日本男子が天使!? 外国人女子にモテるも、やがて……
「おれ、こんなにモテたのって、初めてかも」
自慢げに話すのは、ベルリンの大学院に通う啓介(ドイツ文学専攻/25歳)。日本で5年も付き合った彼女にフラれ、傷心旅行ならぬ傷心留学にやって来ました。季節は秋になりかけの9月。ベルリンは日が暮れるのも早くなり、どんよりとした空に気持ちがふさぐよう。
「まだ元カノのことを引きずっていたし、日本人のオトコなんて外国の女子に見向きもされないと思っていたから、本当に暗い冬を迎える……はずだったんだけどね」
■傷ついた僕の前に現れたブロンド女子
友達も出来ず、日本語が恋しくなった啓介は、あるとき大学の日本語学科の授業を聴講しに出かけました。これが運命を切り開くきっかけになるとはまだ知らず……。
「僕は単に聴講のつもりだったから、グループワークには参加しないで端の方にうつむき加減に座っていたんです。でも、なぜか熱い視線を感じる。顔を上げて見ると、窓際に座っていた女の子が、僕にほほえみかけるのですよ。ブロンドの女の子が! 今でも、光輝くあのシーンは心に残っています」
そのブロンド女子こそが、啓介の外国人初カノとなるユリア(学生/22歳)です。「宿題を教えてほしい」と家に招かれ、その夜には恋中に。暗いベルリンの空から舞い降りた女神! 啓介のハッピーライフが始まりました。
「でも実は、ユリアとは2カ月で別れることになったんです。別に好きな人が出来てしまって……。彼女はとてもかわいらしかった。でも、漫画に傾倒してコスプレに凝っていて、天使の羽根がついたリュックを持っているとか、僕としては引いてしまう場面もあった。天使は、やっぱり妄想の世界にとどめておいてほしいかな」と啓介。
■日本では「キモい」が海外では「ラブリー」に
そんなぜいたくを言っている啓介の身長は、外国ではかなり低い方の170cmほどでひょろっとしたやせ形。髪は長め、オトコらしいというよりは、中性的な雰囲気が漂い、日本人から見ればお世辞にも「かっこいい」イメージではない。
事実、元カノに「アンタ、髪切りなさいよ。キモい。ただでさえ女っぽいんだから!」と言われていたと言います。
しかしガイコクジン女子のハートには、ヒットした模様。
日本語学科に通うマリーナ(27歳)、カティア(23歳)に意見を求めると、
「漫画に出てくるような、少し女っぽい顔の日本人男性に魅力を感じるわ。日本の男性はドイツ人に比べて口調が穏やかで人あたりがソフトだから、なんだか天使ちゃんみたいに思うのよ(笑)。外見で言えば、漫画の『NARUTO』のウタカタとか、最高よね!」と、日本男子のことをラブリーだと口をそろえます。
■「日本語、教えます」の張り紙で即、恋がスタート
ドイツのお隣、フランスでも日本の漫画は大人気で、「クール・ジャパン」ともてはやされています。漫画の世界を現実世界で体験したいと、日本人街のラーメン屋さんには行列が出来るほど。日本語を学びたい人も多く、「日本語を教えます。代わりにフランス語を教えてください」というはり紙から発展する恋も多いとか。隆(ワーキングホリデー/26歳)もそのうちの一人です。
「ことばを覚えるには、その国の人と付き合うのが一番だっていうよね? 日本の書店や、日本語学科のある大学に『日本語、教えます』という張り紙をすると、すぐに電話がかかってくるといううわさを耳にしたんだ。もし女性から連絡があればラッキーと思って写真付きのはり紙を出したんだよ」
しばらくして、1本の電話がありました。
「モシモシ、ワタシ、カミ、ミタ」
つたない日本語で電話をしてきたのは、まだ10代のマルティーヌ。独学で日本語を学んでいるという彼女は、日本語を話す相手を探していたと言います。心躍る隆――。
「次の日にすぐ会う約束をしちゃったよ。しかも会ってみると、チャーミングな子でびっくり。栗色で少しカールのかかった長い髪が、いかにも外国人って感じで。年齢が離れすぎているのが気になっていたんだけど、あんなかわいい子のアプローチを断るバカはいないだろ」
友人たちには「浮かれすぎ」と忠告されながらも、マルティーヌとの甘い恋が始まりました。
■かわいいお顔が一変!
そんな中、隆は友達の龍之介(アーティスト/31歳)が一年前に掲示版で知り合った日本オタクの女性とトラブルになる場面に遭遇しました。龍之介の彼女は漫画オタクで、かなりのコレクターでもあるとか。
隆は彼らについて、
「龍之介も絵を描くので、付き合い始めは楽しく過ごしていたんだ。でも、仲が深まるにつれて見えてきたのは、モノに対する執着心だったらしい」と言います。
そして、
「龍之介が『距離を置こう』という話をしたあとで開いた個展に、彼女が殴り込みに来たっていうわけ。しかも外国人って顔のパーツが大きくてくっきりしているからか、怒り狂ったときの表情はものすごい迫力だって。あれはコワかった~って半泣きだったよ」
■お嬢さん、天使の国なんてありませんよ
この事件以来、隆には自分の彼女に対してもある疑問がわくようになりました。
「デートでは、いつも日本人街へ出かけて漫画を読むとか、日本のスーパーで買い物をする、というパターン。
まだ10代だし、当初は自分の国をそんなに好きでいてくれるんだってうれしかったけど、だんだんと執ようさが見えてきて違和感を覚えたんだ。おれに恋しているというよりも、想像のジャポンに陶酔しているんじゃないかなって……」
それを決定的にした事件が起こりました。マルティーヌが突然、髪の毛を黒く染めて隆の前に現れたのです。そして、
「私、東京に留学することに決めたの。天使の国で余生を楽しむわ。一緒に日本へ帰りましょう」
と宣言され、びっくり仰天。
「余生って、まだ青春も知らないお嬢さんでしょ。何を言ってるんだよ、よく考えたのか? 東京は天使どころか、悪魔しか住んでいないような町だぞって言ったのですけどねぇ」
そんな隆の反応に、マルティーヌは傷つきます。
「私は隆の写真を見たときから、この人といっしょに東京で過ごしたいって思った。ほかの人に取られたくないから、はり紙ごと家に持って帰ったの!」
わんわん泣きはじめた黒髪のマルティーヌを見ながら、隆は不思議と冷静でした。
「彼女が張り紙を持って帰ったから、ほかの人から電話がこなかったんだー、なんてことを考えていました。結局おれも、マルティーヌから漂うフランスの雰囲気に引かれていただけなのかな……」
空想の世界を描いた漫画がヒットする中、現実にもそのワールドを求めてしまう乙女たち。彼女たちにとって日本男子は、夢の世界をリアルにするために必要な存在なのかもしれません。
ガイコクジン女子にモテちゃうあなた、モテたいあなた、彼女たちの妄想ごっこに振り回されないよう、心得ておく必要がありそうです。
(蘭 景 × ユンブル)
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