第九話:世界最強の暗殺者、護衛任務を開始する【八】
「……さすがにそれは、ご勘弁願いたいですね」
私立ロンドマルス高校は、ようやく手に入れた最高の環境。
こんなつまらないことで失いたくはなかった。
「さ、さぁ選んでちょうだい! 私と一緒に爆死するのか! それとも、お互いに秘密を握り合う共存関係になるのか!」
半分
その必死な表情と
「はぁ……わかりました。俺の弱みを教えればいいんですね?」
「……! え、えぇ、そうよ! とびきり恥ずかしいのをお願いするわ!」
九死に一生を得たアイリスは、嬉しそうにコクコクと頷いた。
「しかし、いざ真剣に考えてみると……『弱み』というのは中々に難しいですね……」
「そうかしら? 例えばほら、実はお化けが怖いとか。夜はぬいぐるみと一緒じゃなきゃ眠れないとか。こっそり自分を主人公にした夢小説を書いているだとか。人には言えない恥ずかしいことって、普通みんなあるものでしょ?」
「会長……もしかしてそれ、全部自分のことですか?」
「……あ゛っ」
盛大に墓穴を掘った彼女は、わかりやすく目をグルグルと回す。
「そ、そそそ、そんなわけないでしょう!? 今のはたとえよ! た・と・え!」
「まぁ、そういうことにしておきますね」
ルインは苦笑いを浮かべ、大人の対応で流すことにした。
(さて、と……。とりあえず、『人には言えない恥ずかしいこと』を考えないとな)
彼は目を伏せ、思考を巡らせるが……それらしきものは、中々見つからなかった。
唯一近しいものがあるとするならば――子どもの頃から胸に抱き続けている、あの『幼稚で無謀な夢』ぐらいだろうか。
「そう、ですね……。では、俺の夢なんかどうでしょうか? 自分で言うのもなんですが、少し恥ずかしい夢だと思うので」
「なになに? ぜひ聞かせてちょうだい!」
アイリスは目をキラキラと輝かせて、ググッと身を乗り出した。
「俺は……『正義の味方』になりたいんですよ」
「……え?」
「弱者が食い物にされない世界。正しいことがきちんと評価される世界。真っ当に努力してきた人が、ちゃんと幸せになれる世界。そんな世界を作りたいなと、子どもの頃からずっと思っているんです」
ここまで口にしたところで、ルインはふと冷静になった。
(……少し気を許し過ぎたか)
昨日初めて出会ったばかりの相手に、こんなことを話すなんて……自分でも信じられなかった。
何故かアイリスを前にすれば、どこか気を緩めてしまうところがあった。彼女との会話を楽しんでしまうところがあった。
(まさか、精神干渉系の魔法を……? いや、それは
ルインがそんなことを考えていると、
「正義の味方かぁ……。うん、かっこいいじゃない」
アイリスは荒唐無稽なその夢を馬鹿にすることなく、真っ正面からそう評した。
「まぁでも……。どちらかと言えば、ルインくんは悪人顔だけどね?」
「ふっ、確かにそうかもしれません」
二人は互いに笑い合い、和やかなムードが、打ち解けたような空気が流れ出す。
「ちょっと『弱み』とは違うけど……うん、まぁいいわ。なんかスッキリしたから許してあげる」
「ありがとうございます」
こうして全ての話が丸く収まったところで、アイリスは明日の予定を伝達する。
「それじゃ明日、午後の身体測定が終わったら、この生徒会室に集合してちょうだい。生徒会メンバーの
「えぇ、わかりました。――それでは、今日はこの辺りで失礼します」
ルインが小さく一礼し、クルリと反転したところで、
「あっ。ちょ、ちょっと待って……!」
アイリスから呼び止められた。
「はい、なんでしょうか?」
「えっと、あの、その……。これは念を押してのお願いなんだけれど……」
彼女は歯切れ悪く、口の中で何事かを言い淀む。
その頬はじんわりと紅潮しており、何やら羞恥を噛み締めているようにも見えた。
アイリスは短く息を吐き、拳をギュッと握り締め、そして――意を決したように口を開く。
「ぱ、パッドのことは……絶対、誰にも言わないよう、お願いします……っ」
彼女は上目遣いでルインの表情をうかがいながら、そんないじらしい願いを口にした。
ほんのりと赤みがかったその顔はとても可愛らしく、あのルインをして思わず息を呑み、
しばしの沈黙の後、
「……ふふっ」
彼は久方ぶりに笑った。
それは眉間に力の抜けた、柔らかく優しいものだ。
(……なんとも不思議な感覚だな)
こんなにも軽く、些末で、取るに足らぬ会話が――とても心地よく思えた。
暗殺貴族に生を受けたルインの日常は、血と死と暴力に満ち溢れていた。
自分が動けば、
自分が動かねば、なんの罪もない人間が死ぬ。
世界最強の暗殺者には、いつだって『死』が付きまとってきた。
しかし、今この一ページにおいてそれはない。
今この瞬間だけは、どこにでもいるただの学生ルイン=オルフォードとして微笑むことができたのだ。
「わ、笑った……。今……私の胸を見て笑ったわよね!? やっぱり、馬鹿にしているんでしょ! 『アイリス=パッド』とか、『ロンド平原』とか言って、心の中で
コンプレックスを盛大に
「いえ、そんなことは思っていません。それにご安心ください。あの件については、決して口外しないと約束します」
「ぜ、絶対よ! 絶対に誰にも言っちゃ駄目なんだからね!? 嘘ついたら、針千本だからね!?」
「えぇ、わかりました。ただ――そんなに心配なさらなくとも大丈夫ですよ。俺に、女性を辱めるような趣味はありませんから」
とにもかくにも――こうしてルインは生徒会に加入し、新たな日常を歩み出すのだった。
※とても大事なお話
これにて『第一章完結』。明日より『第二章開始』!
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