職場で「ヘイト文書」配布 「フジ住宅」に110万円支払い命令 地裁堺支部(2020年7月2日配信『毎日新聞』)
- 2020/07/02
- 20:30
判決後、裁判所の前で「勝訴」と書かれた紙を掲げる原告側=堺市堺区で2020年7月2日午後3時11分
「許容限度超えている」職場ヘイト賠償命令 進まぬレイシャルハラスメント対策
毎日新聞2020年7月2日 21時37分(最終更新 7月2日 21時37分)
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判決後、裁判所の前で「勝訴」と書かれた紙を掲げる原告側=堺市堺区で2020年7月2日午後3時11分、伊藤遥撮影
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職場で民族差別表現を含む文書を繰り返し配布され、精神的苦痛を受けたとして、東証1部上場の不動産会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市)に勤める在日韓国人の50代女性が、同社と会長(74)に計3300万円の賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁堺支部は2日、計110万円の支払いを命じた。中垣内健治裁判長は「国籍によって差別的取り扱いを受けない人格的利益を侵害するおそれがあり、許容できる限度を超えている」と述べ、文書配布を違法と判断した。
判決によると、女性は2002年からパートとして勤務。同社は13年ごろから、従軍慰安婦などの歴史認識に加え、韓国や中国の出身者らを「うそつき」「野生動物」「死ね」などと侮辱する内容の雑誌記事などを全従業員に繰り返し配布した。会長が下線を引いて強調した文書もあった。
判決はまず、労働基準法が、労働者に国籍によって差別的取り扱いを受けない人格的利益を保障している点を重視。文書配布は女性個人に向けられた差別的言動とは認めなかったが、「韓国籍や民族的出自を持つ者には著しい侮辱と感じる」と指摘。「(韓国への)憎悪感情を抱く会社側から差別的取り扱いを受けるとの危惧感を抱いてしかるべきだ。女性が自由に意見を述べるのも困難だった」として、女性の人格権侵害を認定した。
同社が文書を継続して大量配布していることから、「広い意味での思想教育にあたり、労働者の思想・信条に大きく介入するおそれがある」とも指摘した。
判決への評価を語る原告弁護団の村田浩治弁護士(中央)ら=堺市役所で2020年7月2日午後4時40分
判決を受け、同社は「社員教育の裁量や、言論の自由の観点から到底承服しがたい」とのコメントを発表し、控訴する意向を示した。
「心の痛みくみ取ってくれた」原告安堵
「私の心の痛みをくみ取ってくれた」。判決後の2日夕、堺市内で記者会見した原告の女性は安堵(あんど)の表情を見せた。
判決後、記者会見で「差別的な資料を配布され、傷ついた」と語る原告の女性=堺市堺区で2020年7月2日午後4時51分
小学校時代から本名で生活してきた女性。日々配布される大量の差別的文書にショックを受けた。やめるよう求めても会社は変わらず、2015年に提訴。その後も「温情をあだで返すバカ者」などとする社員のコメントが配布され、300万円と引き換えに退職するよう迫られたこともあった。
「毎日、たまらなく傷ついてきた」と声を詰まらせた女性。判決までの5年間は、同僚や将来働く子どもたちに同じ思いをさせたくないとの一心だった。「今回の判決によって、会社や社会がどう変わるのかが肝心だ」と語った。
弁護団長の村田浩治弁護士は「労働者の思想・信条を保護することの重要性を明示した判決で、高く評価したい」と話した。
「国籍多様性に無自覚」
人種や国籍への配慮を欠く言動は「レイシャルハラスメント(人種的嫌がらせ)」と呼ばれる。日韓関係の悪化や外国人労働者の増加などを背景に、被害が増えているとみられる。しかし、セクハラやパワハラと比べ、法整備は遅れたままだ。なぜなのか。
法務省の調査(2016年)では、調査に応じた外国人約4200人のうち約3割が、過去5年間に差別的な発言を受けた経験が「よくある」「たまにある」と回答した。発言者は「見知らぬ人」が53%で最も多く、職場や取引先の関係者(38%)▽近くの住民(19%)▽店の従業員(15%)▽役所や公共交通機関の職員(12%)――と続いた。
20年6月施行の改正労働施策総合推進法では、パワハラ防止策が雇用主に義務付けられた。セクハラは男女雇用機会均等法で防止が義務付けられていたが、推進法で強化され、相談した従業員への不利な扱いを禁じた。一方、外国人支援団体は、レイハラ防止を推進法の指針に明示するよう求めたが実現していない。
NPO法人「移住者と連帯する全国ネットワーク」(東京)の代表理事、鳥井一平さん(66)は対策が進まない原因を「参政権のない外国人を巡る問題に本腰を入れる政治家が少ない」と分析。「根底には在日コリアンへの差別感情や、技能実習生らを使い捨ての人材とみなす社会の意識がある。対等に働ける社会を作るため、国は法整備を進めるべきだ」と話す。
ヘイトスピーチの問題に詳しい龍谷大の金尚均教授(刑法)は「日本社会は民族や国籍の多様性を認める意識に欠け、職場で無自覚な差別が生まれている」と指摘。外国人労働者が増える中で「企業が共生の重要性を認識し、個人の尊厳を守ることは喫緊の課題だ」と強調した。
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フジ住宅に110万円賠償命令=文書配布は違法、在日韓国人勝訴―大阪地裁堺支部(2020年7月2日配信『時事通信』)
職場で民族差別的な文書を配布されたとして損害賠償を求めた訴訟の判決後、記者会見する原告のパート従業員女性=2日午後、堺市
民族差別的な文書を社内で配布され精神的苦痛を受けたなどとして、東証1部上場の住宅会社「フジ住宅」(大阪府岸和田市)のパート従業員で在日韓国人の50代女性が同社と今井光郎会長(74)に3300万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、大阪地裁堺支部は2日、同社と会長に110万円の支払いを命じた。
中垣内健治裁判長(森木田邦裕裁判長代読)は「国籍によって差別的取り扱いを受けない人格的利益を侵害する恐れがあり、社会的に許容しうる限界を超えており違法」と判断。女性を批判する従業員の感想文が社内で配布されたことは「裁判を受ける権利を抑圧し名誉感情などを侵害した」と認定した。
判決によると、同社では2013~15年、「悪事を批判されるとすぐに『差別ニダ!』と大騒ぎする在日朝鮮族」といった雑誌やネットの記事などを会長らが繰り返し役職員に配布するなどした。
女性は記者会見で「今後会社がどう変わっていくのかという点が肝心だ」と話した。今井会長は「到底承服しがたい。速やかに控訴し、適正な判断を仰ぐ」とコメントを出した。
「韓国は嘘をついても責任を取らない民族」社内文書を連日配布...在日韓国人女性がヘイト訴え判決は(2020年7月2日配信『MBSニュース』)
「韓国は嘘をついても責任を取らない民族」などと、ヘイトスピーチに該当するような社内文書を職場で連日配布されて精神的苦痛を受けたとして、在日韓国人の女性が会社側に損害賠償を求めた裁判で、大阪地裁堺支部は110万円の支払いを命じました。
大阪地裁堺支部に入る原告団 2020年7月2日
訴えを起こしていたのは、大阪府岸和田市にある不動産大手「フジ住宅」のパート従業員で在日韓国人3世の女性(50代)です。訴状などによりますと、2013年ごろから創業者の会長が全従業員に対して、業務内容とは関係のない歴史認識や政治思想に関する書籍や新聞記事のコピーなどを社内文書として連日配布し、それらへの感想が書かれた一部従業員の業務日報も全従業員に配り続けたということです。
配布されていた文書の一部
【配布されていた文書の一部抜粋】
「嘘をついても責任を取らない民族性」
「韓国は日本に併合してもらっていなかったらロシアの配下となりスターリンにでも虐殺されていたと思います」
この他にも「韓国人は嘘つき」などと書かれていました。
原告の女性 2015年取材
(原告の女性 2015年取材)
「自分の上司が、元から中国や韓国が嫌いという内容を書いているのを見て、ショックを受けた。売国奴とか国賊とか、なんで会社でこんな言葉が飛び交うのかがわからない。」
フジ住宅
女性は「職場で従業員を差別的表現にさらすことを防ぐ職場環境配慮義務に違反していて、ヘイト文書の配布で人格権を侵害した」として、会社などに3300万円の損害賠償を求めて2015年に提訴。提訴後には上司から会社を辞めるように言われたといいます。
大阪地裁堺支部 2019年10月
2019年10月に行われた裁判では、フジ住宅の社員や支援者ら600人以上が50席ほどの傍聴券を求めて長蛇の列を作りました。
フジ住宅会長の裁判での主張
会長は裁判の中で「差別はすべきでないが、正しいと思うから配っているだけ」「読む読まないは自由」として、ヘイトではないと述べました。会社側も「女性は直接差別的な言動を受けていない」と主張していました。
2020年7月2日の法廷
そして今年7月2日の判決。大阪地裁堺支部は、社内文書について「死ねよ、嘘つき、野生動物などの激しい人格攻撃の文言を用いることは、国籍によって差別的取り扱いを受けない人格的利益を具体的に侵害するおそれがあり、社会的に許容し得る限界を超える違法なものである」とし、フジ住宅側に110万円の支払いを命じました。
フジ住宅は取材に対し「対応は弁護士に一任しています」とコメントしています。
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