中国・長江周辺で「観測史上類を見ない」大豪雨

中国・江西省ポヤン湖付近の洪水の様子(写真:ロイター/アフロ)

梅の実が熟す頃だからとか、カビ(黴=バイ)が生える時期だからとか、今頃の雨が「梅雨(バイウ)」と呼ばれる由縁にはいくつか説があるようです。いずれにしても「梅雨」は中国・長江付近で生まれた言葉で、中国では「メイユ」と呼ばれます。

長江流域の洪水

今年の梅雨は日本でも例年にない大雨となっていますが、中国、特に長江周辺でも、記録的な雨が観測されています。

433の河川が氾濫危険水域を超え、そのうち33が観測史上最高水位を記録しています。死者・行方不明者は141人に及び、3,800万人が洪水の影響を受けているもようです。

この大雨の影響で、浙江省の新安江ダムは8日、水位が108メートルに達し、9つすべての門から緊急放流を行いました。これはこのダムの61年の歴史の中で、初めてのことです(※)。

さらに江西省にある中国最大の淡水湖・ポヤン湖の水位が13日、観測史上最高となる22.6メートルに達しました。こうした過去に類を見ない事態があちこちで起きています。

記録的な雨量

雨はどのくらい降ったのでしょうか。

中国の気象局によると、6月1日からの長江流域の平均降水量は、1961年の観測開始以来最大となったということです。

具体的には、湖北省イーチャンで6月に508ミリの雨が降り、観測史上最大となったほか、広西チワン族自治区では6月7日に観測史上最大となる328ミリの雨が降ったもようです。

また長江流域では7月1日~7日までに例年の2~3倍の雨が降り、湖北省や江西省では7月4日から10日頃までに700~900ミリの雨が降ったようです。

水蒸気の川

豪雨の原因は何でしょうか。

大きな原因として、大量の水蒸気の移流が挙げられます。そもそも西日本や中国の梅雨前線は南からの大量の水蒸気を持った湿った空気が、北の大陸からの乾いた空気とぶつかることによって発生します。今年はインド洋や東シナ海の海水温が平年よりも高く、より暖湿な空気が流入しているのです。

名古屋大学の坪木和久教授は下記のように話しています。

熊本県で記録的な豪雨となった今月4日には、インド洋や南シナ海から流れ込んだ水蒸気の量が1秒当たり50万~60万トンに達し、おととしの西日本豪雨に匹敵する

出典:NHK

とんでもない量の水蒸気が熱帯地方から流れ込んでいたのです。

ちなみに、太平洋を挟んだアメリカ西海岸でも、同じように水蒸気の川が大雨をもたらすことがあります。これは「大気の川(Atmospheric River)」と呼ばれる現象で、ハワイ付近からアマゾン川の流量を上回る水蒸気が流入して、カリフォルニア州などに洪水をもたらします。

今後の雨

その昔、お天気キャスターの、故・倉嶋厚さんは、梅雨を「空の水道」と呼んでいました。降りやまない今年の梅雨は、まさに水道のようです。

残念ながら、その水道の蛇口はまだまだ締まる見込みがありません。梅雨前線は少なくとも今週後半までは長江周辺に居座って、24時間で300ミリに達するような大雨も予想されています。

※1960年代に行われた試験的な放流を除く。