小松左京が書いた原作、「日本沈没」は、日本という国が消滅してしまったら、果たして日本人という存在はどうなるのだろう?というテーマを複数視点で描いた群像劇だ。だが本作は、歩の一人称視点で日本が地震で沈むという災害を乗り切る様を描いた作品になっている。この原作ガン無視のやり方は面白いと思うのだが、冒頭に挙げた避難方法をはじめとする驚くほどの検証性の無さ、即物的な危機と死が醸す雰囲気は、災害の恐ろしさではなく、サメ映画でおなじみのアサイラムが作る激安面白ディザスター映画のそれと似たような馬鹿馬鹿しさだ。
加えて、中途半端な引き延ばしエピソードは、見るものを混乱させる。食料をため込み、マリファナを栽培し、客人をマリファナ入りカレー(わぉ!ブラックカレーだ!)で持てなす宗教団体、モルヒネ中毒の老人が立てこもるスーパーでの攻防、日本人純血主義者……彼らには全く存在意味がない。宗教団体の件においては「我々は、宗教団体ではない。叶恵様(団体の中心人物)の求心力に引き付けられた者の集まりだ」と述べる場面がある。ここは「そういうのをカルト教団っていうんだぞ!」と反論すべきなのに、誰もそんなことは言わない。モルヒネ老人もなぜモルヒネ中毒になったのか語られない。日本人純血主義者もただ主人公たちを罵倒して去っていくのみ。とにかく、誰もがただ何となく登場し、残酷に刺され、潰れ、焼かれて散っていくだけだ。彼らがその行動に至ったバックボーンが語られないのは、一人称視点であるから仕方ないのだが、それを差し置いても、何かを察せられるセリフの一つ二つが欲しい。一部SNSでは「日本人はこんなに性悪ではない!」と叩かれているが、こんな雑な脚本ではやむを得ないだろう。しかも、ここまで性悪に描かれると逆に面白くなってしまうのが、先のショックバリュー同様、良くないところだ。
引用や心情表現も非常に安易だ。歩の母親が心臓の問題を抱えながら「私は水泳選手だったのよ」という言葉を残し潜水。死亡する場面はあからさまに『ポセイドン・アドベンチャー』(1972)だし(この後、形見のネックレスを歩がつけている場面からもそれは明らかだ)、三角救命ボートに死んだはずの父親が乗り込んでくる幻想を見るのは『ゼロ・グラビティ』(2013)からのいただきである。最悪なのは、最終話直前、生き残った歩とその弟ら4人が唐突にフリースタイルダンジョンよろしくラップバトルを開始し、各々がティピカルに現状の日本を憂う場面だ。これをライム合戦でやる必要があるのか?と。これは作品の中で、物語が展開する中で、各々のキャラクターの行動で語られるべきではないか?それが映像作品というものではないのか?明らかに手を抜いている。まったくお話にならないYO! Say HO!!
他、日本がほとんど沈没している中でも機能し続けるインターネット、ITスキルの高い人物がハッキング中にpingコマンドのマニュアルを引いている、怪我も止血のみでOKとして抗生物質の必要性まで言及されない、不自然な英語台詞など、SF作品のアニメ化を名乗るにはディティールが甘すぎるのも気になって仕方がないところである。
で、本作、何が言いたかったのかと。外国人の母親を持つハーフの女性を主人公に立てたことで、原作の「日本人としてのアイデンティティを問う」というテーマに拡張性を持たせたかったか?と思いきやそうではない。リアルな災害を描きたかったか?というとそうではない。今、日本の置かれた状況を憂いたいのか?というとそうではない。
最終回、沈没した日本はなんとびっくり数年で再浮上してしまう。「ああ、一度滅んだ日本が復活しました!災害後の日本人は2重国籍を持っていましたが、オリンピックでは日本国籍としてEスポーツやパラで頑張っています。ガンバレ日本!サイコーニッポン!」で締めくくっている。ぶっちゃけ言いたいことは、今、さんざん批判されている「ニッポンサイコー!」なのである。脱力。まさに脱力である。
ちなみに回想という形で、いろいろな部分を複線回収と言わんばかりに補完しているのは完全な手抜きであるということを最後に付け加えておく。そもそもね、マリファナ最高!という描写と総括、説教の果てに、母なる海に還り浄化された俺の国サイコー!とか、ヒッピー文化の最低な部分を抽出したような感じで、もはや吐き気がしますね。こんな20世紀末的発想に塗れた話を2020年に本気で作るなんて気が狂ってますよ。平成後半生まれでも疑問に思うんじゃないかなぁ。
本レビューの書き出しを受けるオチとしては、マリファナでも吸いながら製作したんじゃないかなあというところでしょうか。
コメントしてポイントGET!
2020/07/13 20:24
更衣室のロッカーで踏み潰されたチームメイトを置き去りにして、さっさと家族の元に走り出すヒロインのJCで、嫌な予感がしてましたが…。
女子陸上チームを壊滅された女性コーチ。終盤でさらっと脱出船にスポーツ特待枠で旦那と一緒に乗り込もうとしてました。それで、チーム唯一の生き残りの主人公と再会して「元気だけが取り柄なのー!」と嬉しそうに笑っていて愕然としました。
サイコパスが書いたシナリオなのかと??
2020/07/13 20:35
コメントありがとうございます!あの選別シーンそのものも問題なのですが、あのコーチの立ち振る舞いはちょっとおかしいです。そもそも、彼女があんな指示を出さなければ、チームメイトは死ななかったわけで、その責任も感じず「貴方は選別枠なのよー」とかないです・・・。
2020/7/13 更新
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