008
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ランドールを前にして、俺は[大通連]を装着した。効果時間は30分!
[長谷川 龍一 / エイントリアン・エルヒン]
[年齢:25歳]
[武力:58+30 (88) ]
[知力:??]
[指揮:??]
武力数値が跳ね上がる。58の下級武力が一瞬にしてB級の最上位に変わってしまった!
俺はベンテを完全に押し退け、飛んでくる敵の槍に向かって[攻撃]コマンドを実行した。大通連を持つ俺の手がひとりでに動いて敵の槍をことごとく振り払っていく。
カァアアアーン!
指先に感じるわずかな痺れ。むしろそれが快感となって伝わってきた。B級超えの敵の攻撃をこうも簡単に阻止できたのだ。
「なぬっ?」
当然、ランドールは信じられないという顔で首を傾げた。すると、半狂乱になって我が軍の兵士をやみくもに屠戮しながら俺に向かって走ってくる。憤慨した武力85の武将に敵う兵士などエイントリアンにはいない。たとえ十人隊長や百人隊長であっても。
「うあああぁぁあ! ばっ、化け物だ。助けてくれー!」
ただ槍を投げつけただけなのに、一部の兵士は逃げているところを串刺しの如く槍で突き抜かれて一気に死んでしまった。ついには、恐怖のあまり小便を漏らしながら逃げる兵士まで出てきた。
「領主! 逃げてください! やつはナルヤの十武将ランドールです! 残忍なやつです、逃げてください!」
その時、罠の向こうからハディン隷下の百人隊長が俺に向かって叫ぶ声が聞こえた。どうやらハディンがランドールの存在に気づいた模様だ。やはり、やつは名高い武将だった。それなら、なおさら都合がいい。今こそ、逃げ出す我が軍の脳裏に領主の威容を刻み込む時だ。
「十武将だろうが何だろうが、俺が相手する!」
威勢よく叫びながらランドールの元へ馬を走らせた。ランドールの武勇を目の当たりにした全員がそんな俺を無謀だと思っていたその瞬間。俺はついにやつと衝突した。
「卑劣な手を使うとはな。生意気なやつめ! 即殺なり! クッハハハハハッ!」
ランドールは俺のことを嘲笑しながら思いっきり槍を振り回した。かなり重量がありそうな鉄槍を何のことなく振り回すランドール。大した自信だ。そして、確かに自信相応の実力は兼ね備えていたが、今の俺に敵うはずはなかった。
大通連を握りしめて[攻撃]コマンドを実行すると、ランドールの凄まじい槍と俺の剣が交錯した。
一撃で殺すといわんばかりの勢いで槍を振り回したランドールは、またもやありえないという表情で続けて攻撃を仕掛けてきた。もちろん、俺は[攻撃]コマンドを利用してその攻撃をすべて受け止めた。
白兵戦では武器が長いほど有利だ。だが、武力数値は俺の方が高い。それに俺の武器は超特級だ。その結果、ランドールは少しずつ俺の攻撃に押され始めた。戸惑った様子がそのまま顔にあらわれたランドールは気合を入れて槍を上から下に振り下ろした。
「死ね、死ねっ、死ねーっ! よくも一介の領主なんかがこの俺を!」
その攻撃もまた[攻撃]コマンドで阻止した。俺が優勢であることは確かだったが、今のところは平行線だった。やつは攻撃に押されていたが、俺も止めを刺せずにいる状況。そうこうしている間に30分の制限時間が過ぎたら俺の命はない。
[破砕]
[振り回した時に触れたものすべてを切り裂く。]
[自分の武力数値に+5までの敵に限り一撃必殺か気絶を適用できる。]
[30分に1回使用可能]
ならばスキルだ。今の俺には武器スキルがある。大通連を使う時にだけ使える武器の固有スキル。
自分の武力数値に+5までの敵を一発で殺せるスキルだ。さらに、殺すか気絶させるかを選べる機能までついていた。本来、一撃必殺の類のスキルには敵を殺す機能しかなかったが、今回この機能が備わったのには理由がある。このゲームの最終目的はどうやら戦争と世界征服だ。そのため、気に入った敵を生け捕りにして登用できるよう、つまり人材登用を楽しむためにゲーマーたちが運営に要求した結果、適用されたのがまさにこの[気絶]機能なのである。
その要求はこの現実の世界でも忠実に反映されていた。
そして、この[破砕]が恐ろしいのは、なんと自分より武力数値が+5にもなる敵を一撃で殺せるということだった。
もちろん使用できるのは30分間で1回だけ。だから、強い敵が二人いれば意味がない。だが、このスキルのおかげで戦場を練り歩くことができた。命を繋ぐ大きな防御膜だから。
特典があるから戦争を乗り越えられるわけで。そうでなければ、とっくに死んでいただろう。ククッ。
ランドールの登用は頭にないため、俺は一撃必殺を心に決めて[破砕]を使った。
シュッ!
その瞬間、俺の手がランドールに向かって大通連を投げつけた。飛んでいった大通連は白い閃光と共に敵の槍を粉砕すると、そのままランドールに突き刺さった。
「なっ、なぬー!」
戦場での油断。そして慢心はなおさら禁物だ。大通連は強烈な勢いでそのままランドールの頭を貫通してしまった。
そして、断末魔の叫びと共に頭からは血が噴水のように吹き上がった。厳然たる殺人だったが、自分の意思で振り回した剣ではない。[破砕]コマンドが引き起こした殺人とでもいおうか。
それに、ここはゲームが現実になった世界。そして戦場。戦場で殺人を躊躇うことほど無謀なことはない。そう、ただのゲームだと思えばいい!
ランドールの体はすぐに馬から転げ落ちた。ドスンと音を立てながら体が地面に落ちた瞬間、周囲は静けさに包まれた。我が軍はもちろん敵軍までもが、まさかという顔で口を開けたまま戦いを中断してこっちを眺めていた。ランドールがこんなふうに死ぬとは誰も思っていなかっただろう。
まさに今だ!
敵の気勢をへし折れるのは。
敵の士気が完全に下がった今がチャンスだった。
「何をしている! 指揮官は死んだ! 敵軍を片付けろ!」
呆然と瞬きを繰り返す我が軍に向かって腹の底から叫ぶと、
うおおおおおおおおーっ!
我が軍の喊声が上がった。
[士気が90になりました。]
士気が90を突破した我が軍の兵力は大きな喊声を保ったまま敵兵に向かって突進した。衝撃に包まれた敵軍は指揮官を失って右往左往どうしたらいいかわからず退却し始めた。
この退却を待っていた。おとなしく帰らせるつもりはない。
「ベンテ、もう一度狼煙を上げろ。待ち伏せ攻撃、第二弾だ!」
「いよいよですか!クッハハハハハッ!」
ベンテが満足げな顔で狼煙を上げるために走って行った。間もなく、ベンテの狼煙が空高く上がるのが見えた。ハディンがこの煙を見た瞬間、逃げていた敵軍はさらに混乱に陥るはず。
システムの助けはあったが、現実の戦争で確実に勝機を掴んだ瞬間!
何より最も貴重な戦利品は今日死ぬはずだった運命を変えて生き残った俺の命。
俺はその事実に興奮し始めた。
ただのグラフィックスからなるゲームとは比べものにもならない緊張感。そして勝った時の興奮。
特典とシステムがあるから世界征服も夢じゃないという、そんな高揚感が俺を埋めつくしていた。
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士気も戦列も崩壊した敵軍は山の中で前進せずに後退を始めたせいでむしろ甚大な被害を受けていた。俺は我が軍に最後まで追撃させた。そんな敵軍が完全に国境を越えて逃げて行くころには朝になっていた。
俺は兵営への撤収命令を下した。そして、兵士たちに休息を命じてから領主城に戻ってくる頃には正午だった。
俺はメイドたちと侍従長に起こさないよう命令した後、寝室に入ってさっそくレベルアップを確かめた。
[戦闘で勝利しました。]
[戦闘勝利の経験値を獲得しました。]
[獲得経験値一覧]
[戦略等級 Cx1]
[3倍の敵軍を相手に勝利 x3]
[E級からB級の相手に勝利 x4]
戦略等級は戦闘でどれだけ効率的な戦略を実行したかを意味する。それがCだと? これよりも優れた戦略があったのか?
C級ではなくA級。いや、S級を望むゲーマーたちには我慢ならないだろうが、これは俺の命がかかった現実だ。どうせやり直す方法もない。
だから俺は満足だ。
兵力が3倍にもなる敵軍に勝ったこと、そしてランドールを殺したことが今回の経験値のプラス要因になった。
それはつまり、レベルアップに必要な経験値の算定時には、大通連を使っても+30になった武力ではなく、本来の俺の武力58で計算されるという意味だ。自分より強い相手に勝ってこそ、より多くの経験値を稼げるのがこのゲームの基本ルール。特典のおかげでかなりの経験値を稼げた。
[レベル2になりました。]
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[レベル8になりました。]
レベルは8まで上がった。
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ヒロインはいます。前作もそうでしたが、私の小説はヒロインが後から登場します。読み進めていただければそのうち出てきます。