金正恩が80日ぶりに登場!でも解析ツールで判明した「10の加工痕」を解説
粗い画像の理由とは?
今年4月12日から明らかにおかしな動向を見せている、北朝鮮の指導者・金正恩。それが7月8日で80日目を過ぎ、「公式行事不在」という不名誉な記録を更新中だ。実はこの日は、金日成の死から26周年を迎える日でもあった。世間の関心は、金正恩が金日成の遺体が安置された錦繍山(クムスサン)太陽宮殿に参拝するか否かに集中していたのだが……。
***
【写真】2016年、2019年の参拝写真と比較。 ライティングなど、その差は歴然……
結論から言えば金正恩らしき人物が参拝したことは報じられたが、その「報じられ方」そのものに違和感を抱かざるを得なかった。
朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、金正恩が錦繍山記念宮を参拝したという記事を当日の午前7時頃にインターネットへ掲載。そこには“証拠写真”が1枚添付されていた。後述するが、普段なら、こういったニュースは行事の翌日に公開されてきたものなのに、である。
北朝鮮は金日成の死亡日を「民族最大の追悼の日」として記念日と定めており、金正恩が出席する政治イベントだと宣伝していたが、過去と違い盛大な儀式は行われなかった。
記事の中で特に目を引いたのは、「最高尊厳」と尊ぶ金正恩の参拝写真が、たかだか650×400ピクセルであり、画質が粗いこと。金正恩の映像や写真を撮影する者らを北朝鮮では「1号写真作家」呼ぶが、彼らは最高の写真技術だけでなく、最も高価な最新機種のみを使う。
百歩譲ってインターネットにアップするとき、サーバー容量制限のため圧縮したと考えることが出来なくもないが、これはあり得ない。北朝鮮は労働新聞と海外宣伝サイトに自前のサーバーを使用しているものの、アクセス者は至極少数であるためサーバーダウンの心配はない。ではなぜ、金正恩の参拝写真を、敢えてこのようなレベルの写真でアップしたのだろうか?
それはカメラやサーバー容量の問題ではなく、金正恩の写真や動画に意図的な操作が加えられた結果、それを隠ぺいするためだ。これまでの北朝鮮ならば、このような低解像度の映像を使用することは断じてない。代表的なのは、4月27日、9月19日の南北頂上会談や本人が新年の辞を行った映像で、これは、1920×1080ピクセルのFHDの画質でアップされている。
しかし、4月以降はこのような写真や映像はアップされていない。今回の記事の画像も普通の人が見ると特に問題がないように見えるかもしれないが、専門ソフトウェアを使って検証した瞬間、これは何だろうという疑問と違和感が一気に膨らんでいった。
例えば……
・金日成遺体参拝には、平年と比べて至極少数の23人だけ参拝しているのが確認できる。新型コロナの影響で随行員を意図的に減らしたともとれるが、金正恩が参拝せず、最側近だけ参加した場合、秘密が漏れる危険を抑えることができる。
・遺体参拝には金与正の姿も見えるが、最後列にいるのが不自然だ(*写真では確認しづらいかもしれないが、中央左に女性風の黒いスーツを纏った彼女が確認できる)。彼女は1年前の同じ行事では、兄と先頭に立ち、白頭血統であることをアピールしている。
・金正恩は、これまで着用していた金日成肖像バッジを身につけていない(他の参拝者はスーツ右ラペルにバッジをつけている。白い点として確認できるものがそれだ)。去年の画像を使えば加工に支障はなかったのではないかというツッコミがあるかもしれないが、それを使えなかったところに焦りなどがあって冷静な判断を下せなかったように映る。加えて、「1号写真作家」は毎年入れ替わり、データの保存自体が疑われるという有様だ。
電撃的に同日にニュース配信したワケは?
このように朝早く、金正恩が錦繍山記念宮を参拝したと写真まで添付してマスコミに公開したのは、韓国と海外向けに急いだと見て間違いないだろう。
これまでの北朝鮮は金正恩が出席した行事のニュースは翌日に公開されてきた。金正恩関連の写真や動画の掲載は、中央党宣伝部の承認を得ねばならないため、時間の関係で翌日に持ち越されていたはずだ。
しかし、今回の7月8日の参拝ニュースは、当日の午前7時頃に電撃的に公開した。何のためにこれまでの慣例を破り、参拝ニュースを急いで報道したのか? 金正恩の健康不安説を打ち消すために背に腹は代えられないという特殊事情があったと判断できる。
そうしなければ、7月8日はマスコミ各社が、金正恩の参拝を巡る無数の記事を送り出したことだろう。それは何としても避けたかったのだ。
その他にも今回の参拝行事は多くのミステリーを生んだ。先に言及した疑惑を含めて写真と動画を分析しながら、私が発見したミステリー10を指摘しておこう。
◎行事進行におけるミステリー
1. 7月8日の参拝同日にニュースを配信し、健在を誇示。過去に例がないことだ。
2. 過去と違って、参拝写真と動画は当日公開された。
3. 海外宣伝サイトには金正恩の写真はなく、記事だけがアップされている。
4. 最小限の人員だけ出席、写真はたった23人。過去には数百人が参加した。
◎写真・動画から発見されるミステリー
5. 金正恩の写真の中央に、加工の跡が集中的に表れている。
6. 金正恩の洋服右側の袖にだけ光が反射する。
7. 参拝ホール入口から入って進んで行く際に、金正恩の影が不自然。
8. 写真が2019年参拝当時と近似しすぎている。
9. 金正恩の靴の影が濃すぎる。
10. 金正恩のポジションと表情が不自然。
最近の金正恩の消息は過去と比べてどう考えても正常ではない。さらに金与正が急激に北朝鮮政治の前面に躍り出ているのを見て、金正恩の身に何か異変があったと勘繰り、そのような記事を綴ってきた。今回も専門ソフトウェアの力を借りて、加工の事実をほぼ突き止めたと実感している。
金正恩と関連した北朝鮮の報道はミステリーが深まっている。今後の国際社会は、北朝鮮が提示する報道にだけ頼るのではなく、そこに隠された事実関係を明らかにするための努力を惜しんではならない。
金興光(キム・フンガン)
北朝鮮の平壌金策工業総合大学電子工学卒業後、咸興共産大学で博士号を取得。2003年に韓国へ脱北し、2006年には韓国政府内の統一部北朝鮮離脱住民後援会課長を経て現在、(社)NK知識人連帯の代表を務めながら韓国内で対北専門家としてTV、新聞、YouTubeなどで活躍中。http://www.youtube.com/c/NKtv3
週刊新潮WEB取材班編集
2020年7月14日 掲載