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俺だけレベルが上がる世界で悪徳領主になっていた 作者:わるいおとこ

第 2 章 俺だけが見分けられる人材。そんな宝石。

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 *


「全員よく聞け! 川を渡って進撃しろ! 目標は敵の補給基地だ!」


 指揮官の大きな声。ランドールの実弟ヒリナは逃げるエルヒンの後を追いながら命令を下した。

 追撃の末ついにヒリナの騎兵隊の前には川が現れた。

 幅の広い川。だが、かなり水位が低かった。

 5320人の騎兵隊が四方に分かれて川を渡り始める。

 ヒリナと彼の副官たちが川を渡りきって後ろの兵士たちも続々と合流しだした、その時!


 ゴォォオオオッ


 突然、何か振動音のような音が聞こえてきた。


「何の音だ?」


 ヒリナが首を傾げながら音のする方向を見上げた。

 しかし、特に変わった様子はなかった。


「指揮官?」


 目標は補給基地。他のことに惑わされる必要はないと言おうとしていた副将の表情が驚愕に染まった。上流の方から怒涛のごとく水がなだれ込んできたのだ。


 川を渡りきった騎兵は500人ほど。そして、渡っている途中の騎兵隊が1000人。まだ渡れていない後ろの歩兵が約3000人。

 主力部隊の騎兵隊は押し寄せる水流に飲まれてしまった。

 足首から胸の下まで急激に水かさが増すと、その水の勢いに押されて敵兵と馬が流され始めた。


 ヒヒィーン


 馬の鳴き声が四方に響き渡った。

 人間の悲鳴と共に。


 ヒェエエエッ


「どうなってんだ!」


 馬を捨てて泳ごうとする兵士たち。

 だが、上流から下流へと勢いよく流れる水に立ち向かうには力不足。


「うぉぉおおおーっ!」


 弱り目に祟り目。

 ヒリナは驚愕せざるをえなかった。

 濁流に飲まれた騎兵隊の分断はおろか、両側から敵兵が押し寄せてきたのだから。


「くそがァ!」


 ヒリナはそう吐き捨てながら剣を抜いた。

 一発の水攻で馬と兵士が大量に消えた。いや、実質的には消えた数より残った数の方が多いが、大混乱に陥って一瞬兵力が分断されたということがとても大きかった。


「攻撃だ!」


 ギブンが百人隊を率いて突撃した。軍歴が長いユセンの訓練を受けていた百人隊は、他の百人隊に比べて一番訓練の行き届いた兵士たちであるため突撃には問題なかった。

 問題は他の百人隊。

 他の百人隊所属の歩兵たちは攻撃を仕掛けながらも震えていた。

 さらに、百人隊長のジドもおじけづいた顔。


 まともに戦えるのはギブンと100人の兵士たち、そしてエルヒンだけ。

 敵を混乱に陥れた状況でも補給部隊の歩兵たちはヒリナとナルヤの騎馬兵に勢いで負けていた。


 その状況を目にしたエルヒンは呆れたように首を横に振った。

 これが補給部隊のお粗末な実態。

 こんな部隊を率いて要塞で持ちこたえるだと?

 とんでもない。


 このままでは作戦が成功しても敗北する羽目になる。エルヒンは完全に敵の気勢を殺いで我が軍の自信を高めることの必要性を感じた。

 その方法はただひとつ!

 エルヒンはヒリナの元へ馬を走らせた。

 ヒリナの武力は80。

 それなりに強い方ではある。

 ところが、特典を装備したエルヒンがヒリナに立ち向かうと、


 ぐはっ!


 ヒリナはまったく反撃できずに首を切り落されてしまった。

 大通連の威力が光を放つ瞬間!


「恐れずに戦え! 敵は困惑している。この敵将の首を見ろ。敵は何てことない。ジド、しっかりしないか!」

「はっ、はい! 指揮官!」


 エルヒンはさらなる劇的効果を狙ってスキルを使用した。威厳を見せつけるため、群がる敵に向かって[一掃]を発動する。


 ドカーン!


 スキルを使うと、範囲内の敵兵はことごとく白い光の中で死んでいった。その強烈なマナスキルを目の当たりにした全員が驚いて凍りついた。


「マママ、マナ!」


 驚いたのは我が軍の兵士も同じ。

 特に、エルヒンの規格外の強さが彼らには衝撃だった。


「指揮官っ! マナを使われたんですか!」

「そんなことはどうでもいい。敵を撃退することに集中しろ!」


 ギブンの質問にエルヒンが答えると、


 うぉぉおおおーっ!


 スキルのおかげで勢いに乗った補給部隊の兵士たちは恐れを捨てて剣を振り回した。

 百人隊長も同様。

 一変した状況に川を渡っていた兵力はすっかり片付いた。

 残すところは、後ろにいた残存兵力!


 エルヒンが先陣を切ると、マナの強さに魅せられた兵士たちはまるで自分がその力を使っているかのような錯覚に陥って喚声を上げながら水が引いた川を渡り始めた。


 士気は上昇!

 指揮官を失った敵。残ったのは後方の歩兵だけ。

 勝利は目の前。

 これはルナン王国軍が最初に成し遂げた勝利でもあった。


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