021
「では、ユセンに代わって君が会議に出席するように」
「よ、よろしいのですか?」
「それぞれの百人隊に命令を出すつもりだから代理人が必要だ」
ひとまずユセンの百人隊にそう話した後、俺は指揮官幕舎に移動して緊急会議を招集した。
何か敵の狙いがあるとしても、補給部隊の指揮官として基地への奇襲に備えなければならない。
「昨日の偵察で捕虜を捕まえてきたことは全員知っているはずだが、その捕虜が自白した。ガネン城に進軍した敵軍は補給基地への迂回路を発見して奇襲を計画しているとのことだ」
「えぇぇええっ!」
「指揮官、それは本当ですか?」
「きき、奇襲だなんて!」
指揮官幕舎に集まった百人隊長がざわめきだした。それだけ波及力のある知らせではある。
「自白の内容は紛れもない事実だ。実際に奇襲があるかどうかはわからないが」
俺が肩を聳やかすようにして答えると、ハダンの部下がすぐに声を上げた。
「す、すぐにリノン城に報告を。副指揮官もいないこんな時に!」
「報告はするが。まずは対策を講じてから……」
あいつがいたところで何が変わるんだよ。
補給基地は首都へと続く道にある丘の上の要塞に位置している。それほど高さはないが城壁には囲まれていた。補給の便宜上の理由から各区域ごとに扉が設けられている構造で、四方に城門がある都市に比べて多くの扉が存在しているという特性がある。
「そんな時間はありません! すぐに報告に行ってまいります!」
昨日から目に留めていたハダンの部下であろう百人隊長は、俺の言葉を軽く無視してその場を駆け出した。
指揮官の存在はあからさまに無視だ。
上官が上官なら部下も部下というか。
「……まあ、それはそうと。我々は独自に備える。奇襲が本当だろうが嘘だろうが、備えておけばいくらでも阻止できるはずだからな」
もちろん、要塞の中であればある程度攻撃に持ちこたえられるだろう。だが、かなりの長期戦が予想されるだけでなく、その間は補給任務を遂行できない。そうなれば敵の狙いどおりだ。
さらに、今の訓練度と士気では長期戦になった時に持ちこたえられるかは疑問の状況。
地形上は有利に見えるがむしろ不利だ。補給部隊が孤立してどうするというのか。
基地の外ならもっと戦いやすい地形があった。その地形を利用して敵の士気を急落させることで一気に撃退できる方法があれば、その方が有効な方法となる。
作戦に失敗した後で要塞にこもっても遅くない。
「対策については各百人隊に改めて命令を出すことにする。ひとまず解散して兵士たちに状況を説明するんだ。いつでも出陣できるよう準備しておくように!」
命令を下した後、会議を解散させてギブンだけをその場に残した。
聞くことがあったからだ。
「ギブン、君は少し残ってくれ」
指名されたギブンは辺りを見回して百人隊長が全員出て行ったのを確認すると、俺に歩み寄ってきた。
「隊長のことですか?」
「いや。ユセンならそのうち戻るだろう。そのことではない。他に聞くことがある」
「何でしょう?」
「ハダンに不満を持つ百人隊長を教えてくれないか。ハダンに従っていない百人隊長をな」
「副指揮官に不満を持つ百人隊長ですか。えーっと、それは……ほぼ全員です。先ほど報告に向かったあの百人隊長の他にもう一人を除く全員が嫌っています!」
「ほう。そうか」
「はい。副指揮官は……本当にクズ、いや……!」
貴族を侮辱すること。
それは不敬罪だ。
すぐに処罰されること。
俺も貴族であるということを後から思い出したのかギブンは急いで自分の口を塞いだ。
「ハダンのようなクズはいくらでも侮辱していい」
俺は選択的に許可した。俺を侮辱したら不敬罪で処罰するが、あの憎たらしいハダンならまあ。
「ほ、本当ですか?」
「ああ」
「で、では、言わせていだたきます。あいつは根っからのクズです。いつも些細なことに難癖をつけて百人隊長たちに鞭打ちを……」
「なるほど。不満が溜まっているんだな?」
「はい!」
それはかなり好都合な情報だった。
それなら、今こそがハダンを排除して部隊を確実に掌握できるチャンス!
「では、ユセンと親しくて信頼のできる百人隊長は誰だ。ユセンがいないこの状況を理解できる百人隊長はいるか?」
「ほぼ全員が隊長とは親しいですが、その中でもジド百人隊長が一番親しいですかね」
「そうか。よし、では君たちの百人隊もすぐに出陣の準備をするように。それと、ジド百人隊長をここへ送ってくれ」