爺、何故魔法を撃たん?」
「アンデッドに有効な魔法は炎·····謁見の間で放ってよいものか·····」
たしかにこの部屋でそのような魔法を使えば被害は免れないだろう。
「物は修復すれば済むが、人はそうはいかん。機を逃すなよ」
ジルクニフはフールーダにそう指示を出す。
(もっとも、私が先程感じた物が確かならば爺の出番はないだろうな)
そして、それは間違いないだろう·····そう確信めいたものがあった。
「サトル、かっこいい!」
瞳をキラキラさせながら
「そ、そうか·····て、照れるな」
空いた左手で頬をかく。いや、もう一人緊迫感のない人物がいたか。
(しっかし、かっこいいとか言われたことないから何だか恥ずかしいわ·····悪くないけどな!)
ラブパワー注入で悟のやる気が激しくアップする。その他にもバフがかかっているような·····そんな気がする。
「さあ、かかってこい死の騎士よ」
盾をかるく押し返し、デス・ナイトを弾き飛ばす。
(たっちさんならどうやるかな·····)
悟は懐かしいギルドメンバー"たっち・みー"を思い出す。かつて異形種狩りにあっていた自分を助けてくれた存在であり、ギルド'"アインズ・ウール・ゴウン"の前身となった
「死の世界の住人が何故こんなところにいるのかはわからないが、運が悪かったな。ここにこの私がいた事が貴様の運の尽きだ。死の世界に帰るがよい。我が前では無力としれ!」
音もなくいつの間にか左右の手にそれぞれ黒い大剣を装備した悟が身構える。
「なっ·····」
「な、なんと·····」
これにはジルクニフ達も目を丸くする。
「いったいどこから·····」
たしかに帯剣はしていなかった。それは間違いない。第一あのような大剣を二本も見逃すはずはない。有り得ない。
「ま、魔法により物を召喚したり、あるいは剣を創り出すことは出来ます。ナザリック候からは残念ながら魔力は感じませんが、あの剣は魔法によるものではないかと。マジックアイテム·····かも。だとしたらかなりの逸品·····おおおっ!」
目を見開き興奮気味に早口で捲し立てる。先程まではまったく興味を持っていなかったのに、俄然ナザリック候こと悟に興味を示すフールーダ。彼は魔法に関しては気狂いじみたところがある。
「頑張ってサトル!」
ラナーの声援が飛ぶ。とても恐ろしい死の騎士を相手にしているとは思えない気軽さだった。まるで、乗馬にでも出掛けるような·····。
「お、おう」
半分照れながら返事をする。やはり美人からの応援には慣れていないのだ。ギルドメンバーにも女性はいたが、みんな異形種であるアバターの姿だったのだから仕方ないかもしれない。
「いくぞ·····とあっ!」
デス・ナイト目掛け悟は右の剣を上段から豪快に振り下ろす。
「はやいっ!」
片手とは思えない速度だ。しかし、相手も普通ではない。
ガキイッ! 金属音が鳴り響く。デス・ナイトは当然のように盾で防いだのだが、そこへ悟は左の剣を突き入れる!
「刺突はアンデッドには·····」
効きにくいのが通説だが、違った。威力があれば関係ないのだろう。悟の一撃を受けたデス・ナイトは大きく仰け反ってしまう。
「とあらああっ!」
距離を詰めるべく右足で踏み込んだ悟は、体の右側を下に倒しながら左足の足裏でデス・ナイトの顔面を思いっきり蹴り飛ばした。
これはいわゆるトラースキックと呼ばれる技であるが、この場にいる者は、使用者である悟を含めて誰も技の名前を知らない。
ドゴォン!
豪華な壁にめり込むような勢いでデス・ナイトは壁に叩きつけられた。
「や、やったか?」
「あ、あのデス・ナイトをあんなにあっさりと·····」
「まだだ。まだ終わらんよ·····」
悟の言葉通りに倒れたデス・ナイトが立ち上がってくる。
「まだ起き上がってくるのか·····」
ジルクニフは驚きを隠せない。今までにみた最強の存在である闘技場の武王ですらこんな威力の一撃を出しているのは見たことがない。
「·····お前はこの皇城を汚した。その罪を償って貰おう」
悟はかっこいいつもりのセリフを披露する。
「最後に、一ついいものを見せてやろう。
悟の口上とともに、周囲に十の魔法の矢が浮かび上がった。
えー、これはARROWのセリフから拝借ですね。声は同じなので·····。私としてはちょっぴり懐かしい。過去作を読まれた方はわかるよね。