新しい検事総長に林真琴・東京高検検事長が就くことが、きのうの閣議で決まった。
総長に登用する布石とみられた黒川弘務・前東京高検検事長の異例の定年延長。それを後付けで正当化し、時の政権による恣意(しい)的人事に道を開く検察庁法改正案の国会提出。人々の批判に抗しきれなくなっての成立断念。そして黒川氏の辞職――。検察をめぐる半年に及んだ混迷は、林氏の総長就任でひとつの区切りを迎える。
検察の使命に改めて思いを致し、傷ついた信頼を回復すべく組織の先頭に立つことが、林氏に課せられた責務だ。
起訴権限をほぼ独占し、権力犯罪にも切り込む検察には、厳正公平な姿勢が何より求められる。安倍政権の振る舞いは、そのために不可欠な検察の独立を脅かすものと受け止められた。
新総長が肝に銘ずべきは、検察の独立の重要性を理解し支持した世論が、いまの検察のありようを、決して是としているわけではないということだ。
否認する容疑者や被告を長期間勾留するよう、裁判所に求める。権限を行使して集めた証拠を自分の所有物であるかのように扱い、被告側に有利な証拠を隠そうとする。捜査・公判への影響やプライバシーを理由にして、説明を拒む。
法改正や弁護士の異議申し立て、裁判所の指摘などを受けて一部見直しが進むものの、独善的な体質は抜き難く、市民との間に深い溝を生んでいる。
再生のよりどころにすべきは、大阪地検の証拠改ざん事件を受けて11年に策定された「検察の理念」だ。林氏は検察改革を担当する最高検検事として、その中心的役割を担った。
「理念」は冒頭で、「国民の信頼」に支えられ続ける大切さを説き、めざすのは有罪や重い量刑ではなく、事案の真相に見合い、国民の良識にかなう処分だと宣言している。
当時の危機感に立ち返り、検察官は「公益の代表者」だという意識を組織の隅々にまで浸透させることから、新たな一歩を踏みだしてもらいたい。
一連の経緯が法務・検察内に残した不信や亀裂の修復も、取り組むべき大きな課題だ。
政権の意向があったとはいえ、脱法的な定年延長の手続きを行い、検察庁法改正案づくりを進めたのは、当の法務省だ。特に専門知識がなくても順に考えていけばおかしいと思うことを、検事の肩書をもつ官僚たちが推し進めた傷は深い。
「すべて公務員は、全体の奉仕者であって、一部の奉仕者ではない」と憲法は定める。その説くところを、関係者全員が胸に刻む必要がある。
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