「当社のドメインが不法占拠されました。高度な攻撃を仕掛けられ、セキュリティを弱めるマルウェアを使われたために、もはやあなたのデバイスの安全性を保証できません。直ちにデバイスを破棄してください」――。高度な暗号化と完全な匿名性をうたっていたメッセージングサービスのプロバイダーが、ある日、顧客にそんな通知を送信した。
通知を受け取った顧客は、世界各国で殺人や麻薬取引などにかかわっていたとされる犯罪組織のメンバーだった。そして「高度な攻撃」を仕掛けていたのは欧州の捜査当局。この時点で既に同サービスに潜入し、ユーザーが取引交渉や犯行の計画などについて送受信するメッセージを密かに傍受して、内偵捜査を進めていた。
欧州刑事警察機構(Europol)や英国家犯罪対策庁(NCA)など欧州の捜査当局は7月2日、犯罪者専用のグローバルコミュニケーションサービス「EncroChat」を摘発したと発表した。潜入捜査を通じて英国やフランス、オランダなど多数の国で容疑者数百人が逮捕され、大量の麻薬や多額の現金、武器弾薬などを押収。誘拐や殺人未遂といった凶悪犯罪や、汚職、大規模な麻薬取引などを阻止したとしている。
ニュースサイトのVice Motherboardは独自取材をもとに、EncroChatを利用していた麻薬ディーラーの動転ぶりを次のように伝えた。
偶然の一致かもしれないが、同じ時期に、英国と欧州全土の警察が幅広い犯罪を摘発した。6月半ばには別の麻薬組織のメンバーが摘発され、数日後には捜査当局が数百万ドル相当の違法薬物をアムステルダムで押収した。まるで警察が、全く無関係の犯罪集団のメンバーを同時に拘束しているかのようだった。
「あれは警察だらけなのか」。Motherboardが入手したメッセージの中で、ディーラーはそう記していた。「頭がまだ混乱している。手下が全部やられた」
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