025
*
「勝ったですって……?」
戦勝報告を受けたヘイナはわなわなと身を震わせ始めた。
5000人もの兵力を掃討しての大勝利。
さらに、我が軍の被害は大したことなかった。
「ありえない。そんなのありえないわ!」
ヘイナは嫉妬に駆られた。
総大将がそれを知れば自分の立場が脅かされる。そんな考えが真っ先に脳裏に浮かんだのだ。
エルヒンは伯爵だ。
自分も伯爵であるとはいえ、こうなると地位を追われる可能性は十分に考えられる。
それも無能極まりないと思っていたエルヒンによって失脚させられたら、ベルヒン家は永遠に嘲笑の的となるに違いなかった。
それは絶対に耐えられない。
そればかりか、エルヒンが自分の命令に背いて勝手に行動したのも我慢ならなかった。
すでにヘイナは勝利なんかには目もくれていなかった。
国が危険な状況であるのに、それを忘却して自分の名誉のために知恵を絞った。
エルヒンは補給基地から動くなという参謀の命令を無視した。
同じ伯爵でも王国軍における上官は自分。それは厳然たる事実だった。
だから、これは抗命罪。
明らかに抗命罪だった!
うってつけの罪名が思い浮かんだヘイナはすぐに兵士を呼んだ。
「すぐに補給部隊の指揮官を抗命罪で拘束して!」
*
勝利した。
だが、その結果は笑えた。
リノン城の牢獄。
あの陰気な洞窟のような迷路。
俺はリノン城の牢獄に監禁された。
罪名はなんと抗命罪!
こんな状況を生み出したのはもちろん参謀ヘイナ。
戦勝して駐屯地へ復帰した時はまだ百人隊長や兵士たちの表情は明るく輝いていた。
しかし、それもつかの間。
状況はすぐに反転した。
戦勝報告をするとリノン城から兵士たちが押し寄せてきた。
参謀ヘイナは何ともわかりやすい女だ。
戦勝にもかかわらず、命令を無視したことを理由に俺をリノン城に召喚した。
そして、牢獄に閉じ込める。
俺の肩を持つ百人隊長とギブンのような兵士たちが話にならないと身を乗り出したが、彼らはむしろハダンに平手打ちをくらった。
そのようにしてリノン城の牢獄に監禁されたという話だが。
事実上そんな状況を作ったのも俺だ。
わざと捕まったというか。
ヘイナなら戦勝をしてもそんな扱いをするような気がしていた。
虫けらを見るような目で俺を見ていた彼女の眼差しを考えればなおさら。
ゲームの歴史。ゲーム上で見ると今はまだ超序盤。
主人公が活躍し始めたのはルナン王国が滅亡してからだ。
ルナン王国が滅亡する戦争については説明で見ただけ。
そのため、詳しいことまではわからない。
ただ、知っている事実があるということが重要だった。
その歴史的事実の中で最も重要なこと。
時間としてはちょうど今頃ガネン城が陥落する。
そして、ガネン城の陥落からたった一日でリノン城も陥落する。
これは俺が知っている歴史。
どういう経緯でそうなったのかはわからない。だが、陥落するということは歴史的事実だ。
ガネン城の陥落から一夜にしてリノン城まで陥落させる方法とは一体何だろうか?
それが補給部隊への奇襲と何か関係しているかもしれない。
俺はその考えを振り切ることができなかった。
奇襲があまりにも公然と起きたから。
敵はあえて偵察隊を送りこんできた。それなのに、すぐに奇襲を実行することも中止することもなく、むしろそれに備える時間まで与えてくれた。
奇襲は我が軍がすべての準備を終えてしばらくしてから起きる。
我われが偵察隊を捕らえたその瞬間にこの奇襲が発生していれば他意はなかっただろう。
偵察隊は戻らなかった。
つまり、敵は偵察隊が捕まったという事実を知りながらも、すぐに奇襲を実行せずに我われに時間を与えてきたのだ。作戦が漏れる危険があるのに!
だから俺はその時間のリノン城の動きに注目した。
話によると、参謀ヘイナは奇襲の情報を入手した後に持ち場を離れていた。
これがまさに敵の狙いだったら?
敵の本当の狙いは補給部隊ではなく、ヘイナがリノン城を不在にすることだったら?
それなら敵の作戦は成功したことになる。
ヘイナがリノン城を離れるよう仕向けた後に何を企んでいたのかはいまだにわからない。
敵はその時間にリノン城を攻撃したというわけでもない。ガネン城を攻撃していた。
その答えはまさにリノン城にある。
ここにいればその戦略を知れるということ。
戦略を突き止めたら反撃開始だ。
リノン城さえ守ればゲームの歴史は完全に変わるから。
俺の狙いは奪われたリノン城の奪還!
それがここへおとなしく連行されてきた理由だった。
ゲームのような現実。
その世界を掌中におさめるということにはかなり興奮する。
ゲーム好きの俺にとってはこれ以上に幸せなことはない。
システムを得たから必ずこの世界を俺のものにしてみせる!
もちろん、おとなしく捕まった理由はもうひとつある。
ハダンが捕虜をヘイナのところへ送ってしまった。
そして、ここへ入ってきながらその捕虜であるジントの姿を確認した。
正直、快哉を叫んだ。
何とかジントさえ説得できれば、今回の作戦の成功率は一気に高まる。
そんな理由で俺は独房に監禁された状態。
貴族が平民と同じ牢獄に入ることはない。貴族ゆえに独房という贅沢を享受しているところ。
ジントは前方の部屋にいる。事前にそれは確認しておいた。
ただ、そこへ行く前にやるべきことがある。
まさにレベルアップだ。
敵の奇襲を阻止して勝利を収めたから経験値が入ってきた状態。
[獲得経験値一覧]
[戦略等級B x2]
[D級がB級を殺生 x3]
ヒリナとかいう敵将の武力は80だった。よって、俺は3倍の経験値を獲得した。
川を利用した今回の戦略等級はB。
おかげでレベルは11まで上がった。
[レベルアップポイントを獲得しました。]
[保有ポイント:550]
今回の獲得ポイントは500。
既存レベルが8だったから、レベル9の達成で100ポイント。
さらに、レベル10からは200ポイントが入ってくるから、合計すると500ポイントとなる。
残りの50は既存ポイントだ。
[武力を強化しますか? 300ポイントを利用します。]
ひとまず武力を1アップした。
現在の武力は61。
大きい変化はなさそうな微弱な数値。
だが、こうして上げていけばいつかは強くなれるはず。
とりあえず250ポイントは残しておいた。スキルを使う時の消費ポイントも考えると、状況を見ながら使った方がよさそうだったから。