「F2後継機問題 『日本主導』の開発は」(時論公論)
2018年11月30日 (金)
増田 剛 解説委員
こんばんは。ニュース解説「時論公論」です。
航空自衛隊の戦闘機F2の後継機開発をめぐる動きが激しくなっています。防衛省は、外国との共同開発を軸に検討を進め、海外企業が売り込みに力を注いでいます。一方、自民党の国防関係議員の間では、あくまで国産を模索すべきだという声や、共同開発の場合でも、「日本主導の開発」を求める声が強まっています。今夜は、F2後継機の開発方針をめぐる議論の現状と今後の見通しについて考えます。
解説のポイントです。
F2後継機に関して「日本主導」の開発を求める、自民党の国防関係議員の提言をみた上で、後継機の選定にあたって、外国との共同開発を念頭に、日本企業の参画を重視する防衛省の考え方をおさえます。
一方で、事実上、現時点で唯一の具体的な提案とされる、アメリカの軍需産業の案、アメリカ空軍のF22をベースにした案をみた上で、今後の議論の見通しを展望し、課題を考えます。
F2は現在、自衛隊が運用する唯一の日米共同開発の戦闘機で、2000年に部隊配備が始まり、これまでに94機が調達されました。
ただ、配備が始まってから20年近くが経過し、2030年代の退役が見込まれています。
このF2の後継となる将来戦闘機をどうするのか。新しい戦闘機の開発は、10年以上の期間がかかるといわれることもあり、この年末、新たな防衛計画の大綱と中期防・中期防衛力整備計画が策定されるのを前に、政府・自民党内で、議論が活発になっています。
今月15日、自民党の国防議員連盟は、F2後継機について、次期中期防に速やかに開発に着手する方針を明記し、取得方法は、日本主導・国内企業主体の開発とすることを強く求めるとする決議を行いました。
自民党の防衛大臣経験者らで作る研究会も、提言をまとめ、きのう、岩屋防衛大臣に提出しました。提言では、中国やロシアが空軍力を急速に高める中、自衛隊の戦闘機は既に量的には劣勢であり、このままでは、日本周辺の航空防衛に深刻な問題が生じるとしています。一方、将来戦闘機は、総額5兆円以上が見込まれる国家的プロジェクトであり、日本が主体的に戦闘機を開発・生産できる能力を保持することは、大きな抑止力になるとともに、技術先進国の条件だとしています。
その上で、将来戦闘機は、国産のエンジンを活用し、戦闘に使うソフトウェアなども含め、日本が主導権を確保して開発する。国際共同開発も有力な選択肢として、遅くとも2年後の2020年度には、開発に着手すべきだとしています。
自民党の国防族議員の間で広がる「日本主導の開発」を求める声。
背景にあるのは、このままでは、国内の戦闘機開発の技術基盤が失われるという危機感です。
これまで日本の防衛産業は、F2をアメリカと共同開発したほか、アメリカ製のF4やF15のライセンス生産を通じて、戦闘機に関する技術を蓄積してきました。しかし、現在は、F35の最終組み立て作業を担うのみです。こうした中で、F2後継機の計画が外国企業の主導になれば、日本は今後数十年間、本格的な戦闘機開発から遠ざかることになります。関連企業の撤退や技術者の減少に歯止めがかからず、国内防衛産業の衰退は避けられません。
一方、防衛省は、この問題にどう対応しているのでしょうか。
岩屋防衛大臣は、F2後継機の開発方針について、国内開発、国際共同開発、既存機の改修ないし派生型という3つの選択肢を挙げた上で「共同開発であれ、派生型であれ、国内企業がどのくらい関与できる可能性があるかということは、よく見ていきたい」と述べました。
この発言から読み取れるのは、防衛省が、外国との共同開発を軸に、日本企業の参画が、どの程度、認められるかという観点から、検討を進めているということです。戦闘機開発には、数兆円もの巨額の予算がかかります。国産、つまり、開発費を全て日本が負担することになる国内開発という選択は、現実的でないと考えているのでしょう。
加えて、関係者の熱意がどうであれ、戦闘機の開発実績が乏しい日本企業のみの開発は、技術面や能力面で不安が残るのも事実です。
防衛省はすでに、アメリカとイギリスの軍需企業3社から後継機に関する提案があることを明らかにしています。提案の中身は公表されていませんが、私が関係者に取材したところでは、このうち、ロッキード・マーティン社が、アメリカ空軍のF22戦闘機の機体をベースに、日本が既に導入を始めているF35の電子機器を搭載するとした、F22とF35の混合型の戦闘機を提案しています。
F22は、敵のレーダーに探知されにくいステルス性と、超音速での巡航飛行能力に優れ、専門家の間で、現在、「世界最強の戦闘機」と評価されています。
このF22に、最新のF35の情報ネットワーク・戦闘システムを搭載し、敵機の探知能力や味方との交信能力を高めるというものです。
日本企業に開発・生産の分担比率を50%以上認めるとしており、日本製のレーダーの採用や、将来的には、エンジンの生産を日本企業に移すことも視野に入れているといいます。
日米同盟の強化につながり、「日本主導の開発」にも見合う案ではないかと、評価する意見もありますが、その一方で、自民党などからは、「日本企業の参画が認められても、中核はアメリカ企業が担い、結局、アメリカ主導になるのではないか」と、懸念する声が出ています。
また、コスト面の問題もあります。構想段階の試算ではありますが、1機当たりの価格は、全体で70機の生産なら240億円。140機の生産なら210億円といわれ、現在、日本が導入しているF35の153億円を大きく上回ります。
一方、予算の鍵を握る財務省は、開発費の高騰を警戒しています。
戦闘機開発は、国産であれ、共同開発であれ、数兆円の予算が必要とされる上、開発の過程で、当初見積もっていた費用が膨らむことも、ままあるからです。
財務省の一部からは、「既存のF35を買い増して改良する方が現実的ではないか」という意見まで出ています。防衛費の膨張を抑えるためには、開発そのものを見送るべきだという考え方です。
F2後継機をめぐっては、政界・官界・産業界、それに海外企業の狙いや思惑が入り乱れ、現時点で、明確な方向性は定まっていません。しかし、これまで自衛隊がアメリカ製戦闘機を導入してきた歴史や、アメリカ軍との相互運用性を重視する現場の意向、さらに、アメリカ製装備の購入圧力を強めるトランプ政権の姿勢を考え合わせれば、F2後継機は、アメリカとの共同開発を軸にする中で、日本企業の参画の幅をいかに大きくするかという方向で、議論が収斂されていくと思います。
ただ、ここで私たちが忘れてならないのは、主権者・納税者としての視点です。戦闘機開発は、巨額の費用がかかるわりに、実態が見えにくいものです。政界や産業界で、将来戦闘機への期待が先行しているようにみえる中で、私たちは、日本の安全保障環境に真に適合した能力とは何かを、費用対効果や、専守防衛の理念との整合性も含めて、冷静に考え、議論を深めていく必要があります。
(増田 剛 解説委員)