日本の裁判所は中国に支配されている*1と主張する深田萌絵氏が、中国で配信できないNetflix*2のオリジナル作品をチャイナマネーによるものと批判していた。
しかし深田氏の説明が正しいとしても、日本人を救っただけでも右翼が現実よりは美化されていると感じてしまう。
東日本大震災において保守メディア「チャンネル桜」は、押し売りボランティアして被災者側を非難したり、まともな根拠もなく被災地の人々を犯罪者あつかいしていたものだ。
映像作品としてはOK、主人公の最低ぶりが完璧に表現されているという意味で - 法華狼の日記
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まだ作品を見られる状態にないので、これ以上の具体的な論評はしづらい。ただ、これまでのメディア展開と異なり、一家族の視点にしぼった物語を展開するという。
不自由になった世界で気づくこと。アニメ『日本沈没2020』で湯浅政明監督が追求したリアル | 朝日新聞デジタル&M(アンド・エム)
これまで映像化されてきた『日本沈没』は、一般市民の視点がメインで描かれることはほとんどなかった。しかし『日本沈没2020』は、日本が沈没していく中、“ごく普通の家族”が前を向いて進む物語となっている。
ミニマムな視点のロードムービー色が強いために、湯浅政明作品ならではの新たな日本崩壊ビジュアルを期待した視聴者から不満があることも見聞きはする。
ただ上記インタビューで、ナショナリズムへ距離をとろうとしたことや、外国人にも共有できる状況設定にしたいことも監督は明言していた。
『日本沈没2020』を手掛けるにあたり、湯浅監督は作品が「ナショナリズム」を称揚することへの恐怖を持っていた。日本は美しい、日本は素晴らしい、日本人であることは誇らしい、そんなメッセージが視聴者に伝わってしまうのではないかという怖さがあったそう。
「世界の人たちが作品を見たとき『日本のことでしょ?』と外での出来事として感じてしまうのは一番残念だなと。作中にいろいろな国の人や立場の人が出てきますが、彼らはたまたま日本にいて、たまたま震災が起こったというだけ。国や人種、国籍関係なく、誰にでも起こり得る問題、という風に考えてもらえればと思います」
湯浅監督が考え、たどり着いた答えも『日本沈没2020』には描かれている。それは、ハッキリとした答えではないかもしれない。人それぞれ異なる解釈をする可能性もある。
深田氏のような愛国者が反発したのは、正しく作品を読みとった結果なのかもしれない。それが良いのか悪いのかは別として。
なお、日本が沈没させられているから反日という主張については、もともと『日本沈没』という原作小説が存在するし、くりかえし映画化してヒットしてきた*3。
さらにいえば、『東京沈没2020』では原作や映画と違って、朝鮮半島の一部まで沈む設定も以前から公開されていた。日本だけの沈没が望まれているかのような反発は的外れだ
もちろん日本にかぎらず、それぞれの国が災害でさまざまな苦境におちいる物語はあまたあるし、そこでは当然のように社会の美しさも醜さも描かれてきた*4。
また、制作会社の取締役プロデューサーのチェ・ウニョンをはじめ、スタッフに複数の外国人がいることを問題視する意見もある。
しかしスタッフワークを見るかぎり、物語の中核をなす監督と脚本は日本人が担当している。制作会社のサイエンスSARU自体も、多様なスタッフを集めているが、あくまで日本の会社だ。
そこで韓国出身者の監督したアニメというと、最近では『SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』が放映されたばかりだが、最初から最後まで特に問題を感じるような作品ではなかった。
もっとも、信じられない難癖でアニメが反日と評されることは今回がはじめてではない。
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そういう意味では『SHOW BY ROCK!! ましゅまいれっしゅ!!』が非難されても驚きはないが……
*1:
*2:中国資本と提携したこともあるが、それ自体が規制をかいくぐるための工夫だったくらい距離がある。 Netflix オリジナル作品を中国にライセンス供給 ドラマやアニメーション等 | アニメーションビジネス・ジャーナル「中国ではインターネット配信サービスは中国資本の企業のみの認可制度となっており、Netflixはこれまで進出できていなかった。Netflixはオリジナル番組の全世界の配信ライセンスを持つため、これらの番組は中国で視聴が出来ない。今回は、中国向けの配信権をNetflixがアイチーイーに販売することでこれを実現する。」
*3:旧作は東宝特撮の技術力をそそぎこんだシネマスコープ大作で、派手すぎる爆発以外は現在でも見ごたえある。新作は樋口真嗣監督の牽引した特撮ビジュアルは良かった。
*4:チャールトン・ヘストン作品は大作のようで、アニメ表現の流血などの安っぽい特撮が散見されるが、その時代性もふくめて楽しめた。韓国映画は橋上のゲームのようなコメディ演出と、奔流に翻弄されるシリアスドラマでリアリティレベルが乱高下するのは首をかしげたが、現代VFX作品として標準以上の出来ではあった。