検事総長の交代 政治権力と距離を保て

2020年7月15日 08時20分

 検事総長が十七日に交代する。稲田伸夫氏から林真琴・東京高検検事長に…。検察トップは首相官邸の意向で左右されてはならない。政治との距離を保ち、国民の信頼を得るよう努めてほしい。
 検事総長の人事をめぐってこれほど、あからさまな政治の介入があったことは近年にない。前東京高検検事長の黒川弘務氏を就けたい官邸の意向と林氏を推す法務・検察の意思とが激しくぶつかり合ったとされる。
 表面化したのは、一月にあった黒川氏の定年延長の閣議決定だった。
 もともと二人は司法修習同期でライバルと目されたが、法務事務次官と東京高検検事長のポストは官邸の意向で黒川氏が就いた。「次は検事総長」と予想された。林氏はその間、法務省刑事局長、名古屋高検検事長だった。
 黒川氏の定年延長を事後に正当化するような検察庁法改正案も出されたが、世論の強い反対もあり廃案。黒川氏自身も新聞記者らとの賭けマージャン問題で辞職し、林氏の検事総長就任となる。そんな紆余(うよ)曲折を経ている。
 だが、この問題はいまだ深刻な傷を残している。「検察官には国家公務員法の定年規定は適用されない」との政府答弁が確立していたものの、安倍晋三首相が二月半ばに国会で「法解釈の変更」を持ち出したからだ。「国家公務員法の規定で検察官の定年を延長できる」と百八十度転換した。
 これは撤回されておらず、火種を残しかねない。検察幹部の任免権は内閣にあるものの、人事には口出しさせない慣例により、検察の独立が保たれていた。野党やメディアの監視も伴い、歴代内閣は検察に対し謙抑的でもあった。
 政治の人事介入が息を吹き返すかわからない状況はいけない。法学者が「違法」と指摘する「法解釈の変更」は速やかに撤回するよう政府には求めたい。
 同時に検察トップには常に政治権力との距離を保ち、不当な介入を許さぬ気概を持ってほしい。
 だが、検察は国民にとって常に正義の存在とは限らない。
 数々の冤罪(えんざい)事件をつくってきた過去があるし、今なお再審では証拠隠しなどが横行している。こんな姿勢は早々に改めてもらいたい。
 森友学園問題では財務省による公文書の改ざんがありながら、検察は関係者を「全員不起訴」とした。国民には不信もある。
 社会正義を実現する検察とは何か、問い直す好機でもある。

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