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AINOW編集部のまさおです。
2019年は、統一地方選挙や参議院選挙が控える選挙イヤーです。AIやIot、ビックデータなどのテクノロジーと絡めた選挙公約等も気になりますが、
遡ること、2018年春。実は【政治×AI】という分野で注目すべき出来事がおきていました。
なんとロボットが「多摩市長選挙」に立候補したのです。「人工知能が多摩市を変える」というキャッチコピーを掲げて、街を駆け巡る姿は私たちに馴染み深い「選挙運動」とは一味違ったものでした。
もちろん本当にロボットが立候補したわけではありません。実際に立候補したのは「松田みちひと」さん。残念ながら当選には至りませんでしたが、それから8か月…
彼らは次の統一地方選挙に向けて「AI党」として数々の秘策を、準備していました。AI党の問題意識や、具体的な政策はどのようなものなのでしょうか。
今回はそんなAI党から、2018年の多摩市長選挙候補者松田道人さんと、選挙対策本部長の加藤慎介さん、エンジニアの鈴木光晴さんにインタビューをしてきました!
①松田さんの経歴と出馬のきっかけ
ーー松田さんの経歴を聞かせてください!
松田さん:これまでは、電子書籍やブロックチェーンのアプリケーション開発や、裁判になったファイル共有サービス、電力会社、韓国財閥の日本法人代表や、海外でFXの相場と連動させた仮想通貨(暗号資産)の開発、経産省のエネルギー関連の標準化委員、花鳥風月ファイティングクラブ(プロレス団体)の練習生などをやってきました。
ーーどのようなきっかけで今回の出馬に至ったのですか?
加藤さん:元々今の政治に対する不信感に問題意識がありました。そこでAIというキーワードで、世の中を変えていくという手段・きっかけとして立候補を選びました。
政治には、国政や地方政治などたくさんのレイヤーがあります。急に国政を動かすのは難しいので、地方から成功事例を作っていきたい。
高齢化という意味で、日本の問題の典型になっている。それでいて、松田の出身地である多摩市に目を付けました。また、本人はあまり言いたがりませんが、もともと、松田の母親が多摩市役所で働いていたので、松田が子供のころ市役所に遊びに行ったりしていたらしく、あの建物そのものに愛着があったというのもたぶんありますね。
②AI候補としての公約について
ーーAI党は、ユニークな公約を掲げていらっしゃいました。このような政策にできることや、現段階で取り組んでいることはありますか。
松田さん:立候補時に掲げた公約について、当選して政治家にならなくてもできることが多かったので、民間でできることをやっています。
まず、AI自動走行の推進、交通空白地帯の解消については、私たちではありませんが
東京都とソフトバンクの関連会社が実証実験を開始しました。多摩ニュータウンは車道と歩道が分離されているので、接触事故の危険がある自動運転の実験がやりやすいんですね。
そもそも歩行者が少ない原発事故による帰還困難地域である「福島県浪江町」や、車道と歩道が分離されている「多摩ニュータウン」などは物理的に自動運転がやりやすかったんです。福島県浪江町で自動運転実証をやっている会社の社長からも社会的意義や内情を聞いていたことから、公約に入れたんです。
次に、暗号資産(仮想通貨)「多摩コイン」については、2019年中に実証実験という形で6店舗で決済として活用できるように準備を進めています。(実証参加予定店舗:「たまねこカフェ」、「居酒屋 たま泉」、「ホルモンすず」、「中沢整骨院」「不動産賃貸管理(有限会社樹心)」など)
多摩コインは地域内の消費を増やすことで、地域経済の活性化につながるでしょう。現金のように貯蓄に回ることもなく、他のエリアにも出て行かないので地域内の消費が増えますね。法規制の問題がクリアになれば、日本円との変動相場を持たせる形で発行してキャピタルゲインとして地域財源や市民の資産価値のUPに繋がることを期待しています。地方行政の枠を超えますが、最終的には他エリアの地域通貨や法定通貨との交換所(取引所)があると便利だなと思っています。交換所がなければ一般消費者への普及は難しいからです。
キャピタル・ゲイン(capital gain)とは債券や株式、不動産など資産価値の上昇による利益のことを言う。購入価格(から購入経費を差し引いた額)と売却価格(から売却経費を差し引いた額)の差による収益(ただし一般事業の仕入れと販売のような流動性・反復性の高い物は含まない)で、資本利得、資産益と訳せる。出典:Wikipedia
ーー「N 副市長の更迭」についてはいかがですか?(笑)
松田さん:N 副市長はすでに退任されましたし、その後、下水道事業で不適切な発注を行ったこと等の責任を指摘されて、給与の一部を自主返納したので、私の公約は達成されたと思っています。
市議会議員のみなさんも、市議会の役割を軽んじた多摩市政に抗議したので、思いは私と一緒だったのではないでしょうか。できれば副市長が辞める前に抗議してほしかったですが。
ーー多摩市政には問題が多いのですか?
松田さん:保育園への「市職員の子」優遇問題などを見ても、お飾りの市長よりも生え抜き職員TOPや黒幕と呼ばれる方に権力が集中してしまう傾向があります。2002年には当時の市長が収賄容疑で逮捕されました。その出直し選挙で当選した市長も2期で引退しましたが、諏訪二丁目団地建立替問題を事件化させないための「取引」による引退だったとも言われています。
国政と比べると、地域メディアや公監査の追及がゆるく不正がバレにくいという点では、どの地方行政も同じ問題を抱えているといえるでしょう。今回、副市長が変わったので、黒幕が他にいなければ短期的には良い方向に向かうと思いますが、構造は変わらないので数年毎に同じ問題が繰り返されるでしょう。
チャットボットについては、行政窓口への相談の時間的な制限をなくして、24時間365日対応可能にしていくことができます。もっと言えば、市民の意見を直接吸い上げてデータを集めることにも使えると思います。人間の議員は、自分の周りにいる人の話ばかりを聞いて、有権者全体にリーチできていません。
現在は、チャットボットとは違った形ですが、議員の評価サイトを準備しています。
ーー確かに今のAI技術でもできることは多そうです。そして、議員の評価サイトですか!
加藤さん:はい。議員の評価分析サイトも作成中です。
評価項目やウエイトを作成したうえで、議員の評価を計量化しようと思っています。
ーーどういったところが変数になるのですか? 変数の重みのつけ方などに批判が上がりそうですが。
加藤さん:まだ、開発途中なので形は変わっていくかもしれません。
現在では、議会の議事録をシステムに読ませて、その発言内容と公約を比較して評価をしようと思っています。
松田さん:もし、議会で発言はしていないけど「こういう活動を別の場でやっているんだ」という主張があれば、それは、新しい変数を認める契機にしていきたいと思っています。不正の温床となりやすい政務活動費についても評価、していきたいです。
ーー議会や選挙などで得られた変数やデータの蓄積をもとにAIで政策立案していくわけですね。
鈴木さん:AIによる政策立案に関する変数の重みのつけ方は、機械学習のモデルやプログラムを公開すれば問題なく運用できると思っています。
例えば、大学などの第三者機関が調査して担保してくれるようなことがあれば、批判の対象にはなりにくいです。
松田さん:選挙は、変数の係数・重みを決めるものだと考えて良いのではないでしょうか。
有権者が「何を重視したいのか」を決めるものと考えていいと思います。今の選挙は単なる人気投票になってしまっていますから。
ーーなるほど。
松田さん:AIの話になると必ず出てくるのがトロッコ問題です。
何もしなければ5人が死んでしまうが、トロッコの向き先を変えれば1人だけが死に、5人が助かる。
正生さんなら、線路の向きを変えるスイッチを押しますか?
ーー ・・・・・・。
松田さん:人数が多い5人を助け、申し訳ないけど1人に犠牲になってもらうべきでしょうか?
その1人が国会議員だったら犠牲にできますか? 5人が男性で、1人が女性や幼い子供だったら?
1人が犯罪歴なしで、5人が犯罪歴のある方々だったら・・・?
5人の中にLGBTの方がいたら・・・?
このように、何が正解なのかは神様でもAIでもわからないことが世の中には多々あります。
しかし、現実社会では、誰にも正解がわからないのに水面下で根拠なく継続、実行されていることが多々あります。私たち有権者の知らないところで、たくさんのトロッコ問題が秘密裏に処理されているのです。
勇気のいることですが、トロッコの行き先を選んだ理由を市民に説明する義務が政治にはあると考えます。
ーーそのような考え方は今までになかった視点で面白いですね。
③政治とAIの相性について
ーー政治に対して、AIの入る余地はズバリどこにありますか?
松田さん:今の選挙の仕組みができた100年前は、メディアが電話くらいしかなくて、市民の声を取りまとめるリーダーが必要だったと思います。
現在は、国民のほとんどがスマートフォンを持っている時代です。政治家の数も多すぎるし、役割も変わってきています。たまに家にくる回覧板の役割が「情報伝達」から「安否確認」に変わったように政治家の役割や機能も変わるべきでしょう。
社会の在り方が変化している一方で、IT化が一番遅れているのが政治の世界です。
理由として、電子投票を認めると政界の勢力構造が変わってしまうから、わざと遅らせているのではないかと思います。
例えば、現在の固定電話による世論調査は属性が偏っている可能性があります。偏った調査結果に影響を受けた有権者が偏った政治家を選び、その政治家たちによって偏った政策が立案されている可能性があります。
そういったところを、AIで変えていくべきではないかと思っています。
加藤さん:そのためには、まず地方をモデルケースとして成功事例を作っていかなければなりません。
ーー確かに、政治や行政の分野にテクノロジーが浸透していないことは、しばしば言われますね。
松田さん:行政や企業の業務に対して、AIなどのテクノロジーの導入がなかなか進まない理由を長年考えてきたのですが、キーワードは「AIは仕事してるフリができない」です。
このようなことを言っては身もフタもないのですが、私も含めて、世の中のホワイトカラー労働力の半分が「仕事してるフリ」をするによって社会や経済活動が成立しているようなところがあります。
「AIによって人間の仕事が奪われる」とよく言われますけど、そもそも奪われる仕事が存在しないためにテクノロジー導入が進んでいない可能性があります。
人間は、資本家と労働者に区分されますが、先進国に生まれたラッキーな日本人や欧米人は、世界の労働者の中でも「資本家に近い場所にいる労働者」です。先進国の労働者は、労働収入だけではなく、資本家の金利や配当収入、不動産収入についても実は分配されていると考えるべきで、労働者なのに会社に行けば不労所得までもらえるラッキーな人たちなのです。近年の企業の利益は、労働力が生んでいるのではなく、ビジネスモデルが優れている、または「カネがカネを生んでいる」状態です。
そこで、不労所得に相当する分の「仕事してるフリ」が調整弁として生まれ、事実上、認められているんです。極論すると、ホワイトカラーはほとんどが「株式会社○○○○」のエキストラみたいなもので、そこにテクノロジーを無理やり入れようとしても、業務がそんなにないから業務効率化ができないんです。皆で「仕事してるフリ」の技術を切磋琢磨して競い合ってる世の中なのです。問題はそれがかなり難しく習得するまで15年くらいかかることなんですけれども。
社会全体で「仕事してるフリはやめよう」というコンセンサスが取れるようになると、いよいよベーシックインカム制度が始まるのだと思います。
ここで問題になるのが、会社員に続いて、政治家や公務員の「仕事してるフリ」「エキストラ化」が社会の調整弁として認められるかどうかですが、今回のテーマとズレるのでまた今度にしましょう。
ーー他に、今の政治について問題意識はありますか。
松田さん:フィルターバブルという言葉があります。
SNSや検索エンジンのアルゴリズムによって、自分の好きな情報に限定した情報が集まりやすく、自分とは異なる視点の情報に接する機会がなくなり、国民がパーソナライズされて、分断されていくということです。
フィルターバブルによって、反対意見を知ることなく自分の考えが正しいと信じ込む有権者が増加する社会では、議論や話し合うことの価値が低下するでしょう。ネトウヨ(ネット右翼)とパヨク(ネット左翼)がいくら話し合っても、結果を何も生み出しませんよね。プロレスとして観る分には面白いですが。
個別最適(分断された国民)と全体最適とのバランスを考慮した最適解は、話し合いが得意な人間の政治家ではなく、独裁者またはAIが先行して示していくいく必要があると考えます。
フィルターバブル (filter bubble) とは、「インターネットの検索サイトが提供するアルゴリズムが、各ユーザーが見たくないような情報を遮断する機能」(フィルター)のせいで、まるで「泡」(バブル)の中に包まれたように、自分が見たい情報しか見えなくなること。出典:Wikipedia
ーーなるほど。確かに、例えばTwitterのタイムラインでは、人によって全く違った情報が流れています。一方で人間にはどのような役割が求められますか?
松田さん:AIは、過去の前提が崩れると間違った答えを出しますよね。あるいは、一つの環境に過剰適応すると間違った判断をすると言われていますよね。いわゆる、AIの過学習です。
例えば、多摩市がお隣の府中市や八王子市と領土問題を契機に戦争することになったら、平和な世の中に過剰適応したAIは正しい政策を示せないので、人間の政治家の出番がくるのでしょう。
また、人を動かすためには、論理やルールではなく、松岡修造さん(元プロテニス選手)や故・星野 仙一さん(元プロ野球監督)のような熱量が必要になるときもありますが、AI は熱量を必要とするリーダシップが発揮できない。ソフトだけではなくハードも含めて、感情を物理的に表現できるドラえもんのようなロボットが出てくるまでは、熱量を視覚や聴覚で相手に伝えることができないために人間のリーダーが必要とされる場面もあるでしょう。
④AI党のビジョンについて
ーー今後AI党の活動予定は?
加藤さん:1月27日投開票の北九州市長選に出馬した秋武政道氏をAI党として推薦しています。
4月の統一地方選挙では、公認候補が出馬する予定です。
ーー今後AI党は、どのような社会の実現を目指していくのでしょうか?
松田さん:日本は、建前上は自由主義・資本主義の国です。
一方で社会主義・共産主義とも取れるような政策も行ってきたように思います。例えば、とても高い相続税や、石油などの価格統制、輸入制限等です。
このことは、欧米に比べて日本には特権階級・支配者階級がいないことからも感じられるのではないでしょうか。このように、建前と実情を曖昧にできることは、コンピューターに比べてアナログで記憶力が劣る人間ならではです。
しかし、政治家たるもの「清濁併せ呑む」という言葉に象徴されるような、二枚舌で矛盾が多い人間の政治家の対応には限界がきていると思います。人間による曖昧な対応とは、個別最適(1人1人の利益)と全体最適(国全体の利益)をうまく調整できなかった部分を美化しているだけではないのか。
あるいは、有権者の利益でも国全体の利益でもない、第三者最適ーー。例えば、アメリカの利益、財界(大企業)の利益など、しがらみを重視した結果、国民に説明できなくなった案件を曖昧にしているのではないか。
はたまた、「権力闘争はいつも政策の仮面をかぶっている。政治家にとっての政策はいつも政局の道具」(芹川洋一著『平成政権史』P162)と言われるように、そもそも自分たちの権力闘争のための政策だったのではないか。
そこにAIを活用いることで、個別最適と全体最適のバランス最適解を掲示し、有権者に不利なことも含めてすべてを説明した上で政策を実現していきたいと考えています。公開した上で間違えれば修正すれば良いのです。
「世の中、きれいごとばかりでは物事は進まない」「清濁併せ呑む」「大人の事情」について、なぜそうなのかを小学校6年生でもわかるように説明したいです。
ーーAIを利用した政治では、どのような論点が議論の対象になるのでしょう。
鈴木さん:社会的目標と制約条件(法や憲法、共通善など)がセットされれば、AI によって合理的で説明可能な政策の道筋を示せるのだから、いまの議会のような小さな議論が不要になります。
「どのような社会が理想なのか」という構造的で抽象的なことが政治の場でより議論されるようになってほしい。
政治はそれを明らかにする場所であるべきではないかと思っています。
終わりに
政治や行政の分野は、公文書の管理や低い投票率、猥雑な行政手続き等の問題を多く抱えています。そこに、AI等のテクノロジーが挑戦する意味は、非常に大きいと思います。
しかし、利害関係に大きく左右される分野でもあり、テクノロジーの浸透が遅れていると言われている現状があります。
今回のインタビューで、テクノロジーによって、社会の意思決定や行政的な手続きが効率的で滑らかになる可能性を感じました。
新しい政治の在り方にも注目するとともに、新しい政治を可能にする国民の意識を醸成していく必要性も感じました。
『空はまっさお、男は正生』
学習院大学で政治学を専攻中です。
AIなどのテクノロジーで変わる社会・人間・生き方に注目しています。