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俺だけレベルが上がる世界で悪徳領主になっていた 作者:わるいおとこ

第 2 章 俺だけが見分けられる人材。そんな宝石。

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 *


 補給部隊の指揮官として2日目。


 ジントが目を覚ましたという報告はすでに受けていた。

 彼が目覚めたのは気絶してから正確に5時間後だった。

 つまり、[破砕]で気絶を発動した場合の効果時間は5時間という話。


 俺は軽くシャワーを浴びて捕虜用の幕舎に向かった。

 おとなしく捕まっているのを見ると、鎖を切断できるスキルはないようだ。

 それに、今の俺はまたいつでも[破砕]を使える状態。

 だから恐れることなく幕舎に足を踏み入れた。


 薄暗い幕舎内。ふたりの兵士は鎖に繋がれていた。奥の方で1人は居眠りをしている。

 俺は中に入るなりジントと目が合って睨み合いがしばらく続いた。

 これぞまさしく神経戦か?

 いや、こんなことをしていても意味がない。


「よく眠れたか?」


 無意味なまねはやめて俺は質問を投げかけた。ところが、ジントは俺をずっと睨みつけるだけで何も答えなかった。


「どうやら寝てないようだな。そんなふうに睨んでばかりいないで、少しは話したらどうだ。俺は君の武力をとても高く評価している」


 一貫して黙りをきめこむ。

 何度も話しかけてはみたが返事はなかった。

 その証拠にジントは完全に目を閉じてしまった。

 むしろ、奥で居眠りをしていた兵士が俺の声に目を覚ましたのか口を開いた。


「そいつはもとから無口なんだ。代わりに俺が話してやってもいいぜ。解放することを約束してくれるならな!」

「無口だと?」

「そうさ。部隊でも一言も答えることのないやつだった」


 なるほど。

 もとからそういう性格ってわけか。


「お前は何でも話せるんだな?」

「命だけは助けてくれ! 解放してくれれば何でも話す!」


 それなら、ひとまず目的を変えないとな。登用から尋問に。


「命を助けてやることはできる。だが、逆に今すぐ殺すこともできる」


 俺は腰に帯びた剣を抜き取って兵士の首元に突きつけた。


「ヒィィイイッ! 勘弁してくれ。たっ頼む。助けてくれ!」


 がたがたと震えながら叫ぶ兵士。

 戦場でも怯えて逃げ出そうとした矢先に馬から落ちた兵士だ。

 彼は他の9人とは違ってひどく臆病に見えた。

 まあ、その方が尋問しやすいが。


「正直に言え。偵察隊の目的は何だ。お前が属する部隊は何を準備している」

「それは……」

「いいか、悪知恵を働かせるようなまねをしたら即殺だ」


 その言葉が本気であることを証明するために、俺は剣先を兵士の首元にさらに近づけた。首からは軽く血が滲み出る。


「話す、正直に話すよ。詳しいことはわからねぇが、奇襲を準備しているようだ。それで偵察をしてくるように言われたんだ」

「奇襲? この補給基地に?」

「ああ、そうさ。俺が聞いたのはそれだけだ。俺も詳しくはわからねぇ。ただ、命令を受けて偵察にきたってだけだ。本当なんだ。そ、その剣はしまってくれ。助けてくれ!」


 一般兵士が詳細に知りすぎている方がむしろ怪しい。

 偽の情報かもしれないし、本当の情報かもしれない。

 この兵士は本当だと思っていても、ナルヤ王国軍の指揮部によって偽の情報が植えつけられ、偵察に送りこまれたという可能性もある。


 もちろん、奇襲の話が本当である可能性は大きい。昨日偵察に行ってみた結果、リノン城を経由せずにガネン城からここ補給基地までの迂回路が存在した。

 ガネン城を攻撃しようと進軍してきたナルヤ王国軍がこの道を把握することになれば、当然補給基地の奇襲を狙ってくるかもしれない。

 もし敵が奇襲に成功すれば、交戦中のガネン城とベルン城は食糧難に陥る。

 他の場所に補給路を作るとしても数日間は飢えさせることになりかねない。それでは士気が下がってしまう。

 特に、敵が軍事拠点となるこの補給基地を占領すれば、他の補給路を作ることもそう簡単には行かなくなってくる。

 実益は十分にある。

 信憑性のない話ではない。

 もちろん、あえて目立つかたちで偵察隊を送りこんできたこと自体は怪しいが。

 まるで捕虜にして自白させろとでもいうように。

 わざわざ奇襲を知らせようとしているというのか。



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