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俺だけレベルが上がる世界で悪徳領主になっていた 作者:わるいおとこ

第1章 悪徳領主

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「これまでも君が作ったあらゆる名目で税金を搾取してきたではないか。それが一つ増えたところで何か問題か?」

「それは……。」

「ボルド子爵、頼んだぞ」

「ですが、すでに多額の税金を搾取しているので、これ以上名目を作り出せるかは……」

「そうか。それなら仕方あるまい。考え直すとしよう」

「さすがご理解が早い! 恩に着ます!」


 ボルド子爵は悪いやつではないのか? エルヒンだけが悪者?


「もう下がってよい」

「かしこまりました」


 今はまだどんな結論も下すべきではない。もっと証拠が必要だ。俺はひとまず書類を調べ直した。やはり、この税金はすべてボルド子爵とエルヒンの共謀によるものだ。税金の各種名目を作ったのがまさにボルド子爵。さんざん協力しておいて、さらに税金を上げようとするのを止めたからと善人と見なすのは腑に落ちない。最初から協力したのが間違いだ。それこそ、正しいことを言って投獄されたハディンのような人物こそが善人なのでは? 頭の中が混乱し始めた。彼が世渡り上手なだけという可能性もあるから。

 頭痛がしてきた。

 一日中書類ばかり見ていたからか、いつもより痛く感じる。


「侍従長! 風呂にする!」


 そこで、俺は風呂に入ることにした。やはり風呂は最高だ。温かいお湯でしばし疲れを癒した。少し気分も晴れて、夕食を食べ終える頃にはだいぶ頭痛も治まっていた。そんな状態で俺は寝室に戻ってきた。これがただのゲームだったらこうも悩まずに済んだのに。結局ゲームならやり直しがきくから。だが、今はボタンを掛け違えると取り返しのつかないことになる。だから、悩みを抱えすぎて頭が痛いのだ。

 くそっ。


 むにゅ


 そんな心境でベッドに歩み寄り腰を下ろした。その瞬間、何かとても柔らかいものが手に掴めた気がした。俺は思わず手を引っこめた。


「え……?」


 驚いてベッドを見渡す。明らかに誰かがいた。これは人に触れた時の感触だった。それもかなり柔らかくてもっちりした部位。俺は意を決して布団をめくり上げた。

 慌てて[攻撃]コマンドを入力しかけたまま、布団の下の存在を確かめて凍りついた。ベッドにはふたりの裸の女が寝ていたのだ。

 一糸まとわぬ美女が俺のベッドに寝ている。ふたりともすごい胸のボリュームだった。そんな状況に俺は思わず後ずさりしてしまった。鼻血が出そうで見ていられない。


「りょ、領主?」


 女たちは上体を起こしながら俺を見た。俺の反応にむしろ驚いた顔をしている。起き上がった弾みにぷるぷるの胸が揺れたことで俺は気が狂いそうになった。幸いにもふたりの女は恥ずかしそうに布団で体を隠した。そのおかげで胸も隠れてしまったが、その姿がまたエロい。って、いやいやいや!


「侍従長ーっ!」

「はい、ご主人様!」


 俺はまたもや侍従長を呼んだ。一日中侍従長を呼びつけてばかりのようだが、今こそ侍従長が必要だ。侍従長に対してこんなにも切実になったことはないというほどに。


「お呼びでしょうか?」

「この女たちは一体何だ!」

「いつも通りご用意いたしました。裸の女ふたりをベッドに寝かせておくこと。すべて仰せの通りです。もちろん、今日の女性たちはボルド子爵がご用意されました。ご主人様もお気に召されるだろうと豪快に笑って帰られましたが……」


 いつも通り?

 あぁ……。すっかり忘れていた。そうだ、俺はエルヒンだった。

 エルヒンは女に溺れたやつだった。エイントリアンが陥落したあの日も、女遊びしているところを捕まって首をばっさり斬り落とされた。

 だから、驚くことではないか。だが、女に溺れているとはいえ夜な夜なこんなまねをしていたのか? 両脇に女を侍らせて?

 はーあ。だれかさんはこの年まで……。いやいや、そんなことはどうでもいい。

 普段からこうして部屋に女を呼び入れていたのか。今日はボルド子爵が俺に媚びようと女を送りこんできたようだが。


 悪徳領主の仮面はそろそろ脱ぎ捨てようという時にエルヒンと同じまねをするなんてとんでもない。今後も悪徳領主でいくならまだしも。

 もちろん、ボルド子爵が送りこんできたという点だけは好都合だった。やはりボルド子爵はまともな人間ではないという証拠だから。


「侍従長。ひとまず君は下がっていいぞ」

「は、はい……?」

「どうした?何か言いたそうだな」


 侍従長は意外にも急に反問してきた。いつもうなずくだけだった侍従長がこんなふうに俺の言葉に反問したのは初めてだ。さらに、ほんの一瞬だったが少しがっかりしたような表情を浮かべ、すぐにポーカーフェイスを取り戻した。


「い、いえ何も!」


 そして、あたふたと部屋の外へ出て行ってしまった。何だったのか。まあ、今はそれどころではない。俺は再びふたりの女に視線を戻した。思いがけない裸に興奮した気持ちを落ち着かせて冷静に見ると、布団で隠した体はぶるぶると震えていた。もっとも、神に村の処女を生贄として捧げていた、あのばかげた慣習のように、半強制的に脱がされて待機していたのだろうから。

 俺は下手に近づいて刺激しないよう、少し離れた場所から質問を投げかけた。


「まずは落ち着いて。君たちは誰なんだ?」

「そ、それは……」


 ふたりの女は互いを見つめ合うとほぼ同時に口を開いた。


「私はメラン村から来たネラです」

「私はユルタ村から来たナラです」


 そして、それぞれ名前を名乗っては泣き出す。おそらく本来のエルヒンなら、泣く姿を見てさらに喜悦に浸っていたことだろう。

 それなら

「君たちを送りこんだのはボルド子爵だな?」

「はい……っ……。」

「それに素直に従うなんて。ここがどんなところかわかってるのか?」

「はい。わかってます……っ。」


 なぜ泣いているんだ。返ってきたのは俺の求める答えではなかった。少し方法を変えた方がよさそうだ。俺はベッドに近寄った。


「君たち、あの噂を聞いてないようだな?」


 俺がすぐ近くまで歩み寄るとふたりはさらに震え出す。


「うっ、噂……?」

「エルヒン領主は泣く女をいじめるのが好きという噂さ。泣けば泣くほど猛る」


 俺はふたりの女が座るベッドに腰かけて、手前にいる女の頭をそっと掴んだ。


「それもかなり残忍なんだ。君たちを親の目の前で犯して精神的苦痛を与えてから皆殺しにするのさ。どうだ、悪趣味だろ?」

「い、嫌っ!」

「そっ、そんな……! たっ、助けてください! どうかお願いです!」


 いやいやと首を横に振りながら号泣し始める女たち。


「ボルド子爵に何を言われてこんなふうに身を捧げたのか全部正直に話すんだ。さもなければ、すぐに君たちの親を呼ぶ。ボルド子爵なんかより俺の方が恐ろしい人間であることをわかってくれるといいが?」


 領主の悪評は領地に広まっているはず。恐怖にとらわれたふたりの女は互いを見つめ合いながら泣き沈むとぶつぶつ呟き出した。


「でっ、でも……。でも……」

「どんな脅迫を受けたのかは知らないが、俺なら君たちの命を守ってやることもできる。本当のことを話せばな。それか、楽しい夜を過ごしてみるか? 泣きわめいて血が飛び交う狂乱のショーなんかどうだ? ククッ」

「ヒィィィィイイッ。い、嫌ーっ!」

「話したら……本当に、本当に助けてくださるんですね?」

「約束は守る。だが、俺を選ぶか、ボルド子爵を選ぶか。チャンスは今だけだ。誰の方が力を持っているかはその辺の子供でも分かるだろう」


 目をきょろつかせながら様子をうかがっていたふたりだが、結局そのうちのひとりが真実を告白し始めた。


「わっ、わかりました。話します……。ボルド子爵には口止めをされていましたが、言うとおりにしなければ両親を殺すって……そう言われました。それと、領主が眠ったらこれを……。これを飲ませるようにと!」


 え?

 女は体のどこからか小さな丹薬を取り出すとその場でひれ伏した。

 何だこれは。……まさか、毒薬?


「たっ、助けてください。お願いです……。そんな地獄は嫌です。いっそのことこのまま殺してください。いや、助けてください……っ……。死にたくありません!」


 呆れた。

 正直、この女たちを抱くつもりはない。だから、あの薬を俺が飲むことはなかっただろうが。危うく気づかないところだった。

 少し脅してどんなふうに脅迫したのかを聞き出せれば子爵の実体をつかめるから、それを利用してボルド子爵のことを調査しようとしただけなのに。

 女を送りこんで媚びを売ろうとしていたのではなく、最初から俺の毒殺を謀っていたというのか?


「まさか、それは毒薬か?」

「……っ……たっ、助けてください。毒薬ではないと言っていました。ただの栄養剤だから数日眠るだけだって……。そして、自分が領主になったら私たちのことを助けてくれるって……」


 助けてくれるなんてとんでもない。そう言ったのであれば、これは完全に毒薬だ。睡眠薬ではなく、毒薬。おそらく俺が死んだら、このふたりの女が暗殺犯として真っ先に殺されるだろう。背後にいる人物を突き止められないように。


「侍従長ーっ!」


 結局、またしても俺は侍従長を呼ばざるをえなかった。


「ご主人様! どうされましたか?」

「彼女たちを保護してくれ。どうやら、ボルド子爵が俺の暗殺を謀ったようだ」

「そ、そんな!」


 侍従長は驚愕した顔で目を瞬かせた。


「ひとまず、ボルド子爵の魔の手が伸びないよう彼女たちの両親も一緒に保護してくれ。ああ、それと今後は寝室に女を入れないように。女好きのエルヒンはここまでだ。そんなまねをしていては、領地を復興させる夢も永遠に叶わないからな」

「……はい?」


 その言葉に侍従長は再び反問した。ただ、きっさきのとは少し性格が異なる。


「女好きなど領主のあるべき姿ではない。どういう意味かはわかるな?」

「それは……。いえ、あの、すぐに手配します!」

「それともう一つ。すぐに人を送って、ハディンに領地軍を率いて城の前に集合するよう伝えるんだ!」


 兵営の指揮官を替えて確実に兵権を握っておいてよかった。ハディンの来歴を見るとバークやボルド子爵とは対照的な人物だから。ある意味、ボルド子爵がこんな卑劣なまねをしたのも、軍事権が急に俺の手に渡ったからではないだろうか?

 まあ、軍事権が彼らにあったところで、このエイントリアンで特典を使った俺の武力に敵う者はいないが。


 *


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